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 この重苦しい雰囲気の中、みんなは何を考えているんだろう。
 空元気で話す田村君、ぼ〜っと外を見ている結城さん。そして無表情の珠緒ちゃん。
 誰一人として悲しんでいない人はいないんだろうな……。

 雄二君……。貴方は私達にとって、それくらい必要な人だったんだよ……?

第275話 聞くべきこと、知りたいこと <<有香>>

 その雄二君と魂を共にする存在である風華は椅子に座って、ただ目を閉じている。
 時折、神妙な顔になったり、急にクスッと笑ったりして、なんとも不思議だ。

「なにしてるの?」
「ん? ぬ・す・み・ぎ・き♪」
 風華に言われて、耳をすましてみたが、特に何も聞こえない。
 いったい何を聞いているのか、風華は妙に楽しそうだ。

「別に何も聞こえないけど……」
「まぁ、力を使ってるからねぇ」
「……何を聞いてるの?」
「健吾君とコリンちゃんの話よ」
 どうやら高槻君は、コリンさんと一緒にいるらしい。
 しかし、まさか宿を出ていった高槻君達の会話を聞いているとは……。

「どうやって聞いてるの?」
「風はね、いろんなものを運んでくれるのよ」
 つまり、風を使って盗み聞きをしているようだ。
 高槻君達も風華に自分達の会話が聞かれているなんて、思いもしないだろう。
「悪趣味ね」
「そうね。コリンちゃんもこれで大丈夫そうだし、やめにするわ」
「コリンさん?」
 何故、風華がコリンさんのことをそんなに気にかけているのかがわからない。

「あの子の心がね……危なそうに見えたのよ」
「心が……危ない?」
「でも、健吾君があの子を見つけてくれた……。こうなるって予想できてたわけ?」
 私の質問に応えることなく、風華はレナさんに問いかけた。
 そういえば、レナさんは高槻君にハンカチを渡してたっけ。
 あれは、高槻君がコリンさんを見つけることを想定していたからだったのかな?

「いえ、そういうわけじゃないです」
 しかし、レナさんはその予想をキッパリと否定した。

「ただ、この街で一人になれる場所なんて限られていますから……。
もし、ケンゴさんがコリンさんに会えたなら、って思っただけです」

「そういうのを予想っていうのよ」
 予想と言うよりは推理に近いような気がする。
 そして、その推理には、たぶんレナさんの願望も込められている。
 レナさんは高槻君に見つけて欲しかったんだと思う。
 風華に心が危ない、と言われるほどだったコリンさんを……。

 でも、私より危なかったということなのかな……。
 私だってこれ以上の悲しみがないくらいショックを受けているのに……。
 それでも私の心はコリンさんの心より危なくないのだろうか。
(やっぱり、コリンさんも雄二君が好きだったの?)
 コリンさんの方が、私より雄二君に合っているような気はしていた。
 雄二君はエリスやコリンさん、井上さんのような人が好みなんだと思う。
 もし、そうだとしたら……私に勝ち目なんてない。

「風華さん……だっけ? いくつか聞いてもいいかしら?」
「風華でいいわよ。で、何?」
 ずっと黙り込んでいた結城さんが突然口を開く。

「あなたと入れ替わった藤木君は、戻ってくることができるの?」
 核心を突いた質問だった。それは私が聞こうとして聞けなかったことでもある。

「おそらくだけど、あなた達は私達がいて初めてこの世にいることができる。
そして、何らかの原因で藤木君は風華と入れ替わってしまった……」
 正解だ。覚醒者でもないのに、結城さんの推理はまったくはずれていない。
 ソウルウェポンは魂を共有している存在だ。
 彼女達は魂を持つ生物がいて初めてこの世界に存在することができるはずだ。

「そうね……原因がわかれば、これからどうするかも掴めるわ。
質問を変えるわ。まず、藤木君が貴女と入れ替わった原因は何?」

 強い人……。私はそれを聞くことすら怖がっていたというのに……。
 もう戻ってこない、と風華の口から直接聞くのが怖かった。
 どうでもいい質問で誤魔化して、本当に聞きたいことを聞けなかった。
「入れ替わった理由は、雄二がたくさんの人のために自分の魂を使ったからよ」
「魂?」

「私達は宿主と魂を共有する存在よ」
「魂の共有……?」
 結城さんは風華が何を言っているのか理解できないと言わんばかりに
 オウム返しに風華の言葉をそのまま聞き返す。
「ま、共有と言っても私達が占める割合なんて一割にも満たないけどね」
 そして、そんな結城さんに構うことなく説明を進めていく風華。 

 そのことは知ってる。以前、壁雲が教えてくれた通りだ。
 私達が10だとするならソウルウェポンは1。
 まるで、何かのおまけでついてくるような必要のない魂。
 彼女達は私達が生きていく上では何の意味も持たない。

「私達の能力を使うためには、多かれ少なかれ精神力を必要としているの。
精神力は魂から生まれてくる力。でも魂から生まれる力にも当然限界があるわ」

「…………」
 なんとなくはわかる。覚醒者ならば、その程度のことは感覚で理解できる。
 だけど、覚醒者ではない結城さんには何を言っているのかわからないと思う。

「そうねぇ……水の湧き出る泉を思い浮かべてみて」
 風華に言われて、私もつい頭に泉を思い浮かべてしまった。
 結城さんはもちろん、珠緒ちゃんも田村君もレナさんも思い浮かべているだろう。
「次に、その泉から流れる小さな川を作ってみて。狭い幅で長さは……どうでもいいわ」
 上空から見るとおたまじゃくしのような感じ。
 ちょろちょろと静かに少しずつ泉から川へ水が流れていく。
「じゃあ、その小川の先に泉の百分の一程度の貯水池を作ってちょうだい」
 小川から流れる水は貯水池に貯まっていく。

「泉が魂、水が精神力、貯水池があなた達の精神力の許容量よ。
能力や魔法を使うってことは貯水池から水を汲んで、打ち水やってるようなものなのよ」

 そんなイメージでいいのだろうかと思うが、だいぶ理解しやすくなったと思う。
「じゃあ、藤木君はいったい何をしたわけ?」
「貯水池の水じゃ足りない。川からは一定量しか流れてこない。
水は貯水池に貯まって初めて使うことができる。さぁ、どうやって水を使ったと思う?」
 急にクイズ形式で私達に問いかけた風華からは笑顔が消え、無表情だった。
 その何の感情もない表情が、私には雄二君を責めているように見えた……。



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