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 ようやくだ……ようやく雄二をあんな目に合わせた張本人を斬れる。
 雑魚共の奥に隠れ、自分の力を使わずに他の者を強制的に操る卑怯者。
 命の価値すら知らない愚者よ、私が貴様の命の価値を教えてやろう……

第267話 風神の巫女  <<風華>>

 雄二は自分のできる限りの力を使って戦った。自分自身すらも削って戦った。
 その正義、その自己犠牲。決して褒められたものではないのかもしれない。
 健吾君や有香ちゃん。多くの仲間達にも理解されなかった雄二の正義。

(雄二……貴方はどこまで守れれば自分を許せたの?)
 この異世界……リオラートは雄二にとって最悪の世界だったのかもしれない。
 モンスターの存在と防衛機関の欠如。守るべきものがこの世界には多すぎた。

「私の宿主。雄二の正義は強く綺麗な光だったわ……。見ていて恍惚とするくらいに、ね」
「人間風情の正義など、我々にとってはくだらんものだ」
 私の前に立つ男は私と同族だったが、見覚えはなかった。
「そんな光をクソガキに笑って踏みにじられるのは不愉快なのよ」
「クソガキか……確かに第一世代の貴様からすれば第三世代の俺などガキだろうな」
 魂の数は年々増えている。その結果、ソウルウェポンは新たに生まれていく。
 生まれた時期によって第一から第三世代に分けられている。
 現在では数だけなら第三世代が最も多く、第一世代は最も少ない。

「まったく、人間風情に仕えている貴様等の考えが理解できんよ……」
「たった数百年生きた程度で悟った気になってるガキには分からないわ。永久にね」
「知りたくもないな。宿主など所詮は器に過ぎん。器を理解する必要がどこにある?」
 器と考えている時点でわかりゃしないわよ……。
 仮に宿主が私達の器なら、私達は宿主の魂の一部として生きたりはしない。
 元から多くの割合を占めている。わざわざ乗っ取ることすら必要ないはずだ。

(だから……私達には意味がある。他の魂の中で生きる理由がある)

「人など器だ。永久に生きる我々にとって、それ以上の価値はない。
考えてもみろ。我々が必死に呼びかけるのは何の為だ? 仕えるためではないだろう?」

「…………」
 わからない者にはわからない。自分の理論を雄弁に語っていればいい。

「我々のような存在が下等な生物に従うなど屈辱以外の何物でもない。
ヒエラルキーで言うならば我々が頂点。我々は支配するべき立場にいるのさ。
支配するべき者が支配せずに下位の者に従っていることこそ不自然だと思わないのか?
しかも風神の巫女とすら呼ばれる貴様が何故だ? その不自然さくらい気付いているだろう?」

「……五月蝿いわね」
「は?」

「五月蝿いって言ってんのよ。ピーチク囀ることしか能がないのかしら?
私がその気になっていたら、アンタは私の刃で既に10回以上死んでるわ」
 隙だらけで喋り続けるこの男を10回以上斬るチャンスがあった。

「……第三世代では第一世代に勝てないとでも思っているのか?」
「あ〜、言っとくけど、あと3分ほどしかないのよ。とっととかかってきてくれる?」
 無駄な会話に2分ほど費やしてしまった。健吾君との約束ではあと3分しかない。

「っ!! 舐めるなっ!! 風華っ!!」
 白い球体が私の持つ短剣と同じ形を模る。
「ソウルウェポンのコピー……ね。実に貴方らしい卑怯な能力じゃない?」
「黙れっ!!」
 そう言って、その場から消える。疾風を使ったのだろう。
「残りの3分……ね」


キィン
「なっ……」
 斬りかかってきた男の刃を片手で軽く受け止める。男は驚いた表情をしていた。
「何を驚くの? まさか見えてないとでも思ってたの?」
「……っく」
 後方に跳躍し、そのまま姿を消す。高速で動き回り、撹乱しているらしい。

(やっぱりガキね……)
 風神の巫女という名。その名は知っているが、そう呼ばれる所以は知らないのね。
 知っていれば、その撹乱が何の意味も持たないことくらいわかるでしょうに……

キィン
 高速で迫ってきた刃を何の苦もなく受け止める。


キィン キキィン!!

「何故だ!? 俺の刃が何故見える!?」
「さぁ、何故でしょう?」
「くそっ、ふざけやがって!!」
 怒りで口調が荒くなってきてるじゃない……崩れちゃえばこんなもんよね。
 今度は風の矢? ますますもって無駄なことが好きな人ね……。

 十数本の風の矢が私に向かって突っ込んでくる。
「……そよ風ね」
 圧縮された風は私に触れる前に発散し、ただの風となって私の髪を揺らす。
「…………な、何故だ」
「さっきから聞いてばかりねぇ。私と戦うなら予習くらいしておきなさい」


「これならどうだっ!?」
「あ〜、そういうの……もういいわ。鬱陶しいだけだから」
 私は男が動く速度よりも速く動き、一瞬で喉を切り裂いた。

「……っ、っ……」
「アンタの声、アンタの姿、アンタが起こす風……すべてが私の気に障る」
 何かを喋ろうとしているらしいが、喉を切られている以上、喋ることができない。 


「これでもね、私は怒ってるのよ。塵も残さず消してあげるから……踊りなさい」


 容赦なく身体中を斬り刻む。私の怒りをすべて込めるように刃で斬りつける。
 癒す暇なんて与えたりしないし、身体を動かす意思も与えない。
 素早く、鋭く……殺す。

「オリジナルに勝てるとでも思ってたの? 劣化コピー風情が……」
 聞こえているかどうかなんて関係ない。奴の身体を中心にして小さく強い竜巻を起こす。
 バラバラになって烈風と共に消え去っていく同族を、私は嘲笑で見送った。

「さ、あとは……後片付けね。健吾君だけじゃ心配だし……」
 後ろでは健吾君が戦っているのか、大きな喧騒が聞こえてきている。
 一箇所に向かって行くモンスター。あの中心にはきっと健吾君がいるのだろう。
 怪我をしてる程度なら大丈夫だ。私が治せば何の問題もない。
 ただ、死ぬ直前だったりするとまずい。私でも治せないものは治せない。

「……急いだ方がいいかも」
 私は敵陣の中心を目指して斬りかかっていった……。



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