当事者であり、元凶であるというのに口を出すことができない。 かなり辛い立場に立たされたわけだが、俺達は今日、地球に帰ることになる。 結果だけで言ってしまえば、この問題から逃げたことになってしまうんだろうな……。 はてさて、俺はいったい何をすればいいんだ? 今の俺にできることと言えば、レナさんに頭を下げることくらいだ。 コリンの奴を宥められるほど、俺は彼女を理解できちゃいない。 唯一俺にできること、レナさんに謝るためにはコリンの存在が邪魔だ。 結果として俺にはやっぱりやることはなく、黙って座っているしかないのである。 朝食前にコリンと一緒にレナさんのソウルウェポンの能力を聞かされた。 空間を司るソウルウェポン美空。その凄さは俺の選里とは大違いだ。 彼女がやろうと思えば、地球に戦争を仕掛けることすらもできてしまう。 そういうことを考えると、所持者が彼女で本当に良かったと思う。 こうして考え事をしているだけで時間は進んでゆく。 結城は席を立ったし、斉藤、田村、風華さんの三人は何やら話している。 柊は相変わらずのマイペースで食事を終え、カードで遊んでいる。 いい加減、この嫌な雰囲気をぶち壊してやりたくなるが、俺がやってもいいのか? ぶっ壊すのは簡単だ。テーブルを思い切り叩いて、やってらんねぇと叫べばいい。 そして皆があっけに取られている間に、文句をまくし立てて離脱する。 とても簡単だ。誰にだってできるくらいに簡単なことだ。 俺がどうやってこの場を離脱しようか考えていると、柊が静かに立ち上がる。 「貴女のことは、いずれ世界に知られることになる……」 誰に対して言ったことかはわからなかったが、たぶんレナさんのことだろう。 レナさんのことは世界に知られる。それは一種の英雄になるのか? 言葉の解説をすることもなく、柊は食堂を去っていった。 占い師ってのは、どうしてああも思わせぶりなセリフを吐くんだろうな。 信じさせるためだといっても、こりゃ一種の詐欺だぜ。気になって仕方ねぇ。 何にしても、これはチャンスだ。ここは柊に続いて俺も逃げてしまおう。 「ごちそうさん」 「え……」 声のした方を見てみると、コリンと目が合う。 (なんて目で見てやがる……) 俺の勝手なイメージだが、コリンは井上と同じタイプで強気な性格の持ち主だ。 しかし今、彼女のその目は捨てられた子犬のようにも見えた。 いっそ睨んでくれりゃ何の躊躇いも無く、食堂を去れるんだが……。 俺はコリンの様子に後ろめたさを感じながら食堂を後にした。 もし、席に戻っていたら、もう立ち上がることはできないと思ったからだ。 食堂を出てすぐに大きく深呼吸をする。全身が軽くなったような気がした。 最近はああいう重い空気の中に身を置くことが多すぎる。 けっこう気楽に生きてきた俺の人生が、ここにきて大きく変わりだしている。 「ま、そこまで壮大な話でもねぇか」 ぶっちゃけ選里を手に入れても俺の人生に大きな影響はない。 俺自身の考え方が変わらない限り、俺は進むべき道を選ぶだろう。 よし、部屋で帰る時間までおとなしくしていよう。いつ帰るのかは聞いてないけどな。 どこかに出かけたりしようものなら、また妙なことになりかねない。 俺は自分人生が巻き込まれ型であると認識している。そう外れちゃいないだろ? そうじゃなけりゃ、俺がこんなところにいるわけねぇんだから……。 「自分で道を選ぶ時なんて、たまにあるくらいでいいんだよ」 多数決は多数が勝つし、短いものより長いものに巻かれる。 そんな流れに乗ってるだけの奴等がほとんどだ、俺を含めてな。 どうやら、それが俺達が生まれ住んでいる国の民族性らしい。 くだらない考え事は連続してドアを殴る音によって遮断された。 「ケンゴ!! ねぇ、ちょっと、いるんでしょ!?」 コリンだ。部屋に来るだろうことを予想していなかったわけじゃない。 ただ、来るにしてもこんなに早いとは思っていなかった。 (こりゃ相当テンパってるな……) ノックの音から必死さが伝わってきて、笑いを誘うがなんとか堪えた。 「……いないの? ケンゴ? 開けるわよ?」 そろそろと扉が開き、コリンが顔を覗かせて、俺と目が合う。 「ようこそ俺の部屋へ。ご用件は何でしょう?」 「やっぱりいるんじゃない!! 返事くらいしなさいよ!!」 俺の姿を見るや否や凄い剣幕でまくし立ててくる。 やはりコリンは食堂から離脱した俺に相当腹を立てているらしい。 「なんで行っちゃうのよ。目で合図までしたのに……」 (あ〜、あれってアイコンタクトのつもりだったのか) それならウインク一つで済むと思うのは俺だけだろうか。 それに、あれはアイコンタクトですらない。表情ですべてを語っていた。 「悪ぃ、そりゃ気付かなかったわ」 「嘘ね」 「ああ、嘘だよ」 もともと騙しきれるなんて思っていなかったので即答する。 「だって、俺があそこにいても何もすることねぇじゃん」 「だからって逃げることないでしょ!?」 いや、まぁ、逃げたと言われちゃ言い返すこともできないな。 離脱したんだ、という言い訳もシャレで済みそうにない。 「私だってレナ姉さんと何話したらいいのかわからないのに……」 「何って、お前、普通にいつも通り話せばいいじゃねぇか」 レナさんが覚醒者だからって、それで性格が変わるわけじゃない。 言ってしまえば、コリンが勝手に戸惑ってるだけの話だ。 「レナさんが召喚士だからって、身構えるこたぁねぇだろ?」 「それは……そうなんだけど」 コイツも自分が気にしすぎているだけだってことをわかってるはずだ。 「それともお前、覚醒者を差別したりしてんのか?」 「してないわよ。魔法使いだって似たようなもんなんだからするわけないでしょ」 言われてみりゃ覚醒者なんてのは魔法使いと似たようなもんだ。 覚醒者は魔法の代わりに能力を使う。それだけだ。 「俺達があっちへ帰ったあと、レナさんと二人きりになることもあるぜ。 それでもお前はさっきみたいに何も話さないで黙り込んでるつもりか?」 「…………」 たぶん、レナさんは悲しむぜ? 自分が覚醒者で召喚士だからだってな。 それを一番恐れていたからこそ秘密にしていたんだろうよ。 だったらコリン。お前が取るべき態度は普段通りにすることじゃねぇのか? 「言いたいことはいろいろあるけどよ。これだけは言っとくぜ?」 トリガーを引いたのは確かに俺だ。だけど弾がどうなるかなんて知ったことか。 飛びたいように飛べばいい、銃弾に意志があるのなら……。 「自分がどうすべきかくらい自分で選んで自分で決めろよ」 だから俺は、助けを求めに来たであろうコリンを徹底的に突き放した。 |