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 これから私達はシア村復興ために村人総出で力を尽くすことになるだろう。
 シア村産のプーチ酒の出荷数はしばらく減るだろうし、村の収入も激減する。
 特産品であるプーチがシア村の貴重な財源となっているのだ……。

第281話 夢のための決意 <<コリン>>

 じゃあ、私はどうするかというと……クェードに行くことになる。
 魔術学院に戻らなくてはならないからだ。多くの怪我人もいるだろう。
 だけど……本当にそれでいいのだろうか?
 戦争は終わっているし、シア村の復興に戦力は必要ないとは思う。
「お父さん」
 私はシア村の復興に必要とされているのか、それを知りたかった。
 だから私はお父さんに聞いてみるために、ジタル自警団の詰所に来た。
「コリン!! 身体はもういいのか!?」
「うん……もう、大丈夫」
 本当は全然ダメだ。だけど思いっきり泣いて、ちょっとスッキリしている。
 その点に関してはケンゴに感謝しなくちゃいけない。

「無理はするなよ?」
「わかってる」
 お父さんは心配性だ。私に対して過保護と言ってもいいくらいに……。
 それが嫌だと思ったことがないと言ったら嘘になる。
 でも、自分を大切に思ってくれているお父さんが私は好きだった。
「それで、何か用か?」
「え……あ、その、ね?」
 この場では言い辛い。だって、ここはお父さんだけがいるわけじゃない。
 詰所には自警団の人達が警戒を高めて街の周囲を見張っている。
「そか、ちょっと外に出るか」
 私がチラチラと自警団の人達を見ていたのを察したのだろう。
 お父さんは「ちょっと出てくる」と言って、私を外に出るように促した。


「…………」
「…………」
 月の光がほのかに街を照らしている。そんな夜の街をゆっくりと歩く。
 私が話しだすまで黙っているつもりなのか、お父さんは何も言わなかった。
 学校を辞めたいなんて言ったら、お父さんはどう思うんだろう。
 ほとんど家出するかのように村を出ていったようなものだ。
 魔術学院に入ったとき、お父さんはただ「そうか……」と言っただけだった。
「ねぇ、お父さん……」
「なんだ?」
 私が話しかけるのを待ち望んでいたかのように、すばやく聞き返してくる。

「私…………学院を辞めようと思うんだけど…」
 なんて言い返されるのかを恐れながら、勇気を出して言葉を口にする。
 もしかしたら、お父さんは私が帰ってくることを喜んでくれるかもしれない。
 そんな希望が頭の隅にあって、私はそう言ってくれることを望んでいた。
「理由を聞いてもいいか?」
「もう間に合わないのは嫌だから……。私もシア村の力になりたいの」
 きっと、お父さんは私の理由なんてわかっているはずだ。
 理由を聞いたのは、たぶん私の口から直接聞きたかっただけだと思う。

「……やっぱり、お前はステラにそっくりだな」
「え? お母さん?」
 ステラは私のお母さんの名前だ。私はお母さんの顔すら覚えていない。
 私が生まれてすぐにモンスターに殺されてしまった、とお父さんから聞いた。
「もう、コリンも十分に大人だ。話しておいてもいいだろう?」
 その言葉は疑問系で……私ではない誰かに話しかけているようだった。

「俺が昔、クェードの兵士だったのは話していたよな?」
「うん……お母さんと出会って辞めたって」
 お父さんはお母さんの話をそんなにしてくれなかった。
 まったく気にならないかと言われれば、気になるに決まってる。
 それでも私は自分から問い詰めてまで聞かなくても別によかった。
 二人だけで生きていても、お母さんがいなくても、私は幸せだったから……。
「ステラはクェードの騎士だったんだ」
「……え? 騎士ってことは、もしかして……」
「ああ、魔法使いだった。この国は魔法至上主義だからな」
 クェードの騎士には魔法使いが多い。騎士の9割が魔法使いという魔法国家だ。
 魔法の融合を編み出したクェードは魔法においては最先端の国と言える。
 他の国は魔法の融合術をなんとかして手に入れようとしているのが現状だ。
 恐らく、今回も近隣の国々が復興支援を餌に魔法の融合術を狙ってくるだろう。

「その中でもステラは群を抜いてた。学院でのお前みたいにな……」
 おそらくお母さんも騎士の中で“天才”と呼ばれる存在だったんだろう。
 だけど、まさか私のお母さんが魔法使いだったなんて……。
「コリン。学院で魔法の融合は二属性までしかできないと教えられたろ?」
「うん、それは習ったけど……」
 魔法の融合は相反することのない二属性のみで行うことができる。
 これは学院で融合を教わる時の一番最初に教えられる絶対原則だった。
 魔法の知識のないお父さんが、なんで学院の授業内容を知っているんだろう?

「はっきり言っとくが、ありゃ嘘だ」
「え?」
「本当は三属性の融合も可能なんだよ。授業じゃ絶対に教えないだろうけどな」
 三属性の融合? だって、それだとバランスが取れないはず……。
 でも、言ってしまえばバランスさえ取れれば融合自体は可能かもしれない。
 学院の先生は「バランスを取ること自体が不可能だ」と言っていたけど。

「本当だぜ? その証拠にステラは三属性の融合を鼻歌交じりでやって見せたよ」
「っ!?」
 私はそれを聞いて初めて、お母さんが私以上の魔法使いだったことを知った。
 二属性の融合だって難しいのに、三属性を鼻歌交じりで?
 それはもう天才とか、そういうの以前に歴史に名を残すくらいの大魔法使いだ。
 それが私のお母さん? でも、お父さんが嘘をついているとは思えないし……。
「学院は……いや、国は自分達ができないから不可能だと言ってるだけなんだよ」
 隠された魔法の可能性。お母さんの融合はできないものとして扱われた。

「その頃の騎士どもは最悪だった。ステラを常に危険な任務に送り続けやがった。
あわよくば……とか思ってたんだろうな。俺もステラの部下として一緒に戦い続けた」
 私が今聞いているのは、お父さんとお母さんの馴れ初めだ。
 お母さんがお父さんとどうして出逢い、私を生んで、死んでしまったのか……。

「ここからは娘に聞かせる話じゃねぇな。まぁ、いろいろあってステラは騎士を辞めた」
 確かに両親の恋の話なんて娘の私が聞いても困るだけだ。
「俺とシア村で暮らすことを決めたんだが……辞めるときに言ったんだよ。
“守りたいものが見つかったから、もう国を守る必要はなくなった”ってな」

 私は、お母さんが言ったその言葉を素直に格好いいと思った。
「ステラが守りたかったものが、シア村だった。そのためにアイツはすべてを捨てた。
騎士のまま生きていれば、富も名誉もあったはずだったが……あっさり捨てちまった」
 それでいいと思う。その生き方は私の理想で、私はお母さんを尊敬する。

「さて、長々と話したが……。コリン、お前も今の地位を捨てることができるか?
このまま学院を卒業すれば、間違いなく騎士になれる。その地位も捨てることができるか?」
 お父さんのおかげ、お母さんのおかげで私は心を決めることができた。
「うん。私が守りたいものはもう見つかっていたから……だからシア村の力になりたい」
 その言葉には一切の嘘も後悔もなく、清々しさすら感じることができた……。



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