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 ここは何処だ……って、つい一週間ほど前にも思ったような気がする。
 選里の名前を読んだ瞬間、俺の見ている世界が一瞬で変わったわけだが……
 最近の俺、わけの分からない場所に飛ばされすぎだろ……

第261話 リスキーチョイス2  <<健吾>>

 しかし、今回はさらに常軌を逸してるってんだから、やってらんねぇ。
 周囲は真っ白で、あるのは丸いテーブルと椅子が2つ。
 それ以外は何も無い。果てしなく広がる白い世界だった。
「気に入った?」
 話し掛けてくるのは同年代の女。たぶん声からして、こいつが選里だ。
 何処の学校のものかも分からないセーラー服に身を包み、長い黒髪を揺らす。
 どっちかというと、清楚系の女だが、言動はそれと一致しない。
 いろんな意味でギャップを感じさせる女だった。

「で? どうやって俺を試すんだ?」
「お〜、単刀直入じゃん。質問もなし?」
 外見をぶち壊すほどの垢抜けたセリフは、さらに俺をブルーにする。

「聞きたいことはたくさんあるけどな。今はそれどころじゃねぇんだよ」
「だね。んじゃ、始めよっか」
 そう言って選里は一枚のコインを取り出した。

「表か裏か、ど〜っちだ?」
 なんてことをほざくもんだから、俺は一瞬呆気にとられた。
「お、お前……まさか、それが俺の心と意志を試す試験とか言わねぇだろうな?」
「ん? そだよ?」
「…………」
 たかが、コイン投げで俺の心が決まるってどうよ?
 おかしいだろ。んなもん、どう考えたっておかしいに決まってんだろっ!!!

「ざけんな!! そんなもんで決められてたまっか!!!」
「だよね〜。だから質問はないか、って聞いたんだけど……」
 やっぱりこうなった、と言わんばかりに溜息を吐く。

「ここ、心の世界。別名、魂の領域。そこまでOK?」
 わけが分からんが、とりあえず頷いておく。
 ここで分からないと言おうもんなら、面倒な説明が続きそうだったからだ。
「意思さえあれば、なんだってできる。例えば、こんなのとか……」

 その瞬間、俺と選里の間に川が出来上がる。
 水源すら分からない、その川の水は遥か彼方まで流れている。
「で、意思さえあればコインを表にも裏にもできる。以上、ヒント終わり」
 選里の言葉が終わるのと同時に川も消え去り、元の白い床に戻る。

「さ、表か裏。どっち?」
「…………」
 こいつの言うことを信じるなら、選ぶこと自体には何の意味もない。
 なぜなら、コインは表か裏になるのではなく、表か裏にするからである。
 俺が表にするように意思を働かせ、選里は裏にするように意思を働かせる。
 そして、コインはたぶん意思の強い方の面を見せるだろう。

 つまり、これは俺と選里の意思の強さを手っ取り早く競う勝負。
 世界一分かりやすいヒントだったぜ。なんせヒントどころか答えなんだからな。
「表だ。俺は表にする」
 すると、俺の言葉を聞いた選里はニッコリと笑った。
 我が意を得たり、といった感じだろうか。それは嬉しそうな笑顔に見えた。
「僕は裏だね。んじゃ、用意はいい? いくよっ」
「ちょっと待て!!!」
 俺の返事を聞かずにコインを弾こうとする選里を、俺は慌てて制止する。

「何? 君のために急いでるのに……」
 そりゃあ嬉しい。最高の気遣いをありがとよ。
 だけど、俺にはどうしても言わなきゃならないことがある。

「せめて、どっちが表か決めてからやれ」
「…………」

 だってよ、見たこともないコインなんだぜ?
 日本の硬貨でもねぇし、ついさっきまでいた異世界の硬貨でもねぇ。
 結果が出た後に、裏だって言われても、俺にはそれが本当か分からねぇじゃねぇか。
 それに、どっちの面になるように意思を働かせりゃいいのかも分からねぇ。
 最低限のルールくらい教えてもらわないと、勝負にならねぇよ。

「そうだったね。言うの忘れてたよ。あ、そうだ。それなら君がコインを作りなよ」
「は?」
「ここは意思の世界。イメージしてごらん。コインを作ってみなよ」
「…………」

 イメージ。コイン。表と裏が違うデザイン。勝負のためのコイン……。
 俺は頭の中で勝負のためのコインを思い浮かべた。

「コインは君の手の中にあるんだ。できるんじゃない、最初からあるんだよ。
強く思うんだ……。コインはあって当然。既に自分の手の中にあるって……」

(あって当然……俺の手の中にコインがあるのは当たり前……
最初から、俺が思い描いたコインは、俺の手の中にあるもの……)

 そして、数秒後に握った拳を開いた時、手のひらにはコインがあった。
「貸してみて」
 俺は何も言わずに選里に向かってコインを弾く。
 選里も選里で何も言わずにコインをキャッチし、しげしげと鑑定をする。

「お見事……と言いたいところだけどね」
「なんだよ? ちゃんとしたもんができてんじゃねぇか」
 どっからどう見ても立派なコインだ。文句のつけようがないはずだ。

「うん。形、質感ともに合格。ただ……」
 何かが足りないのか? 中に魂が無い、とか言うつもりなのか?
 そんなことは教えてもらってねぇぞ。言われてねぇことはやれねぇよ。

「デザインがダサい。君ってやっぱりセンスないね」
「ほっとけ!! んなもんどうでもいいだろっ!!!」
 俺が創りだしたコインはいたってシンプルだ。
 表には表、裏には裏と書いてある。それ以外のデザインは存在しない。
 まさに勝負のために創られたコインと言えるだろう。

「ま、予行演習にはなったよね。んじゃ、本番いくよ?」
 今度こそ待ったなし。俺の反応を待つ彼女に、俺はゆっくりと頷いた。

「表なら君の勝ち。裏なら僕の勝ち。それ以外は……君の勝ちでいいや」
 それ以外の可能性なんて皆無に等しいわけだが、無いとは言い切れない。
 こいつは結局、すべてを教えて勝負を始めた。
 俺が文句を言ったのが原因だが、言わなくても彼女は教えてくれたような気がする。


ピィィィィィン

 コインの弾く音が、この世界と共鳴しているかのように響き渡った……。



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