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 最近、僕は戦闘が終わると吐きそうなほど気持ち悪くなる。
 精神的に緊張の糸が途切れ、平常時とのギャップからくるものだと思う。
 当然、食欲など沸くわけもなく夕食も食べたくなかった……。

第157話 自己分析  <<智樹>>

 いつも僕はこうだ。不良たちとの大喧嘩、そして今回。
 コブリン掃討戦の時はそんなことなかった。
 原因は恐らく……キール盗賊団戦時の大乱闘だろうと予測している。

 戦闘に強大な恐怖がある。それを無理矢理押し込めて僕は戦っている。
 それが終わったとき、その押し込めた恐怖分のリバウンドがやってくる。
 僕は自分の性格をこう予想しているが、間違ってはいないだろう。

 プレッシャーに免疫のない人間が極度の重圧を感じたとき
 精神的なものが直接身体に症状として出る、こんなところだろう。

 雄二も何か思うところがあったらしく黙って何も言わない。
 そのせいで、僕達の部屋はとても静かだった。



 夕食の時間になってもコリンさんは目を覚まさなかった。
 眠っているだけなので大丈夫だ、とエリスは言っていたので問題はないだろう。
 僕は、あまりと言うより、全然食べることができなかった。
 
 全員の様子を見ると、何もしていない僕が一番疲弊しているようだった。
 エリスは大量に僕の分を奪っていくほど食欲があるし
 雄二や有香さんもウェポンを使った影響でいつもより食べている。
 しかし、そんな中でも誰も何も言わないまま、淡々と夕食の時間は終わった。

 結局コリンさんを家に泊めることになり、有香さんはエリスと一緒に寝ることになった。
 雄二はその旨をジートさんに伝えに行った。
 

 僕達も今日だけは一刻も早く眠りたいと思ったため、就寝時間となった。
 雄二が即座に眠る中、僕はなかなか寝付けなかった。
 遠くで見ていただけなのに、今更ながら震えてくる。
「今夜は眠れそうにないや……」
 目は冴えている。しかし身体は疲れている。疲れているのに眠くならない。
 僕の心臓の鼓動がやけに大きく聞こえ、その間隔は早い。
 
 僕はこの世界に来ると夜更かしばかりしている気がする。
「雄二に眠らせてもらえばよかったなぁ……」
 まさかこんなことになるとは思いもしなかった。
 結局、僕はこのまま朝を迎えることになる……。



 朝日で部屋が明るくなり、洗顔と水汲みのため、井戸に向かう。
「あっ……」
「…………」
 コリンさんが気まずそうな顔で僕を見る。
 
 なぜなら、大きな荷物を持って歩いていたからだ。
 こんな大荷物を持って移動するとしたら考えられることは一つしかない。
「クェードへ帰る気かい?」
「……こっそり帰る気だったんだけどね」
 溜息をつきながら、諦めたように荷物を降ろす。

「僕は止めないけどね……次に会ったとき、怒られると思っておいてね?」
「その頃には忘れてるわよ」
「だといいね」
 きっと、僕達はコリンさんと再会することになると思う。
 それは遠い未来かもしれないし、近い未来かもしれない。

「ここに帰ってきて私は私に必要なことが分かった気がするの」
「ふ〜ん、でもなんで黙って行くんだい?」
 清々しい顔で言い切っているが、無断で帰っていく意味が分からない。
「まだ、ありがとうは言わないわ。強くなってから言うつもり」
「はぁ……」
 そのこだわり、僕には分からないが彼女にとっては重要なことなのだろう。

「じゃ、また会えるんだね?」
「私が強くなったらね」
「……僕達がクェードに行くこともあるけど?」
 エリスがいる以上、なんらかのことでクェードへ行く事もある。
「まぁ、なんとかするわよ……」
 どうしても強くなるまでは会わないつもりらしい。
 意地っ張りというか、なんというか……。

「一人で帰れる?」
「あははっ、トモキさんに心配されるとはね」
(……何も笑わなくてもいいじゃないか)
 表情に出すようなへまはしないが、ちょっとムッときた。
 確かに僕はコリンさんより弱いかもしれないけど心配くらいしてもいいと思う。
 もし一人で盗賊に襲われたら、とか思うわけだ。
 
「私は一人でここまで帰ってきたのよ? 大丈夫。心配ないわ」
 笑顔で自信満々に答える。
 雄二なら送ってあげることができるだろう。僕には何もできない。
「じゃあ、行くわ」
「あ……うん」
 再び歩き出してしまったコリンさんを止める術はなかった。
 僕にできることは、ただ見送ることだけだった。

「行っちゃいましたね……」
「レナさん……」
 見送っている僕に後から声をかけられた。
「私にだけは挨拶していったんですよ」
「そう」
 姉のような存在であるレナさんにだけは挨拶をしたらしい。

「皆さん起こしちゃいましたけどね」
「え?」
「皆さんはあそこにいます」
 後方の小屋の影からみんながいて、僕に向かって雄二が手を上げる。

「なんで?」
 なんで出てこなかったのか、レナさんに聞いてみた。
「ユージさんが言ったんですよ。『会いたくねぇ理由があるんだろ』って」
 確かに会いたくない理由はあった。
 雄二は起こさなかったことを怒ることもなく、コリンさんを理解していた。

「ユージさんはコリンさんを尊重したんですよ。私もそれでいいと思います」
「そう……かもしれないね」
 雄二は何を思ってコリンさんを尊重したのかは分からない。
 それは雄二なりの考えがあってのものだろうし、
 僕が雄二の立場になっても同じことをしたかもしれない。

「ユージさんがチキュウに帰るそうです。『じゃあ、俺達も帰るか』って」
「わかったよ。レナさん大丈夫?」
「3人くらいなら、もうそれほど疲れませんよ」
 片腕を曲げ、力瘤を見せるが、その細い腕に瘤はない。

「レナさんってどうやって訓練してるんだい?」
 ちょっと気になったことを聞いてみた。
「チキュウをちょっとお借りして、小さなものを往復させてます」
 どうやら空間移動で物体を往復させているらしい。

「でも階級は上がらないんですよね……」
「そういえば、僕も上がってないのかな?」
 神無には階級についての話は聞いてない。話題にもなっていない。
 大して気にならないことだし、僕にとってはどうでもいいことだからだ。

「さぁ、もうそろそろ帰る準備をしてください」
「あ、うん」
 地球の服に着替えなきゃならないし、こっちの本も数冊借りていこう。


「けっこう面白そうね。召還って」
「面白くねぇっつうの。みんな、忘れもんねぇか?」
 エリスに答え、僕達に様子を聞く。
「OK」
「私も大丈夫」
「うし、んじゃ、レナ頼む」
「はい、<<美空の主が命ずる。空間の支配を我に授けよ>>」



 そして、僕達は地球に、雄二の部屋に帰ってきた。
「お前、あっちの本持ってきたのかよ?」
「あれ? 雄二、宿題は?」
 確か雄二は宿題を持ってリオラートへ行っていたはずだ。

「…………」
「もしかして……忘れちゃったの?」
 雄二が黙り込み、有香さんが直球で聞く。
 そりゃそうだ。僕達に忘れ物は無いかと聞いていて自分が忘れ物をするとは……。

「<<無繋よ。我とレナ・ヴァレンティーノとの精神を繋げよ>>」
 雄二はレナさんと何かを話し始める。
 テレパシーなので僕には何を話しているのかは分からない。

 数分後、テキストやノートが地球に送られ、この事態は終結した……。



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