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 智樹の言ったこと。その意味は分かる。
 確かに変わった旅行に来ている程度に思っておいたほうが楽だろう。
 だが、俺は……いや、たぶん全員そんな風に思えないような気もするわけだ。

第149話 異世界クッキング1 <<雄二>>

 延々とトランプをやり続けるのにも無理がある。
 地球の人間しかいないのでいろんなゲームが出来るといっても限界だ。
 もうそろそろ日が沈みそうだというのに、あの2人は帰ってこない。
 俺の予想通り、疲れ果てるまで訓練をしてから帰ってくるのか?

「もうそろそろ飽きてきたな……」
 一通りのゲームを楽しんでも帰ってくる気配すらない。
「ご飯は作っておいた方がいいかな?」
「有香さん、この世界の料理できるの?」
 椅子から立ち上がった有香に智樹が聞く。
 そもそも有香は料理が出来るのか? 俺はそっちの方が疑問だ。
 ちなみに春香は出来る。だが、妙な隠し味があるのが欠点だ。
「大丈夫、エリスと一回やったことあるから」
 経験回数一回。レナに救援を頼んだほうがよさそうだが……それも悪い気がする。

「俺も手伝ってやろうか?」
 コリンの料理を見ていたし、協力くらいはできるかもしれない。
「ゆ、雄二君って……料理できるの?」
「皮むき程度なら出来るぞ」
 コリンの奴隷時の経験を今こそ生かすときだ。
 あの時間は無駄じゃなかったところを見せてやる!!
 
「……座って待ってて」
「了解……」
 俺の協力はあっさりと拒否され、有香はキッチンに向かった……。


「智樹、有香の調理実習の成績は?」
 となると、やはり有香の料理能力が気になる。地球ではできているのだろうか?
「グループでやってるから個人の能力は分からないけど、僕は楽観してるよ」
「根拠は?」
 楽観視できる智樹がある意味羨ましい。俺は正直不安だ。
「不味い料理を食べさせるわけにいかないからね……」
「いや、そりゃそうだろうけどよ」
 せっかく疲れ果てて帰ってきて、不味い飯を食わされちゃかなわん。
 訓練の疲れが倍増するってもんだ。

「……はぁ」
「ん? 溜息なんかついてどうしたんだ?」
「別に……ちょっと疲れが出てきただけだよ」
 午前中の疲れが溜まっているようだ。今日は早く休ませてやろう。
 やっぱり体力面に少々の無理があったかもしれない。
 
「眠かったらとっとと寝ろよ?」
「雄二、まだ夜にすらなってないよ? 寝るには早すぎるよ」
 確かにまだ日は沈んでいない。窓からも夕日が差している。
 だが、俺は疲れたら朝だろうが夜だろうが寝る。
 智樹は夜に寝るように心掛けていたりするのだろうか、と疑問に思う。


「ただいま〜」
「お邪魔します」
 しばらく適当に話しているとエリスたちが帰ってきた。

「……なんだその格好は?」
 エリスは全身、びしょ濡れ。コリンはエリスの肩を借りていた。
 2人並んでふらふらになりながらリビングに入ってきたので唖然とした。
「えっと、何があったのかはだいたい想像がつくけど……とりあえずお風呂かな?」
「そうしてもらえる?」

 コリンを椅子に座らせると、エリスは風呂に向かった。
「…………」
 コリンは何も言わずにテーブルに項垂れている。
「何があったんだよ一体……?」
 エリスが濡れ鼠になって帰ってくる理由も分からなかった。
 二人とも疲れ果てて帰ってくるとは思っていたが、何故濡れる?

「雄二の予想通り、限界まで頑張ったみたいだね」
「まぁ、それはコイツを見れば分かるけどよ……」
 動く様子のないコリンを顎で差しながら智樹に返事をする。
「おい、コリン。大丈夫か?」
 寝ている人を起こすようにコリンの肩を揺らした。

「……揺らさないで。殺すわよ」
 僅かに頭を上げて俺を一睨み。殺害警告をして再び突っ伏す。
 正直めちゃくちゃ怖かった。本当に殺されるかと思うほどに……。

「なんて言えばいいのか分からないけど……大変だね」
「ああ……」
 コリンは俺達の家で果て、エリスはふらふらと風呂へ行く。
 そしてキッチンでは有香が一人で異世界の料理に挑戦中。
 俺と智樹の男2人だけが、ただ呆然と時間がすぎるのを待つ。

(なんなんだ……このどうしようもない状況は)
 動けない。この雰囲気は部屋に引っ込むことすら許してくれそうにない。
「智樹……こいつらに何があったのか、予測の範囲でいいから説明してくれ」
「別にいいけど……予想だよ?」
「ああ」
 とにかく詳しい状況確認が必要だと判断した。
 当事者じゃない智樹に聞くのも間違っているような気がするが
 智樹は俺よりも事情を分かっているように見えた。

「たぶんエリスは斥力を使えなくなるほど精神力を使い切っちゃったんだ。
それでコリンさんのアクアシュートが当たっちゃった……って所だと思うけど?」
 
 俺はファイアボールで訓練をしろ、と言った……。
 しかし、途中でエリスが精神力切れを想定し、アクアシュートに切り替えさせた。
 一方、コリンはコリンで魔法の乱発で疲れ果ててしまった……。
「こんなところか……」
 智樹の推理を俺なりに解釈してみたが、かなり自信がある。
 それで今の状況が出来上がっているのだと予想した。

「疲れ果てる前に帰ってくりゃいいのに……バカな奴等だ」
「それをしないほど負けず嫌いだと知っててやらせる雄二もどうかと思うけど?」
 いくら負けず嫌いでも引き際ぐらいわきまえるだろ普通……。
 智樹に復讐か? と言われて自分のやったことに初めて気付いた。
 それまではそんなつもりはなく。そんなことは思いもしなかった。

 しかし智樹に言われてからはこうも思った。
 復讐って形になったんなら、ついでに復讐も理由に入れとこう……と。

「ご飯できたけど……コリンさん食べられそう?」
 食卓に入ってきた有香がコリンの様子を見て、心配そうに聞いた。
「…………」
「返事がねぇ。ただの屍のようだぞ?」
「無理……みたいね」
 俺の言葉を聞いて有香は食事は無理だと判断した。

「しばらく休ませてあげようよ。エリスもお風呂に行ってることだし」
「俺達だけ先に食っちまおうぜ」
 味が気になる。有香の料理ってのも初めて食うしな……。
 不安な半面、楽しみなものでもある。
 こんなことでもなければ女子クラスメイトの手料理なんざ食えない。

「僕はエリス達と一緒に食べるから2人で先に食べてよ」
 あいつ等を待ってたら何時になるか分からないのだが……まぁいい。
 俺と有香だけが食べるっていうのも自分勝手にすぎる。
「なら俺も待つぞ。有香もそれでいいか?」
「うん」
 食事は多人数で食ったほうが美味い。
 腹が減っているというわけでもない。ただ味が気になるだけで……。

「なぁ、有香。ちょっと味見していいか?」
「雄二、つまみ食いは行儀悪いよ」
 つまみ食いじゃない、味見だと言っても智樹には通じないだろう。
 いったいこの二つの差はどこにあるのだろうか?
「えっと……私はどうしたらいいのかな?」
 有香は俺に味見させたらいいのかどうかで迷っていた。
「雄二の言うことは気にしなくていいよ。有香さんに失礼なことだからね」
「? う、うん」
「…………」
 失礼……か? うん、確かに失礼かもしれんな。
 有香は分かっていないみたいだった。このことは黙っておこう……。



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