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 彼女……風華さんの闘いは雄二のそれと、どことなく似ているような気がした。
 だけど、それは似て非なるもので、彼女の方が洗練されているように見える。
 なぜなら、アイツのように、見ていて不安になるようなことがないからだ……。

第260話 リスキーチョイス1  <<健吾>>

 激しい死闘。増えていくモンスターの屍。風華さんの踊るような剣捌き。
 そして……それをただ、じっと見ているだけの俺。

 剣を振るって踊る風華さんだけを見るなら、美しくすらあるのだが……。
 周囲の醜いモンスター共を無視するなんて俺にはできねぇな。
 舞い散るモンスター……なんてシャレが思いついちまう俺が悲しい。

 ただ、誰も何も言わずに風華さんの闘いを見ている。
 なんで俺は彼女と共に戦おうとせずに、あっさり引き下がったんだろう。
 どうして逃げろって言われて、言われるままに、すごすご逃げちまったんだろう。

 俺が参戦したら彼女の足を引っ張っちまうからか?
 俺って、そこまで人に気を遣う奴だったっけ?

「高槻君。アンタ何考えてんの? 行ったらどうなるか分かってんの?」
 なんでバレたんだ? 結城のやつ、いつの間にか読心術でも体得したのか?

「ウェルティとは違うのよ? 負けたら死ぬのよ?」
「……。んなバカなこと考えるか」

「拳握り締めて言われても説得力無いのよ」
 結城に言われて初めて気がついた。俺は両手の拳を思い切り握り締めていた。

(なんだ……結局、俺、やる気なんじゃねぇか……)
 どんなに考えても、散々迷っても、身体も本心も行く気満々じゃん。
 俺をここに留めているのは、恐怖心だけなんだな……。

 そっか……俺はびびってるんだ。全然ダメじゃん。チキンじゃん。
 ウェルティの時ですら、酒に頼ってるくらいだしな。我ながら呆れるほどの情けなさだ。

ちくしょう、何なんだよ俺は!!
散々アイツ等と修羅場くぐってきたのに、命が懸かればコレかよ!!

(ほら!! さっきも動けたじゃねぇか!! 動けよっ!!!)
 真剣に足を動かそうとしているはずなのに、何故か足が重く感じる。
 だけど、俺はそれでもなんとか一歩を踏み出すことができた。

「死にに行く気ですか?」

 いつの間にか柊が俺の服をギュッと握っていた。
 自分との闘いに必死で、それどころじゃなかった。
「自分が今、どんな表情をしているか……分かりますか?」
 ああ、顔面なら蒼白だろうな。びびりまくってんだから。

「やめとけ。ありゃ人間の戦いじゃねぇよ」
「怖いんでしょ? 力になりたいのは分かるけど、私達にできることは何も無いわ」
 柊も、田村も、結城も、俺に行くなって畳み掛けてくる。
 誰も行こうとすら思ってない。俺だけが、動こうと、前に進もうとしてる。
 いつもの俺だったら、間違いなくこの3人と同じ位置に立っていただろう。

「確かに死ぬのも、あんな中に飛び込むのも怖ぇよ。
けど、ここで見ているだけってのはもっと嫌でさ……怖いんだよ」

 もう、仲間の力になれないのは嫌だ。なにかできるなら、してやりたい。
 雄二みたいなことを考えてる、と思うだろ? 奇遇だな。俺もそう思ってるよ。
 仲間、友達、親友、表現はなんでもいい。俺から奪うんじゃねぇよ馬鹿野郎!!!

 風華さんは仲間じゃないかもしれない。けど、あの人はこうして俺を助けてくれている。


ならば、俺もできることをやるべきだろう?

(雄二、お前の勇気……お前の力……少しでいい。俺に貸せっ!!!)


― そう願うのは勝手だけど……頼む相手が違うね ―

「誰だっ!!?」
「「「っ!!?」」」
 叫んだ俺に結城達はビックリして、周囲を見渡す。

― 他人の力は自分の力にはならないよ。借りるなら自分の力を借りなきゃ ―

「誰もいねぇじゃねぇか。驚かせんなよ」
 田村は、周囲を確認したうえで、俺の突然の叫び声を責める。
 確かに周囲には人はいない。だけど、声は確実に近くから聞こえてくる。

「?」

― 鈍いねぇ。テレパシーは経験済みでしょ?
  ま〜、これはテレパシーとはちょっと違うけどね ―

(誰だよ。俺になんか用か?)
 テレパシーと言われて、俺は会話を心の声に切り替えた。

― とにかく僕の名前を呼びなよ。話はそれからだね。僕の名前は選里<<せんり>> ―

「…………」

― どうかした? 早く呼びなよ ―

(……何も…しねぇだろうな?)

― するよ。健吾の心と意志の強さを試させてもらう。
  僕は弱い心の持ち主に憑く気はないからね。だから、試させてもらう ―

 声の主はあっさりと、何をするのかを自白した。

(どうやって試すんだよ?)

― それは呼べば分かるよ。どうする? やめる? 選ぶのは君だ ―

「…………」
 このまま突っ込むよりは力をいただいた方がいいのか?
 その試しとやらでミスったらどうなるんだ?

 力って雄二のやってた高速移動や斉藤の異常な握力みたいな力か?
 魔法のような力……それが俺にも与えられるってことか?

「くそっ、なんてファンタジーだ……」
 ファンタジー、幻想、夢物語だ。 魔法? モンスター?
 おいおい、ちょっと待ってくれよ。俺は今こそ夢であってほしいと本気で思うぞ。

 雄二や斉藤が魔法の力を見せつけ、モンスターを見せられ、今度は幻聴か?
 幻聴じゃねぇことくらい分かってる。とりあえず、夢と仮定した場合の話だ。
 頭がイカレそうだ。本格的に狂っちまいそうだ。でも、これは紛れも無い現実……。

「ったく、いつから俺の人生は魔法物語になっちまったんだよ?」
「アンタ……何言ってんの?」
 結城が危ない奴でも見るような目で、俺を見る。
 同感だ。俺だって、俺自身がどうかしちまったんだと思いたいくらいだからな……。

 選べって? 魔法の力を使うか、それとも今の力で挑むか、をか?
 このまま今の力で挑んでも、ある程度は戦える……けど死ぬだろうな。
 でも、魔法の力を手に入れれば、自信を持って彼女と共に戦うことができる…ような気がする。






「一つ言わせろ。女のくせに僕って言うな……選里」



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