私達は家で待機。雄二君が何を考えているのか分からない。 コリンさんやエリスが訓練をしているというのに私達はトランプ。 雄二君は私に負けても悔しくないのだろうか……。 ただ椅子に座って延々とババ抜きを続ける3人。雄二君と智樹君、そして私。 智樹君も午前の訓練で疲れた様子でゲームに参加している。 智樹君は今の現状を不思議に思わないのだろうか。 「おい、有香。お前の番だぞ」 雄二君がカードを広げて早く引けと促す。 「う、うん」 そういう私も何も言うことができずにゲームをやっている。 「ね、ねぇ、雄二君」 「ん?」 「私達……遊んでていいのかな?」 覚悟を決め、思い切って聞いてみた。 エリスたちが一生懸命に訓練をしているのに私達は遊んでいる。 私は納得がいかなかった。 「本来コリンを鍛えるためのものだからな。それに……」 そう言いながら、智樹君からカードを引く。 「俺達がそこまで頑張る必要ないだろ?」 確かに普段地球にいる私達が戦闘訓練をする必要はあまりない。 地球にはモンスターもいないし戦闘能力なんてものも要らない。 「本当なら俺達が協力する必要もねぇからな……」 「どうして?」 雄二君らしくない。普段の雄二君なら進んで協力をすると思っていた。 「ほっといてもコリンなら勝手に強くなるし、弱点にもいずれ気付けただろうな」 「じゃあなんで協力したのさ?」 私が聞きたかったことを智樹君が聞いてくれた。 「なんとなくだよ。なんとなくそんな気分だっただけだ」 それっきり会話が途絶え、カードの音だけが室内を支配した。 「なぁ、あいつらってなんか似てねぇか?」 「え?」 カードのやり取りが何周かしたあと、突然雄二君は切り出した。 「コリンとじゃじゃ馬だよ。俺にキツイとことかさ……」 質問の内容は理解したが、私はそう感じる部分が見当たらなかった。 「まぁ、似てるといえば似てるかもね。強引なとことか」 智樹君も少なからず雄二君と同じ意見を持っているようだった。 「あいつら絶対負けず嫌いだぞ。帰ってきたときにはへとへとになってると思うぜ?」 何らかの確信を得たかのように雄二君はニヤリと笑う。 「もしかしてさ……エリスと組ませたのは復讐?」 「えぇっ!? そうなの!?」 そうだとしたら盛大な復讐だ。遠まわしすぎるし、執念深すぎる。 「さぁな」 雄二君は答えてくれなかった……。 「次はなにやる? ポーカーでいいか?」 カードをシャッフルしながら雄二君は聞いてくる。 「うん……いいけど」 「じゃ、決定な。チェンジは1回だけだぞ」 5枚のカードが配られてポーカーが始まる。 「エリス……大丈夫かなぁ」 頻繁に窓から外を眺め、見えるはずのないエリス達を見やる智樹君。 「お前なぁ、本っ当に心配性だな。エリスに惚れたのか?」 「ち、違うよ!! そんなんじゃなくってさ……」 智樹君は指摘されてあわてて否定する。 本当にエリスのことが好きになったのかな? 「そんなんじゃなくて、どんなんなんだよ?」 雄二君は執拗に智樹君に聞き返す。 私も気になるところだ。智樹君はエリスに対して過保護な面が見られる。 「ただ……エリスってけっこう意地っ張りだから無理しちゃいそうでさ。 もし、晃斥使えなくなって魔法が当たっちゃったら……って思うと」 「…………こりゃ惚れてるよなぁ?」 「……うん」 雄二君が智樹君の言葉を聞いてから私に確認をとる。 セリフにも親愛以上のものを感じた気がする。 「だから違うんだって……ただ心配なだけだよ」 智樹君の否定の言葉を聞きながら思った。 (雄二君、自分の恋愛にもこれくらい敏感だったらなぁ……) そう思うのは私だけだろうか……。 「ま、あんまり深入りすんなよ? 俺達の本来いるべき場所は地球なんだからな?」 そうだ。もし、二人が付き合うことになったとしても……それは悲恋になる。 こんな間近でそんな恋愛は見たくない。 ドラマや映画は所詮は演技であり他人事だから感動できるのだ。 友達が同じ境遇になったとしたら感動なんてできない。できるわけがない。 「大丈夫。雄二や有香さんが心配するようなことにはならないよ」 「……ならいいんだけどな」 そう言いながらカードをチェンジする。 私もそれに続く。結果は無難なツーペア。 (トランプはこんなに簡単にペアになれるのに……) 人間はどこまでも難しい生き物だということを思い知らされる。 私達にとってこの世界はあくまで異世界。本来の世界じゃない。 たったそれだけの理由で深い関係を繋ぐことができない。 「僕はスリーカードだ」 「ブタだブタ」 「私はツーペア」 勝敗は智樹君の勝ちとなった。 たかがポーカーなのに私達にとって大切なことを再確認することになるとは……。 「俺達には難しいな……この世界は」 異世界に来るということの裏側。気付かない振りをしていた事。 雄二君も智樹君も、そのことを分かっていて誰も言わなかった。 「本当に……難しい」 私は、私達はこの世界に来ていていいのだろうか? 時間や世界の常識を飛び越えてまで来るべき場所なのだろうか? 「僕はちょっと変わった旅行だと思うようにしてる。その程度の認識にしといた方がいいんだ」 ゲームを再開していると智樹君がポツリと呟く。 「まぁ、そうなんだけどな」 召喚の裏側に目を背け、楽しい部分だけを見る。 そうしたほうが私達は救われるのかもしれない。 「有香さん。有香さんもそう思っといたほうがいいよ」 「そう……だよね」 智樹君ほどの人がその部分に目を背けることができるのだろうか? その答えは本人にしか分からないことだ。 「湿っぽくなっちまったな。仕切りなおすか!!」 明るく言って2人がカードをチェンジしていく。 「有香、チェンジしなくていいのか?」 「私はこのままでいいよ」 既にダイヤのフラッシュが揃っている。変える必要はない。 「スリーカード!!」 「ツーペア」 「フラッシュ」 私の勝ちだ。私達の間では敗者がカードを配ることになっている。 ツーペアだった智樹君がカードをシャッフルする。 「まぁ、俺達は今、この世界を最高に楽しんでるってことにしとこうぜ」 「そうだね」 「うん!!」 雄二君の意見に反対する者は当然のようにいなかった……。 |