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 リスキーチョイス。選里の能力には、そんな名前がついている。
 選里にも覚醒者にもどんなことが起きるか分からない、問題だらけの能力。
 下手をすると覚醒者自身が死んでしまう可能性もあるのだから恐ろしい能力よね……。

第265話 リスキーチョイス5  <<風華>>

 健吾君はたぶん、自分がどれほど危険な力を使っているのか理解していない。
 選里も自分の能力のことを健吾君に話していないだろう。彼女はそういう人だ。
 聞かれれば答えるけど、聞かれない限りは何も言わない。

 すべては宿主の選択次第、という前提条件の下で憑き従う。
 なんでも、それが選択を司るソウルウェポンにとっての絶対ルールなのだそうだ。
 ちなみに私は風を司っているわけだけど、そんなルールは存在しない。
 そもそも、どんなソウルウェポンであろうとも主に従うためのルールなんて必要ない。

 要するに、選里は勝手にルールを定めて、それを遵守しているだけなのである。
 つくづく宿主に優しくない女だ。その点では健吾君に本気で同情するわ。

「さて……」
 遊びは終わりだ。余計な考え事も、これからの話も、全部片付けてからにしよう。
「まだ続ける?」
 雑魚の相手は、とっくのとうに飽きている。正直、うんざりしているほどに……。
 早く、あの男と決着を付けたい。現界した私にはやらなきゃならないことがある。

「もう一人いるとは……いや、つい先ほど目覚めたのか。
まぁいい。どちらにしても俺の想定外ではあったな……」

「……雑魚には用はないの。とっととかかってきなさい」
「俺の戦力はまだまだ尽きていない。俺と戦いたいなら下僕をすべて倒すんだな……」
 そう言うと、男はモンスターを操り、再び大軍を私に差し向ける。
 ふん、たくさんの雑魚に守られてる程度で随分と調子に乗るじゃない。
 ますます気に入らなくなった。奴の自信という自信を打ち砕いてあげるわ。

 まぁ、今はそれよりも、まずは健吾君に選里の能力について話しておかなきゃね。
 軽く踏み出し、一瞬で健吾君との間合いを詰める。
「うおぁっ!!」
 突然目の前に現れた私に、健吾君は驚きの声を上げる。
 そんなに驚かなくても、別に取って喰やしないわよ……。

「さて、覚醒したのが幸か不幸かは別として……健吾君。貴方、戦える?」
「…………」
 健吾君は少しだけ考えた後、何も言わずに頷いた。

「……この道を選んだ。俺は選里と戦う道を選んだんだ」
 迷っている様子は見られなかった。健吾君はどう答えようかを考えていただけらしい。
 彼は自ら望んで選里の力を得たようだ。雄二とは違う、自分の意志で手に入れた力だ。
 私は雄二に選ばせてあげられるほどの余裕はなかった。
 そういう意味では、健吾君と選里は羨ましいな……。

 それにしても、選んだ……ね。選里に影響されている……危険な兆候だ。
 ま、どんな影響受けようとも、自ら望んで力を手に入れたのだとしても
 筋だけはしっかりと通さなきゃね……

「性悪女!! 聞こえてる!? アンタ、自分の能力のこと健吾君に言ってないでしょ!?」
「へ?」
 健吾君に言ったのではない。健吾君の中にいる選里に向かって話しかけている。
「選里、聞こえてるんでしょ?」
「え? え?」
 何を言われているのか分かっていない健吾君を見ているのも面白かった。

「健吾君も可哀想よね。アンタみたいな性悪に憑かれたんじゃあねぇ!!」
「……えっと、これ、言っちまっていいのかな?」
 選里が何かを言い返してきたらしい。私には聞こえないけどね。

「アンタみたいな婆さんに憑かれた雄二にも同情するけどね、だそうだけど……」
「…………いい度胸だわ。アンタの身体、粉々になるまで砕いてあげようか?」
 選里の奴、相変わらずらしい。どこまでいっても口の減らない女だわ。

「んなこと言えるかっ!! 言いたきゃてめぇで言えっ!! 俺はまだ命が惜しい!!!」
「なんて言ったの? 教えてくれる?」
「い、言えねぇ……。風華さん、アンタの為にも絶対に言えねぇ……」

「健吾君には手を出さないから、正直に言ってちょうだい」
「…………怒らないか?」
「怒らない、怒らない」

「……そんなアバズレのナマクラ刀じゃ髪の毛一本だって斬れやしないよ」




(殺す!!!!!)



「うわぁああぁぁぁ!!! 怒らねぇって言ったじゃねぇかっ!!」
 そんなもん嘘に決まってる。今時、小学生でもひっかかりゃしないわ!!
「いい子だから、その棒を寄越しなさい……」
 あの男を粉砕する前に、二度とそんな口が利けないように粉々にしてあげるから。
 じりじりと後ずさる健吾君に優しく語りかけた。

「待てって! なんかかなり話が脱線してるって!!」
「貴方の為にも、ここでコイツは壊しておいたほうがいいわ」
 それは本当にそう思うが、本来ならそこまでするつもりは毛頭なかった。


「選里の能力の話だろ!? 俺が謝るから落ち着いてくれよ!! 俺も知りたいんだよ!!」
「…………」
 かなり真剣な表情で訴えかける健吾君を見て、私は呆然としてしまった。

「カードを選んで、さっきの光の刃を出した。でも、それだけじゃねぇんだろ?」
「ええ……そうよ。必ずしも健吾君にとって良い能力だけじゃない」
 自分の使う能力について薄々感づいていたのかもしれない。
 やっぱりそうだったか、といった感じで驚く様子もなく真剣に聞いている。

「その能力の名前はリスキーチョイス。その名の通り、リスクを伴う選択の能力なの……」
「だろうな。そんなことだろうと思ってたよ。最悪の選択もだいたい想像がつく」
 それを知ったのはいつ? 最初の能力を使った時? それとも能力を使う前?
 たぶん、健吾君は能力を使う前から、なんとなく気付いていたんだと予想する。

「分かってるなら、これ以上能力は使わない方がいいわ」
「まぁ、そうなんだろうけどなぁ……。たぶん、俺は何度も使うと思うぞ?」
 予想に反して、健吾君は使わないと言うどころか、何度も使うと言い放った。

「だって俺、絶対にそのカード引かない自信あるし……」
「アンタねぇ……その自信に根拠なんて、まったくないでしょ?」
 根拠もないのに自信だけはたっぷり。じゃあ、その自信はどこから来るのやら……。


「根拠ならあるぜ? なんか知らねぇけど、幸運の女神様が笑ってくれてるみたいなんだよ」
 へへっ、と笑って鼻の下を人差し指で擦る。
(それは根拠になるの? なるわけないじゃん……)

 とんでもない根拠を取り出してきた健吾君に、私はただ呆れるしかなかった……。



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