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 ここ最近、未来に不確定要素が多すぎて視るたびに映像が変わる。
 これは、どの未来もほぼ均等な確率でやってくるということである。
 その無数の未来の中、私達がハッピーエンドを掴み取ることができるのだろうか?

第289話 さよならの前に <<珠緒>>

 朝食を食べてからしばらく部屋でくつろいでいると、斉藤さんに呼ばれた。
 呼びに来た斉藤さんは湊大付属の制服に着替えていた。
「召還の準備ができたって。珠緒ちゃんも着替えてレナさんの部屋に集まって」
「ん」
 さすがにこの服のまま帰るわけにはいかない。
 この世界に来てからずっと持っていた制服に久々に袖を通す。
 たった数日のはずなのに、もう何年も着ていなかったような懐かしさを感じた。

 着替えてレナさんの部屋に行くと、室内には斉藤さんとレナさんしかいなかった。
「あ、珠緒ちゃん。早かったね」
 恐らく他の皆はのんびりと準備をしているのだろう。
 特に私が早かったわけじゃない。皆がルーズなだけだ。
「たぶんすぐに集まると思うから、座って待ってて」
 私は斉藤さんに言われたとおり、窓際の椅子に腰掛けて待つことにした。
 しかし、彼女の予想は外れる可能性が高い。占わなくてもわかる。
 少なくともすぐに集まるようなことはないだろう。

 窓から外を見れば、街全体が商店街のように人で賑わっていた。
 そんな人々の喧騒を上から見ているのは楽しかった。
 その実態は街の復興に向けて慌ただしく動き回っているのだけど……。
「シア村も……早く元に戻ればいいですね」
 その様子を私の後ろから見ていた斉藤さんがレナさんに話しかける。
「ええ、そのためにも早く村に戻らなきゃいけないんですけどね……」
 壊滅してしまったと聞いたレナさん達の住んでいた小さな村。
 おそらく私が復興したシア村の姿をこの目で見ることはないだろう。

「誰だっ!? 俺達の金を盗っていったのは!!?」
 田村君が息を荒くして部屋に駆け込んできた。どうやらお金を盗られたらしい。
 もうすぐ地球に帰るというのに、お金の心配をする必要なんてあるの?
「あ、それならたぶん結城さんよ。昨日、けっこう飲んでたみたいだから」
「あのアマ、なんちゅうことをしやがる……」
 私は昨日、あのあとすぐに寝てしまったが、皆はそれぞれ何かをしていたようだ。
 私としては皆で貯めたお金を使われても、そこまで気にはならない。
 地球での話なら怒りもしたんだろうけど……。

「ったく、土産を買う金も残ってねぇぞ」
「お土産って……何を買うつもりだったの?」
 この世界から地球に持って帰れるものなんて限られている。
 持って帰ってはいけないものか、持って帰ってもしょうがないものがほとんどだ。
 そんな中で何をお土産に選ぼうというのか。斉藤さんでなくても聞きたくなる。
「ほら、アレだよ。なんつうか、旅の思い出みたいな?」
 聞かれても困る。少なくとも私はお土産なんて持ち帰るつもりはない。
 早く忘れてしまいたいのなら旅の思い出も残すべきではない。

「やめとけよ。二度とここに来る気ねぇなら、な」
 いつの間にか高槻君が部屋の入り口に立っていた。
「高槻君、コリンさんとはもういいの?」
「別に気ぃ遣ってくれなくたってよかったんだぜ?」
 気を遣う? いったい何があったんだろう?

「私が呼びに行った時にね、コリンさんと話をしてたの」
 私の表情を読み取ったのか、斉藤さんが説明をしてくれた。
 自分でもあまり感情が表情に出ないタイプだと思っていただけに驚いた。

「何っ!? コリンさんっつったら、あの赤髪の人か!? お前っ、いつの間にっっ!!!」
「アホッ!! そんなんじゃねぇよ!!!」
 話をしていただけで、そっちの方面にもって行くのは早計だと思う。
 たぶん彼は高槻君が羨ましいだけなんだろう。
「どうかしらね。あの夜に何があったのかによるんじゃない?」
 結城さんが部屋に入りながら高槻君に反論する。
「盗み聞きたぁ、趣味悪ぃことするじゃねぇか」
「人聞きの悪いこといわないでくれる? あんな大声じゃ外に駄々漏れよ?」
 言い返すことができなくなった高槻君は舌打ちをしてベッドに腰掛ける。

「あら、皆集まってるのね。心の準備はできたってことかしら?」
 最後に風華さんが部屋に入ってくる。心の準備とはどういうことだろう? 
 何にしてもこれで全員集合だ。レナさんの部屋にこの人数は少々窮屈だった。
「皆さん忘れ物とかはありませんか?」
 全員が揃ったところで今まで黙り込んでいたレナさんが話し始めた。
「大丈夫よ。たいした荷物も持ってきてないから」
 皆の様子を窺ってから結城さんが答える。
「それでは始めましょう。皆さん、そこに集まるように立ってください」
 部屋の中心を指したレナさんに従い、私達は移動する。

「皆さんには、ご迷惑をかけてしまいました。
私がどんなに謝っても許してもらえるとは思ってません。
それでも、私には謝ることしかできません。本当にすみませんでした」
 レナさんが深々と頭を下げる。誰もレナさんを責めたりはしていないのに……。
「それでは、どうかお元気で……」
「ちょっと待った!!!」
 私達に向かって手をかざそうとしていたレナさんを高槻君が制止する。

「レナさん、俺達はレナさんを責めたりしてねぇ。むしろ感謝してる」
 その通りだ。地球に帰ることができるのは彼女のおかげなのだ。
 私達をこの世界に召喚したもの彼女ではない。
 そんなレナさんを責める理由なんて最初から何処にもない。
「ケンゴさん……」
「だからそんなに気にするこたぁねぇよ」
 高槻君はそう言いながらレナさんに笑いかける。
「ありがとうございます。その言葉だけで、私は……」
 レナさんは涙を隠すように手で顔を覆った。
 自分を責める必要はない。そのことを教えてあげられてよかった。
 私達の総意を言葉にしてくれた高槻君に感謝だ。

「あと、さ。コリンの奴なんだけど。アイツ……戸惑ってるだけだからさ。
いつも通りに接してやればアイツもきっといつも通りに返してくれると思うぜ?」
 ついでに言っているようだったが、こちらの方が本命のように聞こえた。

「はい……。それでは、始めますね」
 気を取り直して、レナさんは涙を溜めた目で私達に手をかざした。
「じゃあな、また会おうぜ!!」
 高槻君の別れの言葉を最後に、私達の視界は光に包まれた……。



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