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 既にコリンさんに捕らえられた智樹君。それぞれの位置で様子を窺う3人。
 この訓練は本当に遊んでいるように見える。
 だけど、2日で考えたとは思えないほどよくできていると思う。

第153話 訓練じゃない  <<有香>>

 場所はシア村から5kmほど離れた森の中。訓練は行われている。
 コリンさんの近くに突き立てられた木刀。
 私達はそれを抜き、投げることができれば、智樹君を救出できる。
 能力の使用は一切禁止。
 一方、コリンさんにアクアシュートを身体のどこかに当てられれば捕らわれてしまう。
 私達はコリンさんの隙を突いて木刀を奪取、捕らわれた人を救う。

 そう、缶蹴り。このルールは缶蹴りに近い。
 相違点は、最初から捕らえられている人がいること。
 誰も攻撃に出ない、という理由から一人捕虜を用意していた。
 缶のかわりが木刀で鬼はコリンさん。魔法によるタッチ方式。
 一度に出しておける水の弾は10発のみ。見事に対等なルールになっている。

(ただ避けるとなると……)
 難しい。粉砕することはできるが、それでは捕まってしまうことになる。
 5発の弾をすべてかわし、コリンさんを避け、木刀を取る。
「有香……おい、有香」
「ゆ、雄二君!? どうしてここに……」
 どこに隠れているかも分からなかったのだが、自分の背後にいたとは……。
「バカ!! 声がでけぇよ!!」
 気付けばコリンさんがこちらを向いていて手を突き出していた。
「逃げろ!!」
 容赦なく水の弾が私達を襲う。木の陰に隠れてやり過ごした。
「くそっ、とりあえずここを離れるぞ!!」
「う、うん」
 木に隠れつつ、その場から慎重に逃げ出した。


「隠密行動だぞ? 大声出すなよ……」
「ご、ごめん。急に声かけられたから驚いちゃって……」
 気配察知力が落ちているのだろうか? まったく気付かなかった。
「なぁ、俺が囮やるから木刀頼んでいいか?」
「え……いいけど」
 確かに一人では難しい。囮役を雄二君がやってくれるならありがたいものだ。
 
「じゃあ、俺が出たのと同時に仕掛けてくれ」
「うん、わかった」
 私の返事を聞いてすぐに雄二君は森の中に入っていった。



 同時攻撃 <<雄二>>

 有香の反対方向から攻撃を仕掛けるために森の中を歩く。
「捕まった〜!!」
 じゃじゃ馬姫の叫びが森の中に響き渡る。
 無謀にもエリスは単独で攻撃を仕掛け、水を被ったらしい。

 自分で考えたルールだが、これは結構難しいものだと悟った。
 もう少しルールを俺達にとって有利にしておくべきだった。
「囮にも使えやしねぇ……」
 3人同時攻撃を仕掛ければ間違いなく勝てる勝負だったというのに……。

 こうなったら俺が必死こいて魔法の標的になるしかないようだ。
 コリンは周囲を定期的に見渡し、俺と有香を警戒している。
 一度俺の方を確認し、視界から外れたのを見計らって俺は静かに走り出した。

「いけっ!!」
 容赦ない。10発全弾が俺に向かって襲ってきた。
 だが、これでいい。俺に魔法が来ているので、有香に対して隙だらけになる。
 俺は全力で横に走り、魔法をできる限りかわしていく。

 しかし、コリンの魔法の命中率は思ったよりも上昇していて
 一度に全弾かわすのは、さすがに無理があった。
 3発くらって俺は御用となった。だが、木刀は既に有香によって抜かれている。

「作戦成功。油断したな」
「ひ、卑怯よ!! 同時に取りにくるなんて!!」
 何を仰るコリンさん。これが戦略というものですよ……。

「これで開放な。次は有香が捕虜ってことで」
 木刀を取った者が次の捕虜になる、というルールだ。
「3人同時は絶対反則だからね!!」
「了解、了解。分かったよ」
 俺と智樹、じゃじゃ馬はバラバラに散って森の中に逃げ込んだ。


 2戦目は有香がいないから厳しい戦いになるだろう。
 俺は森の奥の木陰で慎重に作戦を練り始めた。
 
 3人同時がダメとなると、2人でなんとかするしかない。
 かといって智樹やエリスでは囮役も攻撃役もちょっと難しそうだ。
「俺が要か……」
 智樹を囮役にして、弾数を減らし……俺が何とかして切り抜ける。
 ベストの作戦かどうかは分からないが、こんなところだろう。
「ん?」
 俺が背にしている木の向こう側になにかいる……。
 あからさまに分かる気配を俺は感じ取った。



グルルルルル……

 いつか聞いたことのあるような獣の唸り声。どこでだっけ?
 その気配はどうやら俺が狙いのようだ。
 恐る恐る、顔を出して覗いてみると……熊と目が合った。

「お、お久しぶりです……」
 あの熊だった。俺が初めてこの世界に来たときレナを襲っていた熊。グリズリーだ。
 あれから数ヶ月経ったというのにまだこの森にいやがった。
 しかも、なにやらテンションを上げてらっしゃった。食い殺す気満々だ。

「……………………」

グルルルルルルル……

 
 1秒ほどの間が空いて、俺は高らかに叫んだ。
「訓練中止〜!!!!! 全員逃げろ〜!!!」
 それと同時に熊が俺に襲い掛かってくる。
「おわっ」
 あの頃と相変わらずの突進を俺は避けていく。

「風華!!」
 瞬時に両手に現れる双剣を逆手に握る。
『こりゃ、嬉しくない再会ねぇ……』
(まったくだ。洒落にならん)
 木を背にして身構える。

「グルァーーー!!」
「おっとぉ」
 グリズリーが一直線に俺の背後にあった木に突進をくらわす。
「アホめ、そのまま死んでろ」

メキメキメキ……

「おいおい……マジかよ」
 木がどんどん軋みながら傾いていく。

ズゥゥゥゥン!!

 直径80cmもありそうな木が根元からボキリと折れてしまった。
「一旦……逃げるか?」
『賛成』
 俺は疾風を使って即座にみんなのいるところへ逃げ出した。


「雄二君、どうかしたの!? さっきの音……」
「ちょっと感動の再会? ってやつがあってな……。それより全員いるか?」
 慌てて聞いてくる有香に俺は勤めて冷静に答える。
 智樹、有香、コリン、エリス。OK全員いる。

「ちょっと……グリズリー!?」
 木の陰からゆっくりと、しかし殺気をみなぎらせた熊が歩いてくる。
「ま、そういうこった。俺一人じゃ無理っぽいからさ、助けてくれ」
「アンタねぇ、撒いてきなさいよ!!」
「アイツ、俺の匂い覚えてるみたいなんだよな」
 いきなり殺気立ってたし、見つかるには早すぎるような気もする。
 その証拠にここまで俺を追って来ているのだ。

「戦闘開始……だね?」
「みんな、気ぃつけろよ? 一撃でもくらったら致命傷だぞ?」
 俺の言葉を合図に、全員が戦闘体勢に入った。



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