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 雄二の気持ちも、有香さんの気持ちも僕は知ったことになる。
 だが僕はそれを本人に伝えるつもりはない。
 僕は傍観者であってキューピッドではないからだ……。

第152話 考察と結論  <<智樹>>

 少々ずるい手段だったが、会話の流れを強制的に恋愛に持っていった。
 もし、有香さんにこのことを伝えたとしても、喜ばれることはないだろう。
 そのことは、本人に確認済みだし、僕も伝えるつもりはない。
 ただ、僕の知的好奇心は聞いてみたいという衝動を抑えられなかった。

 今回のことで分かったことが2つほどある。
 まず一つ目、雄二が自分に絶対的に自信を持っていないこと。
 自分が好かれている、という意識がまったくない。
 そんなことはありえない、と雄二自身は思っているわけだ。

 二つ目は雄二と有香さんという組み合わせにまったく希望が無いわけではないということ。
 雄二が有香さんの告白を断るという可能性は低い。
 しかし、彼女を作る気がないという雄二のことを考えると確定ではない。

 結論。
 思い切った動きがあれば、すぐにでも上手くいくような気がする。
 それは、有香さんが勇気を出して告白をするとか
 何らかの理由で雄二が有香さんに惹かれるといったことがあると確実だ。
 僕から見ても相性はいいと思うんだが……。

(と、思うんだけど……)
『はぁ……。しかし、私に申されましても……』
 朝、誰よりも早く起きた僕は水汲みと洗顔をするため井戸にいた。
 自分が寝る前に考えていたことを神無に伝えたのだが、どうも、神無の反応は薄い。

(じゃあ、神無はどう思うのさ?)
『私も智樹様と同じ考えです。ただ、私に話しても何にもなりませんよ?』
 仕方ないじゃないか。本人に言えないんだから……。
 そのため、自分の考えた結論を神無に聞いてもらうことにしたのだ。

『私達は予想することしかできませんし、お二人次第ですよ』
 そんなことは重々分かってる。雄二次第だし、有香さん次第だ。
 僕には役もセリフもない。そういう舞台であって僕はその観客だ。

 しかし、せっかく有香さんの恋がうまくいきそうなのに、と思うと
 何とかしてあげたいと思うのは悪いことだろうか?
 僕は有香さんの恋の成功を願っている方だ。
 あんなに一途に想っているのだ、報われなかったら可哀想すぎる。


「おはよう、トモキさん」
「おはよう」
 コリンさんは昨日あんなに疲れていたのに、こんなに早く起きてきた。
 休暇中だというのに、わざわざ学院の制服らしき物を着ている。
「ねぇ、今日って何するか聞いてる?」
「……聞いてないよ」
 雄二のことを思うと「考えてなかったらしいよ」 とは言えなかった。
 あのあと、雄二は本当に眠ってしまっていた。
 そのため、今日、起きた直後に考えることになっているだろう。

「ねぇ、あれで本当に強くなれるの? どう見ても遊んでるように見えるんだけど……」
 見えて当然だ。雄二は遊びの中に訓練を取り入れている。
 つまり、訓練が主ではなく遊びが主。訓練はついでと言っても過言じゃない。
「せ、成長はしてると思うよ?」
「だといいんだけど……」
 僕は、なんだか雄二の代わりに誤魔化しているような気がしてきた。
「ま、まぁ、雄二に今日のことを聞いておくよ」
「よろしくね」
 コリンさんに気まずさを隠しながら井戸をあとにした。
(これじゃあ僕は共犯者じゃないか……)


「雄二!! 今日の訓練内容は考えてあるんだろうね!?」
 部屋に戻った僕は雄二に聞いた。
 これで考えてないと言われたら、僕の立場もなくなってしまう。
「ど、どうしたんだ? そんなに怒り狂って、お前らしくもねぇ……」
「考えてあるんだろうね?」
 もう「考えてない」では洒落にならない。
 不本意な形だが僕も加担してしまっているのだ。

「大丈夫だって、ちゃんと考えてあるっつうの。そんなに迫ってくるなよ」
「…………ごめん」
 しっかり用意してあると聞いて、ようやく落ち着いた。
「で、何をするの?」
「ん? 秘密に決まってんだろ? まぁ、楽しみにしとけよ」
 昨日、それを信じて騙されているので信用性は低かった。
 そして、僕はおなじみの溜息をつくのである……。


 しばらくすると、わざわざレナさんが朝食を用意しにきてくれた。
「あ〜、……レナ、無理して作りに来なくていいんだぞ?」
「はい? 無理なんてしてませんけど……?」
 言い辛そうに雄二がレナさんに告げる。
 僕達は悪いと思っているが、レナさんはそんなこと微塵も思っていないようだ。
 不思議そうに首をかしげながらレナさんは台所へ去っていった。

「雄二君、レナさんに気を遣う必要ないんじゃないかな?」
「けどさ……」
「私も、作ってて楽しかったから……分かる気がするの」
 レナさんも本当に楽しそうに作っている。見ていれば分かる。
 どうやら僕達は有香さんの言うとおり、レナさんの気持ちを尊重した方がいいらしい。

「う〜ん。まぁ、確かに楽しそうではあるよなぁ……」
 こくこく、と頷く有香さん。
「確かに深く気にしない方がいいかもね」
「だな」
 ということになった。

 
「ねぇ、雄二君。今日は何をするの?」
 朝食を食べていて、有香さんが僕と同じ質問をする。
 僕も気になっているのだが、雄二は教えてくれなかったことだ。
「秘密だ、秘密。 絶対面白いから楽しみに待っとけ」
「私もやることなんだから説明くらいしなさいよ」
 エリスがその言葉に即座に抗議する。気に食わないんだろうな……。

「説明なら全員集まってからの方がいいだろ?」
 やはり雄二はニヤリと笑って教えようとしない。本当に考えてあるのかが不安だ。
 エリスも雄二の言いくるめられた形で黙り込んでしまった。
 しかし、有香さんはその表情を見て微笑んでいる。
(完全に信じきってるんだなぁ……)
 有香さんがなぜ雄二を信じることができるのか、その根拠を知りたいものだ。
「別に今教えてくれてもいいじゃん」
「楽しみは後にとっとくもんだぜ?」
(別に今でも問題ないと思うけど……)
 みんなの会話を聞き、そんなことを思いながら朝食を食べていた……。



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