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 午後からの私の訓練相手はまたしても女の子。
 あのユージ・フジキという男。本当にやる気があるのだろうか?
 しかし、私が成長を遂げているのは紛れもない事実だ……。

第147話 第二段階 <<コリン>>

 何度も一緒に食事をしていて思ったのだが、この少女、どこかで見たような気がする。
 シア村じゃないとするとクェードで見たことになるのだが……。
 思い出せない。私はこの少女を見たことがある。それは間違いない。
「ねぇ、エリスさん」
「エリスでいいわよ。コリン」
 明らかに年下のエリスは年上であろう私に敬語を使うことはなかった。
 そのこと自体は何も構わないのだが、その振る舞いが自然すぎる。
「……じゃあ、エリス。私とどこかで会ってない?」
「? さぁ、私は知らないわ」
 隠している様子も見られない。本当に会ってはいないようだ。

「始めましょ」
「そうね。協力よろしくね、エリス」
「お礼はいいわ。私の為にもなってるからね……」
 エリスはそういうと身を翻して訓練のための距離をとる。

 本当にユージ・フジキは狡賢い奴だ。
 午前の訓練はトモキさんの訓練を私がした形をうまい具合に作り出していた。
 午後はエリスの訓練を手伝っている。
 結局、私の命令、いや、願いはユージ達のために使われている。
 私はユージに利用されている、という考えも浮かんできたりする。

「準備はできた? 私の方はいつでもいいけど?」
「え、ええ」
 考え事をしていると、いつの間にか訓練は始まりつつあった。
「……晃斥」
 彼女も覚醒者……ユージのパーティーには覚醒者が多すぎる。
 ユージ、トモキさん、ユカさん、エリス。
 数千人に一人という覚醒者がここには4人もいる。
 いくらなんでも不自然すぎるような気がする。

「<<ファイアボール>>」
 私も早く準備を整えなければ……。火の玉を空中に固定させていく。
 250個前後。それが私の固定させておける限界だ。
「……こうして見ると凄いわね」
 空中に浮かぶ火の玉を見ながらエリスが感心するように微笑む。

「本当にいいのね? 撃つわよ?」
「いいに決まってるでしょ。私に当てることは不可能よ」
 エリスに当てることはできない。とユージに言われてはいたものの心配になっていた。


〜 回想 〜

「コイツに火の玉を全弾当てろ」
 エリスの方を親指で指しながら私に言うユージ。
「……まぁ、大丈夫なんでしょうね」
 ユカさんのことで少しはユージのことを信じられるようになっていた。
 ユージの仲間達は全員一筋縄ではいかない。
 もしかしたらよく知っているレナ姉さんですら……私の想像を超えているかもしれない。

「エリス。お前は前にも言ったとおり全弾当たるようになっているかを見てろ」
「全部見てるのよね……」
「ああ、弾いたかどうかだけでもいい。火の玉を目で追い続けろ」
 私は撃つだけ。エリスさんにいたっては立っているだけだ。

「これが何の訓練になるのよ?」
「お前は目標に正確に当てる練習だ。一気に撃ったとき、かなり外す弾があったからな」
 確かに無数の弾を撃つときは目標付近に撃つことしか考えない。
 これを集中して当てることができれば大ダメージを与えることができるだろう。

「エリス、お前は長時間の晃斥の使用と動体視力な」
「ドウ……タイシリョク?」
「動く物を見る力だよ。鍛えておいて損はないよ」
 聞いたこともない言葉にトモキさんが説明を加える。
 ドウタイシリョク……覚えておこう。


〜 回想終わり 〜


「ちょっと試しに撃ってみるわね?」
「好きにして。私の訓練はもう始まってるから」
「?」
 何が始まっているの? 私の知らない何かが既に始まっているらしい。
「……じゃあ、ていっ!!」
 数発試しに撃ってみる。
「!!!?」
 ありえない……全ての火の玉がありえない方向に曲がる。
 地面に向けて下に曲がったり、遥か空のほうへ昇っていったりする。

「う……嘘」
「次、練習は終わりね。ドウタイなんとかの訓練もあるんだから」
 彼女にとって訓練部分の名称などどうでもいいらしい。
「じゃあいくよっ!!」
 子供にそこまで言われてはこちらも黙っていられない。
 少々の殺意をこめて二十発ほどをいっぺんにエリスに向けて放つ。

「…………」
 その全てがエリスに当たる少し前に、私の意思とは関係なく曲がる。
 他人からしてみればわざと曲げているかと思うほどに……。
「3発…いや、4発かな? 外れてると思うわ」
 そのうえ命中率まで指摘されると、悔しい。

「……ふぅ〜〜」
 深呼吸をして気分を落ち着ける。
「今度は多方向から、撃ってみるけど見切れそう?」
「構わずに撃って。そのための訓練だから……」
 エリスは恐らく分かっている。多方向から撃たれたら見切れないことを。
 一方向からだけでも正確に分からないのだから……。

「じゃあ撃つわね。頑張って」
「それはお互い様よ」
 それもそうだ。私も集中してエリスに当てることだけを考えなければならない。
 空中にある30発ほどの火の玉に意識を集中し、発射準備を整える。
 
「いけっ!!」
 まったく意識していなかったこの基本的な魔法が難しく感じる。
 基本を覚え、応用をまったくやらなかった結果だ。
 重要なのは威力だけではないことを、あの男に教えられているわけだ。

「やってやろうじゃない。私にだってねぇ……意地はあるのよ!!」
 主席云々じゃない。私の今までやってきたことを一人の男によって崩されたのだ。
 意地くらい張りたくなる。
 そうしないと無駄なことをやってきたことになってしまう。
「……くっ」
 エリスは目で火の玉を一つずつ確かめるように追っていく。
 だが、やはりというべきか、かなり苦戦しているようだ。


「詳しくは分からないけど……2発。外れてたわ」
「……厄介ね」
 意外と難しい。全ての弾を思うように動かすには時間がかかりそうだ。
「そうね。この訓練……簡単にはいかないみたい」
 エリスも同様のことを思っているらしい。この訓練は午前のより難しい。

「どんどん撃って。晃斥を使うにも限界があるわ」
「ええ、お互いのためにも……ね」
 これは、午後の訓練は相当疲れることになりそうだ……。 



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