次の話に進む→

←前の話に戻る

トップページに戻る

小説のページに戻る


 100個全部がまともな能力のわけがない、と思ってた……。
 そして、100個もあるんだ。中には大ハズレってもんがあっても不思議じゃない。
 その大ハズレを選んだ時、たぶん俺の命は自分の能力によって奪われるだろう。

第266話 リスキーチョイス6  <<健吾>>

 そんな俺の能力……リスキーチョイスの危険性を知っても、俺は不安を感じなかった。
 予想通りだったこともそうだが、一番の理由は自信があったからだろう。
 俺は、何故だか分からないが、大ハズレを引かない自信があった。

 それは根拠と呼べるものじゃない。だから現に風華さんは納得していない。
「ふぅ…健吾君はもうちょっと賢明な子だと思ってたんだけどな……」
「賢明な奴は武闘派なんかにゃならねぇし、雄二の親友(ダチ)にもならねぇよ」

 そして……本当に賢明な奴なら、雄二と井上には極力近づかない。
 そういう意味じゃ谷口だって賢明とは言えねぇ。
 まぁ、アイツの場合、賢明じゃなくなった、と言った方が正しいけどな。

「我が主のことながら、納得できちゃうのが悲しいところね……」
 風華さんは溜息を吐きながら、がっくりと肩を落とした。
 その仕草や姿はどう見ても俺達と同年代に見える。
 選里は何故そんな風華さんを“婆さん”と言ったのだろう。

 気になるし、知りたくもあるが、絶対に聞きたいとは思わない。

「ま、例えばだけど……<<俺は選ぶ>>」
 目の前にカードの壁が現れる。俺はその内の一枚を適当に引いた。
 その瞬間に、俺はそのカードが起こす能力の使い方を知る。
「これで俺がくたばっても誰の責任でもない。自業自得、俺の自殺だ」
「…………」
 能力を発動させる。選里本体である棒が完全にその姿を消した。
 しかし、その場には確かに存在しているし、握っている感覚もしっかりとある。
 ま、要するに選里本体の透明化だ。

「だから、俺は可能な限りこれを使わない。でも、必要な時はバンバン使う」
 俺だって無駄にカードを引きまくるようなバカな真似はしない。
 必要な時……それは、俺の常識の範囲を超えた闘いに参加するときだ。
「そんで、今はバンバン使う時なわけだ。俺もアイツが許せねぇ」
 雄二を消したアイツが許せねぇ。俺の平穏を崩したアイツが許せねぇ。
 初めて純粋に殺してやりたいと思った相手がすぐそこにいる。

「田村も結城も、柊だってそう思ってるけど、戦う力がないから仕方なく見てる。
だけど俺は違うぜ? 戦う力を手に入れることができた。選里が力を貸してくれたんだ」
 あいつらの分まで、なんて思っちゃいない。
 人の分まで殴れやしない。自分の分で精一杯だ。

「俺だって戦える。俺もアイツが許せねぇ。だから混ぜろ」
 返事がどうであろうと俺はこの戦争に参加する。そう決めている。
 だけど、風華さんの了承は得ておきたいと思っちまう俺は卑怯だろうか……。


「……覚悟はできてるってわけ?」
 風華さんは真剣な表情で確認を取るように言う。
 おいおい、そりゃ何の覚悟だ? 戦う覚悟か? 死ぬ覚悟か? それとも死なない覚悟か?
 冗談じゃねぇぜ。戦うのに覚悟なんか必要なもんかよ。
 戦わなきゃならねぇ時は嫌でも戦わなきゃなんねぇ。
 どんなに死にたくなくても死ぬときゃ死ぬ。
 そんないつ来るかも分からねぇもんに構える心は持ちあわせてねぇよ。
 俺は風華さんの問いに否定も肯定もせず、ただ沈黙することで返した。

「一つだけ約束しなさい」
 俺の沈黙を肯定と受け取ったのか、風華さんは条件をつけてきた。

「死なないで。……健吾君に死なれると、雄二に合わせる顔がなくなるの」
「了解」
 もともと死ぬつもりなんてさらさらない。そんな約束はあってないようなもんだ。

「じゃあ、戦闘開始……だな」
「ええ、ゲームの始まりよ……」
 風華さんが言ったセリフは、雄二が好んで使う戦闘開始の言葉だった……。

 ようやく戦闘開始になったのはいいが……
 100匹近いバケモンに対して2人で挑むのに、戦略なんかあるわけもない。
 敵陣に突っ込んだ後は、勢いに任せて殴りまくるしかないだろう。
「健吾君。とりあえず貴方は敵陣に突っ込みなさい」
 全力で走る俺に、風華さんは普通に歩いて並走し、あまつさえ普通に話しかけてくる。

(この人も見た目は普通だけど、それなりにバケモノ染みてるよな……)
 思ってはみたが決して口にしない。うん、沈黙は美徳なりって感じで。

「俺は、って……風華さんは? 一緒に戦うんじゃねぇの?」
「こいつらをどれだけ倒したって新手がどんどん呼ばれるのは目に見えてるじゃない?
あたしって、延々と戦い続ける先の見えないマラソンみたいな戦闘って嫌いなのよねぇ」

「まぁ、そうだな……」
 俺だってエンドレスで戦い続けるなんてまっぴらだ。
 とっとと奴をぶっ殺して終わらせたいに決まってる。

 だが、邪魔になっているモンスターを呼んでいるのは奴だ。
 ってことは、奴さえ殺ればエンドレスはエンドレスではなくなる。
「やっぱり、こういう時は元を断つのがセオリーでしょ?」
「風華さん……。アンタまさか……」
「囮みたいな扱いで悪いけど、そういうこと」
 囮みたいな、だって? こりゃ完全に囮じゃねぇか!!
 要するに、風華さんが奴を倒すまで、俺が一人でモンスターの相手をするってことだ。
 これを囮と言わないで、何を囮と言うのか教えて欲しいもんだ。
 国語辞典に今の状況を照らし合わせたって囮という単語が出てくるだろうよ。
「大丈夫よ。そんなに心配しないで……」
 風華さんは優しく微笑んで、本当に安心できそうな笑顔でそう言った。

 いや、心配しているのは自分の身の方だが……。
 しかし、そんな自分の安全を考える気もすぐにぶっ飛んでしまった。
 風華さんが笑顔から一転、血が凍りつきそうな殺気を放ってこう続けたからだ。

「5分で頭を潰してくるから……」
 俺は風華さんの殺気が自分に向いていないことを、心から幸運の女神様に感謝した……。




次の話に進む→

←前の話に戻る

トップページに戻る

小説のページに戻る

inserted by FC2 system