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 あのじゃじゃ馬め……必要以上に頑張ってなけりゃいいんだが。
 頑張っててもサボってても俺は叱るつもりだ。
 適度にってことを言っておけばよかったな……。

第146話 エリスの単独訓練 <<雄二>>

 エリスはまだ訓練中のようだった。的に向かって石が飛んでいる。
「…………」
 サボっても頑張りすぎてもいない。休憩をとりながらやっているようだ。
 見た感じでは的に当たるようにはなっている。
 必中というわけではないが、これなら一人でも戦闘はできる。
 護衛する必要のない護衛対象。
 そういう意味ではあいつの能力は理想的だと思う。

「いつまで黙って見てるつもりよ」
「なんだ気付いてたのか?」
 エリスは後方で様子を見ていた俺の存在にも気付いていたようだ。
 一体どうやって俺だと判断したのだろうか?
 俺の方へは一回たりとも視線を向けていない。

「何か用?」
「お、おお、そうだった。飯の時間だから呼びに来たんだよ」
 こちらに視線を向けることなく会話を続けるエリスに戸惑った。
 訓練の手は休めていない。
「もう? ようやくコツをつかめてきたっていうのに……」
「…………」
 命中率はいい感じになってきている、速度はどうなのか?
 
 どうやら3段階の速度を遵守しているようだ、これもできていると思う。
 本当に調子が出てきている。ここで終わらせるのはもったいない。
「続けていいぞ。俺も待っててやる」
「……ありがと」
 礼を言っているというのに振り向きもしない。
 だが、それでいい。あいつと正面きって礼を言われても正直、対応に困る。
「風華」
『……ん? どうかした?』
 眠そうな風華の声に俺はちょっと驚いてしまった。
(なに寝てんだよ……)
『だって、今日は出番なさそうだったから……で、何?』
(いや、今更だけどさ。俺、間違ってねぇよな?)
『ん〜、何が?』
(あいつらを鍛えることだよ。コリンのついでにな)
 いつ、誰かに襲われても大丈夫なように自衛手段を与える。
 それが必要なのは今のところ智樹だけだ。
 有香にもエリスにもそれぞれに十分な自衛法を持っている。

『もうやっちゃってから聞くのはどうかと思うけどね。それよりあたしは情けないわよ』
(なにがだよ?)
『女の子の奴隷になるわ、格闘で負けるわ。仕えてるあたしのことも考えてよね?』
 呆れて溜息と共に訴えてくる。宿主としても辛いところだ。
 今回の召喚で俺はいろいろありすぎている。決まって不幸な方向に……。
(悪い。そうだよな、お前にとっては面白くねぇよな……)
『冗談よ。雄二のいいところは分かってるから』
(そう言ってくれると助かる)
 風華の身になってみればそうだ。自分の主人の情けない部分など見たくないだろう。
 俺は風華のためにも頑張らなくちゃいけないようだ。
 覚醒者はウェポンという協力者と共に生きていく。
「俺も頑張らねぇとなぁ」
 エリスを見ていると余計にそう思えてくる。

『何もできない人間を守るには限界があるわ。雄二、アンタは間違ってない』
 俺にだって限界がある。可能な限り守りたいとは思っている。
 しかし、俺が守ることができない場合だってどうしてもあると思う。
 だから、あいつらの生存率を上げるためにも逃げる手段は教えておきたい。
 この世界に来ている以上、何が起こるか分からないから……。
 
 コリンに鍛えてくれと言われて突発的に思いついたのである。
 効率がいいかと聞かれれば智樹の方がもっといい方法を思いつくかもしれない。
「観光……か」
『何が?』
(有香に言ったここに来る理由だよ。そんな理由でいいのか? って思えてきた)
 何人もの人間を危険に晒しているというのに観光気分でここに来る。
 もちろん智樹も有香も自分の意志でここに来ている。
 そういうことになっている。
 本当はレナに頼んで二度と召喚を使わないようにするのがベストなんだ……。

 
『もう一つ理由があるでしょ? 何故、自分なのか……でしょ?』
 俺のリオラートに来るもう一つ理由。何十億もの人間の中で何故、俺が選ばれたのか。
 レナがたまたま呼んだのが俺だった。そう、たまたま、偶然だ。
 しかし、何か理由があるんじゃないのか、とも思っている。
「それを探すために俺はここに来るのかもしれないな……」
『アレ……もうそろそろ止めてあげれば?』
「ん?」
 エリスを見ると、疲れがでてきたらしく、的を外すようになってきていた。

「おい、エリス。もう帰ろうぜ。たぶん、みんなは律儀に待ってるからな」
「…そうね。あんまり待たせるのも悪いわね。晃斥、消えなさい」
 晃斥を消して、初めて俺の方に振り向く。その顔にはまだ余裕がありそうだった。
 斥力を発生させるのにどれだけの精神力が必要なのかは分からない。
 個人によって疲れ具合が違うし、この能力はエリスだけのものだからだ。

「大丈夫か? あんま無理すんなよ?」
「分かってるわよ。昼からは私の出番なんでしょ?」
 午後からの訓練はエリスにコリンの相手をしてもらうつもりだ。
 そのことを先に言っておいたので、エリスは余力を残してくれていたようだ。

「なにしてんの? 置いてくわよ?」
 さっさと家の方に向かって歩いていくエリス。
「これなら大丈夫そうだな……」
 小走りでエリスに追いつき、俺達はみんなを待たせぬよう、早めに家路に着いた……。



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