次の話に進む→

←前の話に戻る

トップページに戻る

小説のページに戻る


 このコイン投げの結果は、俺の未来を左右することになるだろう。
 どうやら、俺は今、人生の分岐点に立っているらしい。
 何度も選び、歩いてきた道だが、これほど大きな分かれ道は滅多にねぇよな……

第262話 リスキーチョイス3  <<健吾>>

 クルクルと回転しながら上昇し、見えなくなって……ってオイ!!
 もうコインが何処にあるのかも分からなくなってしまった。
「やりすぎだ!! 大気圏まで飛ばす気か!?」
 意思の力さえ働けば、それも不可能じゃないことは分かる。
 まぁ、この世界に大気圏が存在するのかは知らねぇけどな……。

「じゃあ、早く落ちてくるようにすれば?」
「……お前、性格悪いってよく言われるだろ?」
「想像にお任せするよ」
 俺はその言葉を聞いて、絶対に言われたことがある、と確信した。

 いや、今は選里のことについて考えている場合じゃない。
 見えないコインを表にするように念じなければ……。
 もしかして、これは俺の意思を他へはぐらかすための選里の作戦だったのか?
 だとしたら、この女……とぼけた振りをして、相当したたかな女だ。
 まったくもって油断できねぇ……って、んなこと考えてる場合じゃねぇんだって!
 俺は再びコインを表にするように念じ始めた。
「必死に意思を働かせてるようだけど……」
 選里の言葉は無視だ。コイツの作戦に乗ったら負けちまう。

「意思の戦いで勝負を決めるのは時間じゃない、強さなんだよ。
だから、勝負は一瞬。コインが地面に完全に着地した時に勝敗は決まる……」

「…………」
 オイ、じゃあ俺が今やってることは無駄ってことじゃねぇか……。
 一生懸命になってコインに向かって念じてた俺って、単なるバカじゃん。
 必死にやってたことが無駄だと分かり、俺は本気で泣きたくなった。


「君達人間は常に何かを選んで生きている。与えられた道を選んで、ね」
 選里はおちゃらけた表情から急にシリアスな表情になって話し始めた。

「逆に言うと、選ばない人に新しい道なんてできないんだ。
流されるままに流されて、滝に落ちるまで流され続けるだけ……」

 それは何を指して、そう言っているのだろう。俺のことか?
 まぁ、俺のことを指していたとしても、あながち間違っちゃいない。
 周囲の環境に流されてる生き方だと自分でも思うくらいだからな。
 でも、その生き方だって悪いってわけじゃないし、間違ってるわけでもない。
 いつでも流れに逆らうことができるなら、な……。

「選択を自らやめることほど怖いことはない。そうは思わないかな?」

 選択権の完全放棄。すなわち自分の意志の消滅と他への隷属化だ。
 俺達は心のどこかで煽動されたがっている、と本か何かで読んだことがある。
 煽動されたがる心と自由に選びたいという心。俺達はそんな矛盾を抱えて生きている。

「滝に落ちない川を選ぶこともできる。選ぶ権利は誰にだってあるのにね」

 そんな矛盾だらけで生きてる人間に何かを選ぶことができるのか?
 権利を与えられていても、流れに逆らえないように世界はできているんだぜ?
 それでも逆らって進むことに、得なんてあるのかよ?

「そのまま流されるか、流れに逆らって違う道を進むか、選ぶのは君だよ、健吾。
だけど、選ぶことをやめたらダメだよ。自分から選んでこそ君達は成長するんだから……」

「…………」
 自然に選択肢が消えるのを待っている。道が一つに絞られるのを待っている。
 楽な生き方だ。楽な生き方だからこそ、選ぶ権利をあっさりと捨てちまう。
 選ばずに楽に生きるのと、悩みながら自分で選んで生きるのと、どっちが幸せなんだ?
(……分からねぇよ。んなもん)

「話を聞いてくれてありがと。さぁ、勝負の時だよ……」
「え?」

キィーーーーン

 気が付くと、コインは着地していて、ゆっくりとバウンドを始めていた。

キィーーーン…………キィーーン

 バウンドの間隔がどんどん短くなり、響く音も小さくなっていく。

キィーン……キィン

 バウンドを繰り返すコイン。それをじっと見つめている俺と選里。
 意思をぶつけ合う一瞬を計っている。選里だって俺が意思を働かせる時を計ってる。
 互いの視線は、たぶん完全にコインに集中しているはずだ。一時も油断できない。

 そして、バウンドの音が完全に消えた。
(今だっ!!!)
 こっちが早かったのか、選里が早かったのかなんてどうでもいい。
 ただ絶対に言えることがある。それは俺の意思と選里の意思が戦っていたってことだ。
 その証拠に、コインはいきなりクルクルと独楽のように数分間まわった。




 まぁ……もう決着はついちまってんだけどな。

「「…………」」
 コインの結果に俺と選里は言葉を失い、呆然と見ているしかなかった。
 なんて言えばいいのか……結果から言うと俺の勝ちなんだがな?

「「…………」」
 コインの結果が珍妙なんだよ。こんな結果は柊でも予想できねぇと思うぜ。
「俺の勝ち……だよな?」
「…………うん」
 コインは表にも裏にもならなかった。そして、直立したわけでもない。
 あん? じゃあ、どうなったのかって? 

 割れたんだよ。しかもコインが2枚になって、表も裏も出なかったんだぜ?
 半円になったわけでも、どこかが欠けたわけでもなく、綺麗に輪切り風に割れたのだ。
 決して割れないコインを創りだしたわけじゃないが、割れる可能性は考えてなかった。

「ま、まぁ…とにかく、結果は君の勝ちだね」
「ああ、なんかすげぇ納得いかねぇけどな……」
 なんともスッキリしない勝利に、俺は素直に喜ぶことができなかった。

「どんな結果でも、魂の試練はこれにて終了。これからよろしくね、健吾」
「ああ、力貸してくれよな」

「まっかせといて〜。っと、そんなこと言ってる場合じゃなかったね。
それじゃ、また会うことがあるかどうか分からないけど、また逢おうね〜」

 目の前が真っ白になり、再び視界が戻ってくると、そこは元の世界だった。
 そして俺の右手にはいつの間にか2m程の棒が握られていた。
 俺はそれが選里なんだ、となぜかあっさりと理解することができた。

「これで俺は戦えるようになったのか?」
 風華さんと共に戦えるほどの戦力を身につけることができたのか?
『大丈夫。健吾の選ぶ道なら、きっとすべて上手くいくよ!!』

 そうか? 俺がこれから選ぶ道はたぶん綱渡りの連続だと思うぜ?
 無難なコースを進もうとするけどよ……いつの間にか道は綱に変わっててさ……
 気付いた頃には戻れないほど進んじまってるような気がするんだよな……。


だってそうだろ? それが俺にとって"いつものこと"じゃねぇか!!

「いくぜ、選里!!」
『OK、健吾!!』

 俺は選里を握り締め、荒れ狂う戦乱へ向かって走りだした……。 



次の話に進む→

←前の話に戻る

トップページに戻る

小説のページに戻る

inserted by FC2 system