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 なぜか怒り狂ったグリズリーに対峙する僕達。逃げることは選択肢にない。
 僕達が選ぶであろう対応方法は、退けるか……殺すかだ。
 偶然にも訓練が実戦になってしまったわけだ。

第154話 VSグリズリー  <<智樹>>

 じりじりと距離を縮めてくるグリズリー。僕はそれ以上に距離をとる。
 身体が震えてくる。武者震いじゃない、恐怖で、だ。
「……か、神無」
 何とか神無を呼ぶが、僕は役に立てそうもない。
「智樹!! 下がって……見てろ」
「……うん」
 僕は下がって見ていることしかできない。

「<<風華の主が命ずる。風よ、矢となりて我が敵を討て!!>>」
 周囲の風が収束し、グリズリーに向かって一直線に向かっていく。
「グルァアア!!!」
「やっぱ効かねぇか……」
 片手で風の矢を一閃されて、雄二は苛立ち頭を掻く。


「ユージ、どいてなさい。晃斥!!」
「げっ」
 多数の弾丸を疾風でかわす雄二。チームワークのチの字もない。
 弾丸はグリズリーに命中するがたいしたダメージになっていないようだ。
「俺に当てる気か!! じゃじゃ馬!!」
「避けられたんだからいいじゃない!!」
 敵を無視して口喧嘩を始める二人。戦闘中だよ!?

「雄二君!! 遊んでる場合じゃないわ!!」
「ユカさん、援護するわ!! <<ファイアボール!!>>」
 一方、真面目に戦闘に取り組む二人。
「くぅっ!!」
 有香さんがグリズリーの爪を受け止めようとするが、受けきれずに後ろに弾かれる。

「全力でも無理なの……?」
 信じられない、といった表情で右手を見つめる有香さん。
「いけっ!!」
 有香さんが弾かれるのと同時に火の玉を叩きつける。
 200発以上の弾を集中的にくらったグリズリーはそれでも怯まない。

「こんなバラバラじゃあ勝てるものも勝てないよ……」
 上手く連携を組むことができれば、もっと力を発揮することができるはずだ。
『だから彼は智樹様に言ったのでは? 見ていろ、と』
「!? なるほどね……」
 神無に言われて雄二の言葉の意味をようやく理解した。
「雄二!!」
「さすがに早ぇな。みんな!! 智樹のところに集合!! 作戦会議だ!!」

 雄二がグリズリーの相手をしている間にみんなが僕のところに集まる。
「時間が無いからしっかり聞いてもらうよ」
 いくら雄二といえど、時間を稼ぎ続けられるものではない。
「前衛は雄二とエリス。いける?」
「任せといて」
 不本意だが、エリスの斥力があれば決定打に繋がる。
「エリスは雄二が危なくなったら攻撃して……囮になってもらう」
 大丈夫だ、と何度も自分に言い聞かせる。
「そんな心配そうな顔しないでよ。大丈夫。私に触れることはできないわ」
 エリスはそう言って僕の頬に触れる。

「私は? 前衛じゃないの?」
「有香さんは壁で雄二をサポートしながら攻撃も担当してくれる?
前衛、後衛の両方をやってもらうよ。戦闘の要になるけどできるよね?」

「……できるって判断したから選んだんでしょ? やれるわ」
 大丈夫。有香さんの実力ならそれくらいできるよ……。
 それに、たぶん有香さんの壁は……
「僕が指示を出すまでの時間稼ぎ、頼むよ?」
「OK。エリス、行きましょ」
「ええ」
 戦闘方法を聞いて、すぐに雄二の援護に向かった。

「私は後衛よね?」
 コリンさんは自分のやるべき事を確認するように聞いてきた。
「うん。援護はいらないから、思いっきり強い魔法の詠唱にはいってくれる?」
「雄二に撃ったやつよりちょっと強い程度の威力だけど……」
「充分だよ」
 とは言ったものの、ちょっと決定打に欠けるかもしれない。

