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 智樹達が訓練している場所に戻ってみた。
 予想通り智樹はかなり苦戦していたが予想以上に動けている。
 あいつの身体能力もなかなか捨てたもんじゃないな……。

第145話 第一段階終了 <<雄二>>

 俺達が戻ってきたことにも気付かないで鬼ごっこが行われている。
 智樹は弾道をかなりの正確さで予測し、避けていた。
 まるでどの方向から自分に向かってくるのか、あらかじめ分かっているように……。

「す、凄い……よね?」
「ああ、ありゃ、早々できるもんじゃねぇよ……」
 有香も同じことを思っていたのだろう。あんなこと自分にもできない、と。
「…………う〜ん」
 しかし、まだまだダッシュ力が足りない。一発を避けきることができずに命中。
 これでコリンの勝ち。智樹はそのまま跪き、ぜぇぜぇと酸素をむさぼる。

「なんで? あそこまで相手の手を読めるのに……」
「だよな……」
 有香は何故智樹が勝てないのか、不思議に思っているが俺もそう思う。
 せっかくの観察眼が宝の持ち腐れだ。磨けば光るだろうに……。

「あ、雄二……」
 智樹がこっちに気付いてふらふらと寄ってくる。
「戦績は?」
「16戦1勝14敗1分け……」
 ほぅ、一勝もぎ取っていたか……。だが、気になる。

「1分けってなんだ?」
「同時だったんだよ。魔法が当たるのと僕が触れるのがね」
 しかし、そんなこともあるんだなぁ。
 まぁ、智樹の全敗だと思っていたが大健闘だ。
 それともコリンが予想以上に動けなかったのか。それはこれから分かることだ。


「有香。本当に大丈夫だよな?」
「う……うん。大丈夫」
 絶対大丈夫じゃない。俺の不安は高まっていく……。
 
「なぁ、お仕置きなんて冗談だ。お前なら負けはないと思って言ったんだぞ?」
 コリンのためにも負けてもらっちゃ困る。
 あいつ自身、自分がどれだけ未熟かを理解しないとジートの行動が無駄になっちまう。
 それだけはなんとしても避けねぇとな……。

「頼むぞ。有香」
「絶対に負けないから……安心して見てて」
 今度は自信に満ちている表情を見せる。まったく訳が分からない。
 まぁ、やる気になってるんなら文句はねぇよ。

「コリン。どれだけ動けるようになったか試してみな」
「再戦ってことね……」
 有香が壁雲を呼び、戦闘体勢に入る。
 それを見たコリンは息を呑み、心なしか嬉しそうに微笑んだ。

「雄二。僕が相手じゃコリンさんは成長しないよ」
「成長? あのなぁ、数時間で強くなれるわけねぇだろ?」
 動く気がなかった時と、動くことを考えている今。
 それだけでも十分な違いが出てくるはずだ。
 それに、最後の一戦を見た感じでは合格点だ。十分に動けている。
「ま、見てりゃ分かるって」
「そりゃ見届けるけどさ……」
 智樹は渋々といった感じでおとなしく見る。
 
「始めっ!!」
 俺の合図で双方が走り出す。有香はまっすぐ前に進み。コリンは魔法を撃ちながら右へ。
 その動きは最初の有香との戦いよりもすばやく、判断に迷いがない。
 止まっていることはない。動きながらでも魔法を撃てるようになっている。
「な? 前回に比べりゃマシになってるだろ?」
「それは僕が一番分かってるよ。自分の身で体験したんだからね」
 それもそうだ。それが分かっているなら、一体何が不満なんだろうか。



「…………」
 まぁ、こんなもんか……。5分も経たないうちに勝負がついてしまう。
 まだ余裕があっても逃げることを主にして攻撃を忘れる傾向があるな。
 それに魔法は当てるというより足止めに使っている。
「コリン、もういいぞ。お疲れさん」
「えっ? もう? まだまだいけるけど?」
 俯いて呼吸を整えていたコリンは驚いたように俺の方に振り向く。
 
「やる気があるのはいいけど、もうそろそろ飯の時間だろ? レナが待ってる」
 結局、食事をレナに頼ることになってしまった。
 しかし、レナはまったく嫌がることはなく、むしろ嬉しそうだった。
「……分かったわよ」
「んじゃ、終〜了〜」
 さっさと帰って飯だ。俺もちょっと鍛えなおす必要があるな……。
 有香にあんなにあっさり負けるとは思わなかった。

「ねぇ、雄二。エリスは?」
 家に向かう道の途中で、隣に並んだ智樹が聞いてくる。
「アイツは別メニューだ。昼からはアイツの出番になるけどな」
 一人で真剣に訓練をやっててくれればいいんだが……。心配だ。
「エリスに何をさせるつもり?」
「智樹、そんなにアイツが心配か?」
「…まぁね」
 コイツ……千夏だけじゃなくエリスにも過保護だよな。
 千夏もエリスもそんなに弱い奴じゃない。しかし、智樹は、いい先輩をやってる。
(こういう奴が兄貴になるべきなんだよな……)
 俺には妹がいて智樹にはいない。世の中は必要な奴に必要なものを与えない。



「帰ったぞ〜」
 俺の後に有香、智樹、コリンの順番に並んで家に入る。
「あ、おかえりなさい。……あれ? エリスさんは?」
 レナはエリスがいないことを不思議そうに言う。
 一緒に帰ってくるものだと思っていたのだろう。
 ちなみにレナはコリンにエリスの素性がばれないようにするため
 通常エリス様と呼んでいるものをコリンの前では、さん付けに変えている。

「帰ってねぇのか?」
「はい……まだ頑張ってるんでしょうか……」
 レナの言う通り頑張ってるのか、それともサボっているだけなのか……。
「ちょっと迎えにいってくらぁ」
「雄二、僕も行こうか?」
「……先に飯食っててくれ」
 本当に心配性だな、と思いながら智樹の申し出を断り、再び家を出た。




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