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 黒い炎はまだ消えない。暴れるグリズリーを包み込んでいる。
 どんなに地面に身体を擦りつけようと、その炎は消えることはなかった。
 この魔法が俺に当たっていたらと思うとぞっとする。

第155話 戦闘後の俺等  <<雄二>>

「…………」
 吹き飛んだグリズリーだけが燃え続けている。
 木にも草にも燃え移ることはない。不思議な炎だった……。

「すげぇじゃねぇか。コリン!!」
 このとき俺は初めてコリンのほうを振り向いた。
「あ……ったりまえ…でしょ……」
「お、おい」
 笑ってはいるもののコリンは智樹の肩を借りてようやく立っている状態だった。
「雄二、早く帰ろう。眠らせてあげた方がいい」
「アンタ分からないの!? 精神力の使いすぎ!! このままじゃ倒れるわよ!?」

「もしかして、あのときの雄二君と同じ状態!?」
「うん、おそらくね……。今のコリンさん倒れてもおかしくないよ」
 あの時ってのは盗賊と一戦やったときのことだろうな……。
 項垂れるコリンを見ると、かつての俺はこれ以上酷かったのか、と思う。
「<<風華の主が命ずる。風よ、彼の者に安らかな眠りを与えよ>>」
 コリンが相手だと詠唱短縮した場合、効かない可能性があった。
 春風の範囲を智樹に当たらないよう、コリンだけに絞って当てる。
 どうやら効いたらしい、スイッチが切れたようにコリンは崩れ落ちた。

「んじゃ智樹、運んでくれ」
「え……僕?」
 肩を貸している智樹がちょっと複雑そうな顔を見せた。
「なんだ? 嫌なのか?」
「ちょっとシア村まではキツイかなぁ……と」
「…………」
 何の問題かと思えば体力面かよ……。
「私が運ぶわ」
「そうだな、頼む有香って……オイッ!!」
 有香はコリンを片手で持ち上げ、軽々と担いで歩き出した。
「んな運び方あるかよっ!!」
「……無理した罰よ」
 振り向きもせずにそう言うと、再び歩き始めた。
「じゃあ、エリス。帰ろっか」
「うん。なかなかやりがいのある作戦だったわ」
 智樹はエリスと話しながら歩いていく。

「お〜い……」
 その場にポツンと残されることになった俺。
 そして遠くに見えるのは暴れることすらなくなった熊の残骸。
『え…と。あたしが一緒に帰ろうか?』
(……うん)
 何か…なぜかは分からないけれど、物凄く悲しくなった気がした……。
 そして風華を消さないまま、とぼとぼとシア村へ帰ることとなった。


「でもよぉ、功労賞もんの俺を放置とはどういうことだ?」
『さぁ? みんなお疲れなんじゃない?』
「智樹やエリスは分かるとして、あんなことで有香がへばるわけねぇだろ?」
 はたから見れば俺が独り言を言っているように見えるだろう。
 周囲に人がいないことを確認して喋っている。

『ん〜そういえばそうね』
「だろ?」
 有香だってああ見えて武闘派の一員だ。喧嘩には向いていないと思うが……。
 当然体力だって人並み以上のものを持っている。
 それをちょっとの戦闘やっただけで疲れるとは思えない。
『まぁ、有香ちゃんには有香ちゃんの理由があると思うわ』
「聞いてみるか……」
『そこのところは雄二の自由よ。好きにしなさい』
 こういう部分では俺の自由にさせる。
 自分の考えを言うだけで判断は俺に委ねる。風華はそういう奴だ。
 宿主の決定事項には従うが……命令は聞かない。

「変なやつ……」
『雄二も相当変わった主よ。今まで憑いた誰よりもね』
(お互い様ってやつか?)
『そういうことになるのかもね』
 俺は自分が変わっていると思ったことはないが変わっていると言われたことは無数にある。
 周囲の奴等が俺を見て、変わっていると言うのなら
 俺の考え方は普通の人間と比べれば少々変わっているのだろう。

「まぁいいや。俺は俺だ」
 たとえどんなに変わっていても、自分を偽ってまで普通になりたくはない。
 なんと言われても自分を変えるつもりもない。
『そんな雄二だからあたしも呼びかけたのよ』
「そりゃ、ありがとよ」
 俺はみんなに追いつくために歩調を早くした……。



「コリンの様子は?」
 眠っているに決まっているのだが俺は聞かずにいられなかった。
「まだ寝てる……」
 寝ている場所は俺達の家の女性部屋。有香のベッドだった。
 女性部屋に俺や智樹は入れないことになっている。暗黙の了解ってやつだ。
 そのため扉の前。廊下で有香の話を聞いている。
「明日には目覚めるらしいわ」
「そっか。そりゃよかった」
 こんなことになるなら今日の訓練はやらなければよかった……。
 今日の訓練はもっと楽しくなるはずだったのに、熊のせいでぶち壊しだ。

「ったく、まともに事が進むことはねぇのかよ」
「本当だね」
 ここ最近、普通にイベントが終わるときがない気がする。
 本気で悩んでいるというのに有香は笑ってるし……。
(こりゃ、マジで帰ったらお祓い行くか?)
 
「でも、それが私達なのかもね」
「それを言うな。こんな日常、俺は嫌だぞ……」
 特殊クラスに入らず平凡な日々を送っている方が俺はよかった。
「私は嫌いじゃないよ。今の学校生活」
「そりゃ、俺だって好きだよ。毎日退屈しないからな」
 あのクラスにいることで、普通の学校生活より楽しい毎日を過ごしているのは確かだ。
 
「ねぇ、雄二君……」
「ん?」
「…………」
「なんだよ?」
 有香はうつむいて黙ってしまった。自分から話しかけといてそりゃねぇだろ?
 
「あ、あの、私ね……」
「……お、おう」
 なんだよ? んなマジな顔して……。
 軽い雰囲気じゃないことを悟った俺は真剣に聞くために気を引き締めた。
「…………」
「…………」
 有香は俺を見ていて、俺も有香を見ている。
 俺は有香がとても大事な事を言おうとしていることが有香の表情から分かった。
 それでも有香は言いにくそうに黙り込んでいる。

 有香が俺に言う重要なことなんて、まったく見当もつかなかった……。



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