「全力で頼むよ。コリンさんが決め手なんだ」
「……わかったわ」



前衛組 <<雄二>>

 疾風で熊の背後に回り、風華で斬る。
 しかし、斬ることはできても致命傷を与えるほどではない。
『有利、といえば有利なんだけどねぇ……』
(ま、いつまでもこうしてはいられねぇだろうな)
 疾風の使用、未使用の切り替えの連続。これが結構精神力的にきつい。
「ちぃっ!!」
 爪の攻撃が俺を襲う。あれをくらうのだけは二度とゴメンだ。
 間に合わないと判断し、風華をクロスさせ防御する。

「うおっ!!」
 襲ってくるはずの衝撃がいつまでたってもこない。
 その代わりに10mほど吹っ飛ばされた。
「ユージ。作戦……開始よ」
「じゃじゃ馬?」
 俺と熊の間に入ったのはエリスだった。

「大丈夫?」
「ん? おお」
 有香に助け起こされるが、何が起きたのか分からない状態だ。
「私達は智樹君の指示があるまで時間稼ぎだって」
「ま、そうだろうな」
 アイツをなんとかするには俺達じゃ攻撃力に乏しい。
 今の段階で一番攻撃力があるのはコリンの魔法だ。
 ただ、智樹がエリスを前衛に持ってくるとは思わなかった。

「ねぇ、私はいつまでこうしてればいいの?」
 エリスを見ると熊の攻撃を弾き続けていた。
 熊も熊で何度も何度もエリスに攻撃をしているが、数cm前で止まっている。
「有香、頼む」
「うん。<<アブソリュートウォール>>」
 エリスと熊の間に壁を張り、エリスを退かせる。

「んじゃ、智樹の指示があるまで時間稼ぎだな」
 俺のやることは変わらない。有香とエリスのサポートが加わっただけだ。



後衛組 <<コリン>>

 ユージが斬り、動き回る。そしてユカさんが打撃を加え、グリズリーの注意を引く。
 誰かが攻撃されそうになればエリスがそれを守り、二人が距離をとる。
 ユカさんが魔法の壁を張り、エリスが逃げる余裕を作る。
 その一連の行動を繰り返すことで見事にグリズリーを翻弄している。
「<<右手に集え……火の精霊よ>>」
 見てばかりもいられない。魔力を集中させ火の精霊を呼び出す。
「<<左手に集え……闇の精霊よ>>」
 成功したことは無い。だけど今ならできる自信はある……。
 トモキさんに言った魔法よりも強力な魔法だ。2回目の挑戦。
 一度目はできなかったけど、今ならできそうな気がする。

「……っ」
 二つの属性の精霊を一度に集めるのは一つの属性のときの比じゃない。
 集めて安定させるだけでも、強い魔力と相当の集中力が必要だ。

「<<集約し、融合せよ。共に働き、闇の炎と化せ……>>」
 二段階目、二属性の融合。
 少しずつ混ぜ合わさり、黒い炎が出来上がっていく。

「その火は……?」
 トモキさんには悪いけど、今その質問に答えているほどの余裕は無い。
 完全な形になるまでもう少し時間がかかる。
 だがこの魔法が当たればグリズリーに大ダメージを与えることができるだろう。

 私の周囲に闇の炎が渦巻いていく。
「……っ!! <<混沌なる闇の炎よ、焼き尽くせ!! その身が塵と化すまで!!>>」
「…………」
 トモキさんは炎に焼かれないように私から離れていた。
「……用意…できたわ」
「OK。僕の合図と同時に撃って」

「ユージ!! ユカさん!! 離れて!!」
「「 了解!! 」」
 エリスを残して、2人がグリズリーから離れる。
「エリス!! 今だ!!」
「晃斥、出力全開よ!!」

「グアァア!!」
 グリズリーが斥力によって吹っ飛ばされる。

「コリンさん!! 撃てっ!!!」
 私の出番だ。止まっているグリズリーなら当てることは容易くなる。
「<<ダークネスフレイム!!!>>」
 コントロールが効かなくても関係ない。止まっている相手なら!!
 そして、闇の炎はグリズリーを包み込んだ……。



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