一人で十人を倒すのと、二人で二十人を倒すのではどちらがマシか……。 まぁ、一人当たりの人数は変わらないから、人によって意見は分かれるんだろうな。 かくいう俺は二人で二十人の相手をした方がマシだと思う。 やっぱりフォローしてくれる味方がいるってのはいいもんだ。 だが、現実では一人で十人どころではなく、一人で百匹の相手をすることになった。 相手の武器は剣やナイフ、それに牙。どれも鋭利で殺傷能力の高い武器だ。 それに比べて俺の武器は殺傷能力の低い打撃に優れた棒きれ一本……。 「勝てるかっ!!」 正直な感想を吐き出す。俺はどこのゲームキャラだっ!! これはちょっとカードを引きまくらないと勝ち目が薄すぎる。 「俺は選ぶっ!!」 キーワードを口にしてもカードの壁は現れなかった。 (ん? 意志が弱かったか……) 俺のリスキーチョイスは適当な意志じゃ使えない。 真剣に自分の道を選ぶ、という意志が必要不可欠だ。 『健吾。一つの能力が発動している限り、次のカードを引くことはできないよ?』 当たり前じゃん、と言わんばかりに選里は言った。 (は? んなこと聞いてねぇぞ……) 『言ってないからね』 しれっと言う選里に悪びれた様子など微塵も感じられない。 (なんでこんな重要なことを先に言わねぇんだよ?) 『聞かない健吾が悪いんだよ』 「なっ!! ……もういい」 言い返す気も失せた。つまりこういうことだろ? 棒きれの透明化が解けるまで次のカードは引けない。 「上等……やってやろうじゃねぇか」 俺は腹を括り、選里本体である棒きれを握って、敵陣に突っ込んだ。 (棒術なんかやったことねぇんだよなぁ……) 振るうことには何ら問題ない。重さはほとんどないし、長さも扱いやすい長さだ。 問題があるのは振るい方。棒を使うことによる戦闘技術がかなり不足している。 「ま、なるようにしか……ならねぇけどなっ!!」 俺はかかってくるモンスターをフルスイングで殴りつけた。 『へぇ……躊躇いがないね』 (敵を殴ることのどこに躊躇しろってんだ?) 選里に話しかけながらも、次々と迫ってくるモンスターを殴っていく。 100匹が相手でも、一度にかかってくるのはせいぜい5、6匹程度。 しかも、戦略どころか連携すらない単純な攻撃なら、なんとか凌ぎきれる。 (体力が続けば、な……) マラソンみたいな戦闘とはよく言ったもんだ。的確すぎる表現だぜ。 体力の尽きたときが俺の死ぬときだ。次のカードがハズレじゃないことを祈ろう。 360度、全方向からの攻撃を実力と勘で凌ぐ。 「チッ……」 モンスターのナイフが俺の左腕を浅く斬りつける。 俺は選里を力任せに振りぬき、周囲の敵と距離を作った。 やはりと言うべきか、完全に避けきることはできない。 直撃はないものの、ダメージは少しずつ蓄積されている。 「あ〜、痛ぇなちくしょう!!!」 斬られた箇所、殴られた箇所が熱を持ち、身体中が熱くなっていく。 しかし、痛みを感じちゃいられない。悲鳴を上げる身体に鞭を打ち、無理矢理動かす。 「ハァッ!!」 一番近くにいるモンスターに突きを入れたとき、選里本体が姿を現した。 (切れたっ!!) 「俺は選ぶっ!!!」 透明化が切れるのと、ほぼ同時にカードの壁を展開した……のがまずかった。 目の前にカードの壁があるってことは、視界が遮られるってことだ。 おかげでカードの隙間からしか敵を確認できなくなってしまった。 まるで格子越しに敵と対峙しているような気分だ。 しかもモンスターには、このカードの壁は見えない。依然として視界は良好のままだ。 (やべぇ……殺られる!!) 迷いは生命の危機によって吹き飛び、考える間もなく目の前のカードを掴み取る。 カードが消えるのを確認する前に全力で左へ転がり、モンスターの攻撃を避けた。 「悪ぃな……。どうやら100対1でもツキは俺にあるらしいぜ?」 俺がまったく考えることなく選んだカードは大当たりの部類に入る。 しかもこの状況は、この能力の効果を最大限に発揮できる状況だった。 俺は迫り来るモンスターの攻撃を無視して、選里を空に掲げた。 すると、突然、風が渦巻き、俺を中心にして周囲のモンスターが凍っていく。 そして1分もしないうちに、氷漬けになったモンスターの壁が出来上がる。 「これで…ちったぁ休憩できるだろ……寒ぃけどな」 氷の壁はモンスターの進軍を食い止める役割を果たしてくれていた。 俺はその場に座り込み、しばし現実を忘れて空を見上げた。 (俺、何やってんだろうな……) ぼ〜っと見上げていた空に、何者かの姿が見える。 「ったく、休む暇もくれねぇのかよっ!!」 即座に立ち上がり、選里を構えて攻撃に備えたが、飛んできた物を見て構えを解く。 (なんだ……風華さんじゃん) しかし、風華さんは着地と同時に俺の頭に拳骨を振り下ろした。 「痛って〜。何すんだよ!?」 「……健吾君。貴方の能力は仲間を巻き込むから周囲の状況を確認してから使おうね〜」 顔は笑顔だったが、その表情からは滲み出るような怒りを感じ取れた。 「でも、風華さん。ぜんぜん巻き込まれてねぇじゃん!!」 「よく見なさいよ……。袴の裾が少し凍っちゃったじゃない」 「…………」 よく見ると、袴の裾がほんのちょっと凍っていた。 (その程度で殴るなよなぁ……) ズキズキと痛む頭を押さえながら、俺は怒った風華さんをじと目で見つめていた……。 |