次の話に進む→

←前の話に戻る

トップページに戻る

小説のページに戻る


 見つめあう私と雄二君。
 もう、無駄な言葉はいらない。言うべきことを言うだけだ。
 だけど…………口が開かない。

第156話 想いを言えない…  <<有香>>

 言いたいと思っているのに、強く願っているのに言葉が出てくれない。
「…………」
「…………」
 雄二君も何も言わずに私の言葉を待っている。
 そう考えるとますます言えなくなってくる……悪循環だ。
 勇気もあるはずなのに私は言えないまま口を閉ざしている。

「私は……」
「な、なぁ……」
「!? 何!?」
 急に言葉を発してきた雄二君に思わず驚いてしまう。
「別に俺に遠慮しないで、言いたい事言ってくれよ」
 口を閉ざしているのは遠慮してるからじゃない。そのことを雄二君は分かっていない。
「俺、有香になんかしちまったか?」
 否定するために私は全力で首を横に振る。

「じゃあ言わなくていい。言える時に言ってくれよ」
「あっ……」
 部屋に帰っていく雄二君。何か言わなきゃ!!
「わ、私!!」


「…………私、それでも雄二君と同じクラスになれてよかったって思ってるから」
 結局、私が言えたのは私の気持ちだけど、言いたいことじゃない。
 告白した結果を考えると、怖くて言えない。

(もっと、私が成長して勇気を持つことができたら…きっと言うから……)

「俺も思ってるよ。B組はみんな最高だってな」
 そう笑って言って、雄二君は部屋に入っていってしまった。
(そういう意味で言ったんじゃないんだけどなぁ……)
 雄二君の鈍さには既に諦めがついている。
 私も溜息をつきながら、とぼとぼと部屋に戻った。



「……なに……してるの?」
「……別に」
 エリスは壁に耳を当てた状態で固まっていた。
 その状態で気付かない方がおかしい、盗み聞きとはとんでもないお姫様だ。
「品格を疑うわ……本当に王女なの?」
「私は城継ぐために育てられてないからね」
 そういうのとは関係なくマナーとか常識は学ぶと思うんだけど……。

「意外と勇気ないのね」
「……しかたないじゃない」
 恋愛に関して臆病なのは私が一番よく分かってる。
「けっこういい雰囲気だったのにね」
「……やっぱり?」
 盗み聞きのことを責めることなくエリスの話を聞いてしまった。
 あのシチュエーションはそんなに多く与えられないだろう。

「なんで言わなかったの?」
「言おうとしたわよ……」
 言おうとしたけど言えなかった。言い訳かもしれないけど本当にそうなのだ。
「何年?」
「え?」
 急に聞いてきたエリスの質問の意味が分からなかった。

「アイツを好きになって、よ」
「1年……と3ヶ月」
 あの日のことは今でもはっきり覚えている。
 強さにコンプレックスを持っていた私に、私のありかたを教えてくれたときだ。
「長いわね。アイツがとことん鈍いのか、ユカが消極的なのか……」
 前者だと胸を張って言いたいところだが両方が正解だろう。
 智樹君も言っていたが、どうやら私の全力は消極的に見えるらしい。

 告白をして断られるのはまだいい。その後も顔を合わせるのが辛い。
 だから別れの直前に告白する人が増えるのだ。
 私は、つい最近そのことに気付いた。みんな臆病なのだ……。
 その中で、勇気を持っている者だけが告白という舞台に立てる。
 私はまだ……その舞台に立てる勇気を手に入れていない。
「誰かに取られても文句は言えないわよ?」
「…………」
 雄二君の恋人になる人を恨む権利なんて誰にも無い。

「コリンなんて、けっこう危なそうじゃない」
 親公認だが本人達が公認していないという異例の婚約者。
 異世界間の恋愛なんて成立しない、と雄二君も言っている。
 だけど、そんなこと好きになったら関係ないような気がする。
 
 もし、雄二君がリオラート人だったとしても私は好きになるだろうし
 何度でもこの世界に会いに来ることだろう。
「そうだね……」
 コリンさんには私も危機を感じている。
「ああやって小競り合いしてる方がうまくいくこともあるでしょ?」
「じゃあ、エリスは?」
 同じように小競り合いをしているエリスも雄二君に好意があるのだろうか。
「私もアイツのこと嫌いじゃないわ……」
「え?」
「なんなら私がユージ貰っちゃおうか?」
「ダ、ダメッ!!」
 そんなこと言う権利がないと分かっていても言ってしまう。

「冗談よ。アイツのことは嫌いじゃないけど好きってわけでもないからね」
「心臓に悪い冗談やめてよ……」
 本気で心配し、本気でほっとした。本当に心臓に悪い。 

「それに、ユカほど物好きでもないからね」
「物好きで悪かったわね」
 そんなに雄二君を好きになるのは変なことだろうか。
 不思議な考えをする人だとは思うが、変ではない。
 むしろそこが長所であり、魅力だとも思っている私は変なのだろうか?

「私ってそんなに物好きかなぁ?」
「見方の違いよ」
 人によって評価が違うのは当たり前のことだ。雄二君に限ったことじゃない。
 私だって誰かの気分を害している可能性だってあるのだ。
「じゃあ、エリスは雄二君をどう思ってるの?」
「ん? 私?」

「変な奴。変だけど……納得させるものを持ってる奴……かな?」
「何それ?」
 よく分からない評価だけど、なんとなくなら分かる気がする。
「トモキも言ってたけどね、真剣になるべき時が分かってる奴なのよ」
「……それで?」
「つまり、真剣じゃなくていいときは本当に適当にやる奴よ」
 もし、それが本当のことだとすると得な人だ。
 そんな器用なことができる人は早々いないだろう。

「ったく、羨ましい性格だわ」
 そう言って部屋を出ていこうとする。
「どこ行くの?」
「夕食。ユカが作らないなら私が作らないとまずいでしょ?」
「あっ、私も手伝うわ」
(こっちの世界の料理ももうちょっと勉強しておきたいし……)

「じゃ、早く作りましょ」 
 私達は台所へ行き、夕食を作り始めた……。



次の話に進む→

←前の話に戻る

トップページに戻る

小説のページに戻る

inserted by FC2 system