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 シア村へ帰っているのだがジートがうるさい。
 ジートがなんで俺をそこまで気に入っているのかが分からない。
 だが、何を言われようと俺はコリンと結婚するなんて真っ平だ。

第138話 奴隷ゲーム <<雄二>>

 シア村の入口が見えてきた……。
「おい、お出迎えだぞ」
「あ?」
 よく見るとシア村の入口に人影が見えた。
「誰だ? 智樹か?」
「いや、未来の嫁だろ。命令無視だし、勝手に村出てるしな……」
 逃げる気はない。俺は命令無視なんてしちゃいない。
 村を出るなとも言われてないし、何かをしろとも言われてない。
 そして、アイツは未来の嫁でもなんでもない。

「風華」
 俺は風華を呼び出すとコリンとの距離を一瞬でつめた。
「よっ、ただいま」
「……おかえり」
 無表情で返されるとちょっと困る。
 怒っていると思っていたので軽く挨拶をしてみたのだが……。
「んじゃ、奴隷に戻るか……。コリン、なんか命令あるか?」
「そうね、家でお茶でも淹れてくれる?」
「了解。勝手に入るぞ」
 高速でクリーク家に向かい勝手に入る。

「さて、と」 
 台所でお湯を沸かそうとしたのだが……。
「って、沸いてるじゃねぇかよ」
 既にポットにお湯ができていて、それは弱火で熱されていた。
「なんなんだよ。アイツ……」
 まったくもってアイツの考えが分からない。
 お茶の葉を戸棚から勝手に取り出して、さっさとお茶を淹れる。
 3人分のお茶を食卓に並べ、クリーク親子の帰宅を待つ。


「ご苦労様。さぁ、言い訳を聞きましょうか!?」
 次に見たコリンはご立腹だった。じゃあ、さっきのアイツはなんだったんだ?
「お前、何も命令しなかったろ? だから自分のやりたいことやっただけだ」
 奴隷としてはまずいだろうが、俺は仮の奴隷だ。問題ないだろう?

パァン

 何かで頭を叩かれた。皮製の……なんだありゃ。
 鞭というには短すぎる。ああ、スリッパだ。スリッパで叩かれたのに近い。
「ってぇな!! 何しやがる!!」
「で? 私に何も言わずに勝手に出ていった、と?」
「お前は部屋に篭っちまっただろうが!!」

パァン

 第二撃目。そんなに痛くないのだが屈辱的だ。
「外だったらアンタ逃げるからね。家に入れて正解だったわ」
「こ、このアマ」
 家に入るまで怒らなかった理由が分かった。

「やめてやれよ。俺の仕事手伝ったんだからいいじゃねぇか」
「そりゃ、そうだけど……」
 ジートが俺を庇う。もともとそのつもりだったのだろうか……。

「それに俺の命が助かったのもユージのおかげだ。許してやってくれ」
「おいジート、あれは違うぞ」
 風華が当たったのは偶然だし、あれがなかったとしても何とかなったはずだ。
 ジートだって火をマントで防いでいたし命に別状はない。
「違わねぇよ。ありゃ実際やばかったからなぁ」
「そうか?」
「ま、そういうことにしとけ」
 たいしたことじゃないはずだが……悪い気分じゃない。
 不思議と頬が緩んでしまう。

「はぁ……もういいわ。でも今日が終わるまでは命令聞いてもらうからね」
「ああ、悪かったな。明日もちょっとなら頑張ってやるよ」
 って俺……今なに言った?
 自分の意志とは関係なく自然と言葉がこぼれた。

「その言葉、嘘偽りはないわね?」
「……ちょっとだぞ? 拒否権ありだぞ?」
 苦し紛れの言い訳だが、今朝のような面倒なのはもう勘弁だ。
「それって奴隷じゃないわ」
「まぁ、命令を聞くってわけじゃないが、できることなら協力はしてやるよ」
 それはレナでも有香でも、エリスでも、俺がいつもやることだ。
 友達、仲間。そういう大切な奴等の為なら俺は動くだろう。

「でも今日は奴隷よ。命令だってたくさんさせてもらうわ」
「ぐ……」
 これ以上何の命令をするっつうんだよ。
「料理はできないんだったわね。やらせること無いんだけど……」
「よし、また料理を手伝ってやろう」
「結構よ。そうねぇ……家で食べていきなさい」
 この女はまた訳の分からんことを……。

「じゃあ、ちょっと智樹に言ってくるから作っててくれ」
「偉そうに……アンタだけ不味くしてやろうかしら」
 クリーク家を出るときに怖いセリフが聞こえた気がする。


「帰ったぞ〜」
 今日はなんか疲れた。早く眠りたい。
 しかし、今日はまだ終わらない。少なくとも日付変更までは……。
「ゆ、雄二君、おかえり。お疲れ……みたいだね」
 俺の様子を見て有香が気を遣って話してくれる。
「有香。まだ終わってねぇんだ」
 そう、まだ奴隷の時間は終わらない。
「晩飯、コリンに食わせてもらうことになった」
「……そう、いってらっしゃい」
 なんか口調が急に冷たくなったような気がした。

「悪い、飯食ったらすぐ帰……れるかどうか分からないけどさ」
「別にいいよ。ごゆっくり」
 いい笑顔、と言いたいところだが目が笑ってない。
「じ、じゃあ、晩飯いらないって言っといてくれ」
 俺は早々にこの居心地の悪い場所から逃げることにした。
「あ、雄二君」
「ん?」
 踵を返して数歩歩いたところで有香に呼び止められた。

「頑張って。あと数時間の辛抱だから……」
「…………」
 本気で心配してくれているのが表情から分かった。
 俺は有香の前まで戻った。
「サンキュな」
 有香の頭を軽く叩いて礼を言う。

「アイツだって俺にとっちゃもう仲間だ。苦でもねぇよ」
 そう、コイツはただの遊びだ。奴隷ゲームという名のな……。
 そう考えるとかなり気が楽になった。
「じゃ、藤木少佐、いってくらぁ」
「うん。いってらっしゃい」
 俺は家に別れを告げ、再びクリーク家に向かった。


「言ってきたぞ。なんか手伝うか?」
 台所で料理をするコリンに帰ってきたことを告げる。
「いらないわ。お父さんと一緒に待ってて」
「了解」
 コリンが晩飯を作るまで、俺はジートと雑談をしながら待った。
 料理が出来上がり夕餉のときと相成った。
 朝食よりは気分がだいぶ楽になっていた……。



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