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 私達は家で待機。雄二君が何を考えているのか分からない。
 コリンさんやエリスが訓練をしているというのに私達はトランプ。
 雄二君は私に負けても悔しくないのだろうか……。

第148話 私達のリオラート <<有香>>

 ただ椅子に座って延々とババ抜きを続ける3人。雄二君と智樹君、そして私。
 智樹君も午前の訓練で疲れた様子でゲームに参加している。
 智樹君は今の現状を不思議に思わないのだろうか。
「おい、有香。お前の番だぞ」
 雄二君がカードを広げて早く引けと促す。
「う、うん」
 そういう私も何も言うことができずにゲームをやっている。
 
「ね、ねぇ、雄二君」
「ん?」
「私達……遊んでていいのかな?」
 覚悟を決め、思い切って聞いてみた。
 エリスたちが一生懸命に訓練をしているのに私達は遊んでいる。
 私は納得がいかなかった。

「本来コリンを鍛えるためのものだからな。それに……」
 そう言いながら、智樹君からカードを引く。
「俺達がそこまで頑張る必要ないだろ?」
 確かに普段地球にいる私達が戦闘訓練をする必要はあまりない。
 地球にはモンスターもいないし戦闘能力なんてものも要らない。
「本当なら俺達が協力する必要もねぇからな……」
「どうして?」
 雄二君らしくない。普段の雄二君なら進んで協力をすると思っていた。

「ほっといてもコリンなら勝手に強くなるし、弱点にもいずれ気付けただろうな」
「じゃあなんで協力したのさ?」
 私が聞きたかったことを智樹君が聞いてくれた。
「なんとなくだよ。なんとなくそんな気分だっただけだ」
 それっきり会話が途絶え、カードの音だけが室内を支配した。


「なぁ、あいつらってなんか似てねぇか?」
「え?」
 カードのやり取りが何周かしたあと、突然雄二君は切り出した。
「コリンとじゃじゃ馬だよ。俺にキツイとことかさ……」
 質問の内容は理解したが、私はそう感じる部分が見当たらなかった。

「まぁ、似てるといえば似てるかもね。強引なとことか」
 智樹君も少なからず雄二君と同じ意見を持っているようだった。
「あいつら絶対負けず嫌いだぞ。帰ってきたときにはへとへとになってると思うぜ?」
 何らかの確信を得たかのように雄二君はニヤリと笑う。

「もしかしてさ……エリスと組ませたのは復讐?」
「えぇっ!? そうなの!?」
 そうだとしたら盛大な復讐だ。遠まわしすぎるし、執念深すぎる。
「さぁな」
 雄二君は答えてくれなかった……。


「次はなにやる? ポーカーでいいか?」
 カードをシャッフルしながら雄二君は聞いてくる。
「うん……いいけど」
「じゃ、決定な。チェンジは1回だけだぞ」
 5枚のカードが配られてポーカーが始まる。

「エリス……大丈夫かなぁ」
 頻繁に窓から外を眺め、見えるはずのないエリス達を見やる智樹君。
「お前なぁ、本っ当に心配性だな。エリスに惚れたのか?」
「ち、違うよ!! そんなんじゃなくってさ……」
 智樹君は指摘されてあわてて否定する。
 本当にエリスのことが好きになったのかな?

「そんなんじゃなくて、どんなんなんだよ?」
 雄二君は執拗に智樹君に聞き返す。
 私も気になるところだ。智樹君はエリスに対して過保護な面が見られる。
「ただ……エリスってけっこう意地っ張りだから無理しちゃいそうでさ。
もし、晃斥使えなくなって魔法が当たっちゃったら……って思うと」

「…………こりゃ惚れてるよなぁ?」
「……うん」
 雄二君が智樹君の言葉を聞いてから私に確認をとる。
 セリフにも親愛以上のものを感じた気がする。
「だから違うんだって……ただ心配なだけだよ」
 智樹君の否定の言葉を聞きながら思った。
(雄二君、自分の恋愛にもこれくらい敏感だったらなぁ……)
 そう思うのは私だけだろうか……。

「ま、あんまり深入りすんなよ? 俺達の本来いるべき場所は地球なんだからな?」
 そうだ。もし、二人が付き合うことになったとしても……それは悲恋になる。
 こんな間近でそんな恋愛は見たくない。
 ドラマや映画は所詮は演技であり他人事だから感動できるのだ。
 友達が同じ境遇になったとしたら感動なんてできない。できるわけがない。

「大丈夫。雄二や有香さんが心配するようなことにはならないよ」
「……ならいいんだけどな」
 そう言いながらカードをチェンジする。
 私もそれに続く。結果は無難なツーペア。

(トランプはこんなに簡単にペアになれるのに……)
 人間はどこまでも難しい生き物だということを思い知らされる。
 私達にとってこの世界はあくまで異世界。本来の世界じゃない。
 たったそれだけの理由で深い関係を繋ぐことができない。

「僕はスリーカードだ」
「ブタだブタ」
「私はツーペア」
 勝敗は智樹君の勝ちとなった。
 たかがポーカーなのに私達にとって大切なことを再確認することになるとは……。

「俺達には難しいな……この世界は」
 異世界に来るということの裏側。気付かない振りをしていた事。
 雄二君も智樹君も、そのことを分かっていて誰も言わなかった。
「本当に……難しい」
 私は、私達はこの世界に来ていていいのだろうか?
 時間や世界の常識を飛び越えてまで来るべき場所なのだろうか?


「僕はちょっと変わった旅行だと思うようにしてる。その程度の認識にしといた方がいいんだ」
 ゲームを再開していると智樹君がポツリと呟く。
「まぁ、そうなんだけどな」
 召喚の裏側に目を背け、楽しい部分だけを見る。
 そうしたほうが私達は救われるのかもしれない。
「有香さん。有香さんもそう思っといたほうがいいよ」
「そう……だよね」
 智樹君ほどの人がその部分に目を背けることができるのだろうか?
 その答えは本人にしか分からないことだ。

「湿っぽくなっちまったな。仕切りなおすか!!」
 明るく言って2人がカードをチェンジしていく。
「有香、チェンジしなくていいのか?」
「私はこのままでいいよ」
 既にダイヤのフラッシュが揃っている。変える必要はない。

「スリーカード!!」
「ツーペア」
「フラッシュ」
 私の勝ちだ。私達の間では敗者がカードを配ることになっている。
 ツーペアだった智樹君がカードをシャッフルする。

「まぁ、俺達は今、この世界を最高に楽しんでるってことにしとこうぜ」
「そうだね」
「うん!!」
 雄二君の意見に反対する者は当然のようにいなかった……。



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