次の話に進む→

←前の話に戻る

トップページに戻る

小説のページに戻る


 選里の力を借りたが、別に特別な力が湧いてきたわけでもない。
 ただ、身長ほどの長さの鉄の棒が手に入っただけだ。
 しかし、その棒は、まるで俺が振るうために存在するかのようだった……。

第263話 リスキーチョイス4  <<健吾>>

 鉄のような質感をしているが、ぜんぜん重さを感じない。
 たぶん、振り回したとしても余裕で扱うことができるだろう。
 前方で行われている戦場に向かって、全力で走りながらも思う。

 これだけで、たった一本の棒だけで俺は戦力になれるのか?
 あの激戦地に飛び込んで戦い続けることができるのか?

「おい、お前の力はこれだけなのか?」
『まさか。選択の力が本体の棒一本のわけないじゃん』
「教えろよ。お前の本当の使い方」
『もちろんそのつもりだよ』

 その言葉を聞いて安心した。武器を手に入れただけじゃ心もとない。
 俺が闘いに参加するには、楽勝と言い切れるほどの力が必要だ。
 命を張って戦うほどの勇気は、俺にはまだないからな……。
「俺は何をすりゃいいんだ?」

『僕の力を使うのに特別な構えや呪文なんて要らないよ。
 必要なのは自分の道を自分で選ぶという言葉と未来を掴み取る覚悟だけ』

(つまり……どうすりゃいいんだ?)
『言えばいいんだよ。自分の道は自分で選ぶって、未来を掴む覚悟を決めて』

 思ったことが選里に筒抜けになってしまったことに驚いた。
 これからは思ったことを心の声にしないことも勉強していかなきゃならねぇな……。

 選里の言葉を俺流に言うならこんな感じだ。
 俺が望む未来にしたいって思いながら、俺の道は俺が選ぶと言えばいいってこったろ?
 簡単じゃねぇか。今すぐにでもやってやるぜ?

「俺の道は俺が選ぶ」
 言ってはみたものの、何かが起きたような気はしない。
 っていうか、何も起きてない。相変わらず俺は走っているままだ。
 走る速度が増したとか、力が湧いてきたとか、そんなことはいっさいない。

(何も起きねぇじゃねぇか……)
『違うね。健吾には純粋に覚悟が足りないんだよ。本当に未来を掴みたいと強く思ってる?』

 俺がいて、雄二がいて……井上もいて。毎日、何かが起こるような波乱万丈の日々。
 なんなら2−Bの奴らも加えてやってもいい。俺達にとって普通の、いつもの出来事を送る日々!!
 そんな日々でいい。俺はそういう日常を望んでいるんだ。

 こんな異世界で戦いたいわけじゃねぇんだ。こんなところで命を懸けたいわけじゃねぇんだ!!
 俺は地球の、あの湊市で、あの湊大付属高校で、毎日を面白おかしく過ごしたいだけだ!!
 そんな俺の日常を勝手に奪ってんじゃねぇよっ!!!


「俺は……<<てめぇの道はてめぇで選ぶ!!!!>>」
 目の前に光の壁が現れ、それに驚いた俺はぶつからないように急停止した。
「なんだよ……これ」
 よく見ると壁じゃない。俺の目の前にあるのは丁寧に並べられた、たくさんの光の板だった。
 一歩遠ざかってみると、遠ざかった距離だけ光の壁は俺に近づいた。
 逆に一歩近づくと、近づいた距離だけ光の壁は遠ざかった。
 光の壁と俺との距離は50cm程。どうやら、この距離を保っているらしい。

『へぇ、2回目で出せたんだ? 上出来、上出来。立派な覚悟だね』
「おい、質問に応えろよ。なんなんだよこれは?」
『未来を掴む力を決めるカードだよ。さぁ、この中から一枚選んで』

(一枚選べったって……100枚くらいあるぞ?)
 目の前に並べられたカードを数えてみる。縦に5枚、横に……20枚の合計100枚だ。
 本当に100枚きっかりだったことのちょっと喜びながらも、俺は迷っていた。

『このカードが君の戦う力になるんだよ。どんな力になるかは君次第。
 だれにも見えない、君しか選ぶことができない。これは君の未来だからね』

 ってことは、このカードの壁は俺にしか見えてないってことか?
 勿体無い話だな。こんな綺麗なもんが他の奴等には見えてねぇってんだから。

 まぁ、簡単に言えば運次第ってことだろ? それならいい。運には多少の自信がある。
 この世界に来て、運だけには自信を持つことができるようになってきた。

(なぁ、幸運の女神様よぉ……。まだ俺に微笑んでくれてるか?
 俺は浮気なんてしちゃいねぇぞ。選里は俺に道をくれただけだからさ……)

 幸運の女神様に訴えかけるように心の中で言っておいた。
 そして、ゆっくりと手を伸ばし、目の前にあるカードの壁から一枚を選び取る。

 その瞬間、他のカードが消え、俺が手に取ったカードに三日月のような模様が浮かび上がる。
 手に取ったカードは霧のようになって端から崩れていく。
 それと同時に、左手に持つ棒の先に光の球体が出来上がっていく。
(あ、俺、知ってる……)
 この力をどのように使うのか、どんな効果があるのか。
 不思議なことだが、覚えたこともないはずなのに、力の使い方を俺は知っているのだ。

 ゆっくりと棒をモンスターの一群に向かって構える。
 そして、横薙ぎに振り始めてしまったとき、俺はあることに気付いた。
「風華さん!!! 避けろぉぉぉっ!!!!」
 遠心力に任せて、俺は選里を横一線に振り切った……。



腐れ縁 <<風華>>

 風に乗って健吾君の声が聞こえてきたので、私はぎょっとして後ろを振り返った。
「げ!!!」
 巨大な光の刃が横一文字にこっちに向かってきている。

(あの能力は選里!!? あの馬鹿女、健吾君に憑いてたの!?)
 私は疾風の力を使って、全速力で光の刃の範囲外に退避した。
 選里のことは知っている。昔からの腐れ縁。友人というよりはそう表現するべき存在だ。
 外見と性格がめちゃくちゃで、自分のことを僕と言う性悪女。
「あ〜、最悪……」
 これから先が思いやられる。一気に気分が重くなったような気がした。
「まぁ、久々に懐かしい奴に逢えたと思えば、ちょっとは気分も紛れるのかな」

 光の刃によって真っ二つに切り裂かれるモンスター達を見ながら、そんなことを考えていた……。



次の話に進む→

←前の話に戻る

トップページに戻る

小説のページに戻る

inserted by FC2 system