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 藤木が俺達の目の前で消えて、その代わりに美少女が出てきて
 敵のボスっぽい奴が現れ、物凄い数のモンスターが押し寄せてきた。
 そして……高槻が歩みを止めたと思ったら、何もないところから武器を出した。

第264話 世界の側面 <<田村>>

 えっと……確認しておきたい。俺の頭は正常か?
 藤木が消えたことを含め、こうも立て続けに不思議現象が発生すると混乱する。
 何て言えばいいのか、まるで実感が湧かない。
 人一人逝っちまってるってのに、それすらも非現実的すぎて受け入れられない。
 だからだろうか、今の俺は藤木が死んだことに対する悲しみがほとんど無い。

 高槻が光の刃を出しても、少しも驚かない。
 現実味が無い。脳みそが今の状況を否定している。

 おそらく、こんなことを思っているのは俺だけじゃない。
 結城も柊も……高槻でさえも、実感が湧いてないんじゃないか?

 紛れもない現実なのは理解しているが、納得はできていない……そんな状態。

「よぉ、結城。世界って……こんなに狂ってたっけ?」
 俺達の生きてた世界ってやつは、ここまでイカレたものだったのか?
「私が……答えられるわけないじゃない」
 まぁ、そうだよな。俺だってそれくらいわかってる。
 だが、わかっていても聞きたくなっちまうんだから、しょうがないだろ?

「世界にはもともとこういう側面もあった。私達はただ、知らなかっただけ……」
 柊はわかりきったように言っているが、本当にそうなのか?
 ある日を境に狂っちまったって可能性はないのか?
 何を考えても疑問ばかりで正確な回答は一つも得られない。

 異世界のことなんだから謎だらけで当然。
 そこまではいい。だが、地球の人間まで超能力を使いだすと話は変わってくる。
 オカルト的なものは存在しないと科学が証明している俺達の世界。
 しかし、現実はあっさりとそれを覆してしまったわけだ。

 ま、現実を直視すりゃ柊の言うとおりなんだろうな。
 知らなかっただけ。世界はこういうもので、俺達にはそれが見えちゃいなかった。

「知らない方が幸せ……か」
「あん?」
 いきなり結城が言いだした言葉の意味が掴めなかった。

「有香が言ってたのよ。知らないまま帰った方が幸せだって……
有香の言うとおりだったわ。私はこんな世界があるなんて知らない方がよかった」

 俺はどうなんだろう、知らないほうが幸せだったのだろうか?
 本当は魔法のような力があって、その力は地球でも当然のように存在する。
 でも、俺達の世界にはそんなもの存在しない。そのはずだった。

「リアリティはまったくねぇけど……藤木が消えたのは事実なんだよな」
「「…………」」
 今、目の前で起こったこと。どうしようもない事実だ。
 高槻は怒りか何かで、その時の感情をどうにかしてしまっているようだ。
 だが、俺達はそうはいかない。現実を見つめられるほどには冷静だ。

「俺には結局アイツが何をしたかったのか、よくわからねぇ」
 そりゃ、この国の人を守りたかったんだろうなぁ、ってのは予想できる。
 でも、よく考えてみろよ?
 お前がこの国を救って何になる? どうせお前が住むのは地球だろ?
 知り合いどころか見知らぬ他人を助けて、それでくたばって何が楽しい?
「マジでわからねぇ。サッパリだ」
 藤木の行動する理由というか……藤木が動く意味が理解できない。

「田村君。もし藤木君が地球にいたとしたらどうしてたと思う?」
 あ、そういえば地球もモンスターに襲われてるんだっけ……。
 まぁ、2−Bの奴等なら、なんとかしてくれているとは思うけどな。
「そりゃ、あの妙な力使ってモンスター斬りまくってるんじゃねぇの?」
「それって、クラスメイトのためよね。ま、広く言えば日本のためよね」
「ああ……」
 超高速でモンスターを斬り捨てていく藤木が目に浮かぶ。

「じゃあ、ここでやってることと何も変わらないわ」
「…………」

(なるほどな……)
 確かに舞台がこっちの世界に移っただけで、やってることは同じだ。
「さらに、藤木君は極度の自己犠牲心をもってる。なんでかは知らないけどね」
「そう! そこなんだよ! なんでアイツあんなに他人守ってんだ?」
 それさえわかれば藤木雄二のほとんどがわかるような気がする。
 あそこまで人を惹きつけ、強く先頭に立っていられるのかがわかる気がする。
「私は知らないわ。でも、知ってそうな人は知ってるけどね」
 藤木雄二のルーツを知っていそうな奴、と言えば一人しか思いつかない。

「……井上か」
「春香? まぁ、春香も知ってるかもしれないけど、違うわ」
「んじゃ、誰だよ?」
 井上くらいしか思いつかない。まさか高槻ってわけでもないだろ?

「あの、藤木君と入れ替わりで出てきた子よ……」
「は? あの巫女さんが?」
 藤木が消えて、その代わりに出てきた女の子。
 まるで格闘ゲームの2Pカラーのような袴を着た巫女だったが……。

「あの子と敵の会話、聞いてたでしょ?」
「ま、まぁ、話しかけられたし、文句も言ってやったしな……」
 あの時は藤木が消えちまったショックで他のことなんかどうでもよくなっていた。
 相手の力量なんかおかまいなしに、でかい口を叩きまくったような気がする。

「話から推測すると、どうもあの子にとって藤木君は宿主ってことらしいのよね」
「宿主ぃ!?」
 宿主っていうと……大家? アイツん家に居候してるってわけじゃねぇよな。
 でも、だとすると、もう一つの意味ってことになるよな?
 宿主……藤木自身を宿としていた。つまり寄生?
 人間の中に人間が寄生するって? んなバカな話があるかよ。

「で、この場合……当然、ホームステイの方の宿主じゃないわよね」
 わかってる。そんなことくらい簡単に予想できる。
 居候の人間が光と共に入れ替わったりするもんかよ。

「さらに、前に聞いた有香の話とさっきの高槻君を見れば解答は出るわね」
「解答って……なんだよ」
 俺は斉藤に話なんて聞いていない。そして、答えなんて予想もできない。

「結論を言うわ。まず、あの子は高槻君の能力と同等の存在であること。
そして、その存在は私達の中にもあり、この世界では目覚める可能性がある」

 目覚める? 俺達の中にも人がいる?
「ここからは推論ね。私達の中にその存在が住んでいる。実体のない形で。
で、何らかの方法で目覚める。その時、私達はその中の存在の声を聞くはず……」

 そんな答えが出るヒントが何処にあった?
 実体のない形で住んでいるって、背後霊とか守護霊みたいなものか?
 これだから知能派は何考えてるのかわからねぇんだよ。
 俺は結城の言う解答を素直に信じられず、それが答えだとは到底思えなかった……。



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