明日のために寝ろと軽く脅したが、素直に寝たのが田村君と珠緒ちゃんだけとは……。 つくづく困った子供達だが、それぞれ気持ちの整理はできているようだ。 だから……まぁ、よしとしておこう。 健吾君と有香ちゃんの戦闘が終わったことを風が伝えてくれた。 (ん〜、なんというか……これは有香ちゃんの反則勝ちね) 風は音しか伝えないが、経験からだいたい戦闘の経緯は予想できる。 「さて、人払いも済んだことだし、本題に入りましょうか」 「わざわざすみません」 「気にしなくていいわよ。貴女が美空のことを村の人達に隠してるのは知ってるし」 律儀に私に向かって頭を下げてくるレナは本当に礼儀正しい娘だ。 知られたくなかったから焦っていたんだということも私にはわかっていた。 「でも、ジートさんには知られてしまいました……」 「……じゃあ、知れ渡るのも時間の問題かもね」 別にジートの口が軽いと言っているわけではないんだが、隠し通すのは難しいだろう。 こういう秘密は一人目に漏れると、どんどんと連鎖で漏れてしまうものだ。 「やっぱりそう思います?」 「ええ、残念ながらね」 本題に入る、と言いながらも他愛もない会話が続いている。 避けたいと思っているわけでもないんだけど、なんとなく話しづらいのだ。 レナもそう思っているようで、会話はなかなか本題に入らない。 「なんでこんなことになってしまったんでしょうね?」 それは私が聞きたい。こんなことにならなければ、と何十回も思っている。 私は決して現界なんてしたくなかったし、そうなることはないとも思っていた。 雄二にあんな力があるなんて、まったく気付きもしなかった。 この戦争の被害と言えばクェードの小さな村々と雄二が私と入れ替わったことくらい。 (ただ……この程度で終わるとは思えないわね) あのコピー能力を使う奴は、自分の能力の効果的な使い方もわかっていなかった。 言うなれば、生まれたばかりの赤ん坊のような戦い方だ。 もし、奴が戦いに少しでも慣れていたとしたら、私ももう少し苦労しただろう。 「もしかしたら、私の力は災いを招く力かもしれません……」 「あら、どうして? いい能力じゃない」 「でも……本来、繋がるはずのない世界を繋げてしまう力があっていいんでしょうか?」 レナはずっとこのことで悩み、苦しんでいたんだろう。 覚醒者には自分の目覚めた能力を望む者もいるし、望まない者もいる。 「いいのよ。世界がそれを認めているんだから」 「世界が……ですか?」 私達のような存在がなぜこの世界にあるのか……。それは誰にもわからない。 でも、それは世界の創造主か、何処かの誰かが私達のような存在を望んだ結果だろう。 (そう思わなければやってられないわ……) 「まぁ、でも、誰かがレナの力を許さなくても、私の宿主様は絶対に許してくれるわ」 世界中の誰もが認めなくても、雄二ならレナの力を認めてあげられる。 たとえそれが世界に喧嘩を売るような行為であったとしてもだ。 「そうですね……ユージさんならそうでしょうね」 やっぱり私の宿主は最高だ。あんなことをしでかしても自慢することができる。 「じゃあ、雄二の話になったことだし、そろそろ本題に入りましょうか?」 「…………」 レナは僅かに表情を硬くして、覚悟を決めたようにゆっくりと頷いた。 「レナ、貴女は雄二が自力で戻ってくることを信じてる。そうよね?」 「はい。きっと戻ってくるって思ってます」 誰もがどうやって助けようかと悩んでいるのに、レナだけはそうじゃなかった。 私達の会話にもまったく参加していないどころか、聞き流しているようにも感じた。 「それは何故?」 「……ユージさんは本当の勇者ですから」 勇者だから戻ってくる、なんて何の理由にもなっていない。 なのにレナは自力で戻ってくることを確信しているかのような口調だ。 「風華さん、私の言う勇者とは勇気ある者という意味だけではないんですよ」 私の表情から納得のいっていないことを読み取ったのか、レナは理由を話し始めた。 「私の言う勇者とは、人の痛みを背負う者……。 そして、それを背負いながらも自分の意志で戦い続けられる人のことです」 確かに雄二はそういう人だ。レナの言う勇者にもピッタリと適合するだろう。 「でも、それが何の根拠になるの?」 「ユージさんはまだ……、戦い続けてますよ……」 戦い続けてる? いったい何処で、どうやって、何を相手に戦っているの? そして、それを何故レナが知っているの? 「貴女……何を知っているの?」 「風華さんは言いましたよね。ユージさんが戻りたくないと思ってる、って」 言った。私との繋がりを拒絶する、ということはそういう意志があるということだ。 別に有香ちゃんを傷つけたかったわけではないが、言うべきだと思ったのだ。 「それは違います。ユージさんは風華さんとの繋がりを拒絶してるんじゃないんです」 「じゃあ、いったい何が起きてるって言うの?」 自分達の魂のことを他人が知っているのは何故なんだろう。 自分が自分じゃないような奇妙な感覚にとらわれながらも、レナに続きを促す。 「ユージさんはわからないんです。風華さんとの繋がりも、何処に戻るべきなのかも……」 「繋がりがわからないなんて、そんなこと……っ」 途中まで言いかけて気付いてしまった。私と雄二以外にも魂の共有者がいることを……。 「だから戦っているんですよ。そこにいるはずのない敵と」 「あのジジイ……。何を企んでいるのよ」 どんなに防ごうとも魂の絆は決して切ることなんてできるわけがないというのに。 「無繋さんには何か考えがあるようです。ユージさんを悪いようにはしないと思いますよ?」 「…………」 だからレナには戻ってくるとわかってたってわけね。 そこまで思いついてからレナがそれを知った方法にもようやく思いつくことができた。 「貴女は雄二の魂の世界に干渉していたのね?」 「はい……。美空の干渉能力ならユージさんの魂の世界にも干渉できると思ってました」 美空による世界への空間干渉能力。レナほどの覚醒者ならそれも可能だろう。 要するにレナは私が見ることのできない世界への干渉をやっていたのだ。 「とは言っても、私が干渉できるのは数分ですけど」 「でも、それを何回も繰り返せば、精神力の続く限り干渉することは可能でしょう?」 レナは我が意を得たりと言わんばかりにニッコリと微笑んだ。 なんということだろう、私よりもレナの方がよっぽど悪趣味だわ。 私の風を使った盗み聞きなんて、それに比べれば可愛いものだと言える。 「…………」 「……だから私達は待っていればいいんですよ。ユージさんは帰ってくるんですから」 私はクイズの答えを教えてもらったわけだが、これっぽっちも気分は優れなかった……。 |