彼女……風華さんの闘いは雄二のそれと、どことなく似ているような気がした。 だけど、それは似て非なるもので、彼女の方が洗練されているように見える。 なぜなら、アイツのように、見ていて不安になるようなことがないからだ……。 激しい死闘。増えていくモンスターの屍。風華さんの踊るような剣捌き。 そして……それをただ、じっと見ているだけの俺。 剣を振るって踊る風華さんだけを見るなら、美しくすらあるのだが……。 周囲の醜いモンスター共を無視するなんて俺にはできねぇな。 舞い散るモンスター……なんてシャレが思いついちまう俺が悲しい。 ただ、誰も何も言わずに風華さんの闘いを見ている。 なんで俺は彼女と共に戦おうとせずに、あっさり引き下がったんだろう。 どうして逃げろって言われて、言われるままに、すごすご逃げちまったんだろう。 俺が参戦したら彼女の足を引っ張っちまうからか? 俺って、そこまで人に気を遣う奴だったっけ? 「高槻君。アンタ何考えてんの? 行ったらどうなるか分かってんの?」 なんでバレたんだ? 結城のやつ、いつの間にか読心術でも体得したのか? 「ウェルティとは違うのよ? 負けたら死ぬのよ?」 「……。んなバカなこと考えるか」 「拳握り締めて言われても説得力無いのよ」 結城に言われて初めて気がついた。俺は両手の拳を思い切り握り締めていた。 (なんだ……結局、俺、やる気なんじゃねぇか……) どんなに考えても、散々迷っても、身体も本心も行く気満々じゃん。 俺をここに留めているのは、恐怖心だけなんだな……。 そっか……俺はびびってるんだ。全然ダメじゃん。チキンじゃん。 ウェルティの時ですら、酒に頼ってるくらいだしな。我ながら呆れるほどの情けなさだ。 ちくしょう、何なんだよ俺は!! 散々アイツ等と修羅場くぐってきたのに、命が懸かればコレかよ!! (ほら!! さっきも動けたじゃねぇか!! 動けよっ!!!) 真剣に足を動かそうとしているはずなのに、何故か足が重く感じる。 だけど、俺はそれでもなんとか一歩を踏み出すことができた。 「死にに行く気ですか?」 いつの間にか柊が俺の服をギュッと握っていた。 自分との闘いに必死で、それどころじゃなかった。 「自分が今、どんな表情をしているか……分かりますか?」 ああ、顔面なら蒼白だろうな。びびりまくってんだから。 「やめとけ。ありゃ人間の戦いじゃねぇよ」 「怖いんでしょ? 力になりたいのは分かるけど、私達にできることは何も無いわ」 柊も、田村も、結城も、俺に行くなって畳み掛けてくる。 誰も行こうとすら思ってない。俺だけが、動こうと、前に進もうとしてる。 いつもの俺だったら、間違いなくこの3人と同じ位置に立っていただろう。 「確かに死ぬのも、あんな中に飛び込むのも怖ぇよ。 けど、ここで見ているだけってのはもっと嫌でさ……怖いんだよ」 もう、仲間の力になれないのは嫌だ。なにかできるなら、してやりたい。 雄二みたいなことを考えてる、と思うだろ? 奇遇だな。俺もそう思ってるよ。 仲間、友達、親友、表現はなんでもいい。俺から奪うんじゃねぇよ馬鹿野郎!!! 風華さんは仲間じゃないかもしれない。けど、あの人はこうして俺を助けてくれている。 ならば、俺もできることをやるべきだろう? (雄二、お前の勇気……お前の力……少しでいい。俺に貸せっ!!!) ― そう願うのは勝手だけど……頼む相手が違うね ― 「誰だっ!!?」 「「「っ!!?」」」 叫んだ俺に結城達はビックリして、周囲を見渡す。 ― 他人の力は自分の力にはならないよ。借りるなら自分の力を借りなきゃ ― 「誰もいねぇじゃねぇか。驚かせんなよ」 田村は、周囲を確認したうえで、俺の突然の叫び声を責める。 確かに周囲には人はいない。だけど、声は確実に近くから聞こえてくる。 「?」 ― 鈍いねぇ。テレパシーは経験済みでしょ? ま〜、これはテレパシーとはちょっと違うけどね ― (誰だよ。俺になんか用か?) テレパシーと言われて、俺は会話を心の声に切り替えた。 ― とにかく僕の名前を呼びなよ。話はそれからだね。僕の名前は選里<<せんり>> ― 「…………」 ― どうかした? 早く呼びなよ ― (……何も…しねぇだろうな?) ― するよ。健吾の心と意志の強さを試させてもらう。 僕は弱い心の持ち主に憑く気はないからね。だから、試させてもらう ― 声の主はあっさりと、何をするのかを自白した。 (どうやって試すんだよ?) ― それは呼べば分かるよ。どうする? やめる? 選ぶのは君だ ― 「…………」 このまま突っ込むよりは力をいただいた方がいいのか? その試しとやらでミスったらどうなるんだ? 力って雄二のやってた高速移動や斉藤の異常な握力みたいな力か? 魔法のような力……それが俺にも与えられるってことか? 「くそっ、なんてファンタジーだ……」 ファンタジー、幻想、夢物語だ。 魔法? モンスター? おいおい、ちょっと待ってくれよ。俺は今こそ夢であってほしいと本気で思うぞ。 雄二や斉藤が魔法の力を見せつけ、モンスターを見せられ、今度は幻聴か? 幻聴じゃねぇことくらい分かってる。とりあえず、夢と仮定した場合の話だ。 頭がイカレそうだ。本格的に狂っちまいそうだ。でも、これは紛れも無い現実……。 「ったく、いつから俺の人生は魔法物語になっちまったんだよ?」 「アンタ……何言ってんの?」 結城が危ない奴でも見るような目で、俺を見る。 同感だ。俺だって、俺自身がどうかしちまったんだと思いたいくらいだからな……。 選べって? 魔法の力を使うか、それとも今の力で挑むか、をか? このまま今の力で挑んでも、ある程度は戦える……けど死ぬだろうな。 でも、魔法の力を手に入れれば、自信を持って彼女と共に戦うことができる…ような気がする。 「一つ言わせろ。女のくせに僕って言うな……選里」 |