周囲を捜索した結果。見つけた、ベビードラゴンの集団。 その数5匹。目が合った時点で奴等のターゲットとなった。 今、冒険者としての初仕事が始まった。 いざ、戦闘が始まって誤算が一つ。 火を噴いた直後に剣を開いた口に突き刺す。これが奴等を倒すセオリーだ。 そして、俺が持つ武器は刃渡り20cmもない風華。 「無理だってユージ!! フォローに回れ!!」 そう、突き刺すにしても風華では内部まで届かないのだ。 「ちくしょう!! ジート、剣貸せよ!!」 「バカ!! 俺の武器がなくなるだろ!!」 「<<風華の主が命ずる、風よ、矢となりて我が敵を討て!!>>」 トカゲ(ベビードラゴン)に全力で風の矢を撃ちこむ。 『ったく、硬いわねぇ……』 「うおっ!!」 風の矢をものともせず、平然と火を噴き、反撃をしてくる。 後方の一匹が火を噴こうと息を吸い込んでいるのに気付いた。 「噴くなっ!!」 疾風で近づき、そのトカゲの頭を思いっきり踏みつける。 「おっ、いいぞ。ユージ!!」 「こんな役回り納得できるか!!」 俺が火の囮となり、ジートが止めを刺す。自然な流れで各々の役目が決定していた。 「ちっくしょう。なんかいい手はないのか!?」 『あのねぇ、普通に攻撃すればいいじゃない……』 (あ? だってお前も見たろ? ジートの剣が弾かれるんだぞ!?) トカゲの吐く火から逃げ回りながら何とか風華と会話をする。 『ふぅん。あたしがあの鉄屑と等価だと? 不愉快ね……』 (おい、もしかしていけるのか?) 『たかが鉄屑にあたしが負けるわけないでしょ。ソウルウェポンを舐めないでよね』 よし、あの鉄も弾く皮膚に勝てるみたいだし……。 「風華。確か、一本ありゃ出したり消したりできるんだよな?」 『え? そりゃ、できるけど……』 「しかも手放した2本目も手に戻ってくるんだよな?」 『そうだけど……雄二、アンタまさか!?』 風華は俺の作戦に気付いたようだ。 「そのまさかって奴だ。行ってこい!!」 右手に持っていた風華の一本をトカゲに向かって投げつけた。 「名付けて風華手裏剣……」 『いやぁああああああ!!!』 風華が叫びと共に回転しながら飛んでいく。しかし、直線上にトカゲの姿はない。 結果を言うと何者にも刺さらず、無駄に地面に突き刺さった。 『何やってるのよ。このノーコン!!』 「……次いってみよう。風華消えろ。風華でてこい」 地面の風華が消えて、俺の手元に2本とも戻ってくる。 『普通に斬ればいいじゃない!!』 「やだよ。あの火は危ねぇからなぁ……」 『しかも、投げたんなら当てなさいよ!!』 「まぁ、気にするな。ナイフ投げなんかやったことねぇんだ。次行くぞ」 『絶対当てなさいよ!!』 「OK、OK。せーの!!」 いやぁ、風華の叫びが俺にしか聞こえないのが残念だ。 「お前、何やってんだ?」 「ん、いや、口に刺さらんかなぁと思ってな……」 「俺……マジでやってるのがアホらしくなってきたぞ」 何故だ。こっちはけっこう真剣に風華手裏剣を投げているぞ。 『ノーコン!! 雄二はもうノーコン!! 間違いなく!!』 (うっるせぇな!!) 人をノーコン扱いしよってからに……。 「風華消えろ。風華でてこい」 再度、風華手裏剣を手元に戻す。 『ね、やめようよ。アンタにあたしを投げる才能ないって』 「ほら、お前が囮やんねぇと俺が倒せねぇだろ?」 風華とジートに責められる。 「俺だって一匹くらい倒したいぞ」 「わかった。最後の一匹任せるから今は囮をやってくれ」 「ちっ、わぁったよ」 トカゲの周囲をスローに歩き、火を噴くように仕向ける。 『吹きそうになったら即接近して斬りつけなさい』 (ジートが狙いまくってるが?) 『一応、戦闘訓練も兼ねとかないと……遊んでるだけじゃね』 俺は遊んだことは一度もない。すべてが真剣だったというのに……。 目の前の一匹が大きく息を吸い込んだ。 「『 GO!! 』」 一瞬で詰め寄り、上から風華を突き立てる。 硬い皮膚というのが嘘のようにあっさりと突き刺さっていく。 「マジかよ……」 俺は傷つけることができる程度だと思っていたのだ。 まさか風華がこんな切れ味を持っていたとは……。 『言ったでしょ? あたし達を舐めないでねって』 「あ、ああ……」 当然、脳を突き刺されたトカゲは絶命した。 「おい、ユージ!! 次だ次!! ちゃっちゃとやれ!!」 「お、おう!!」 俺がトカゲを斬れると知ると、止め役を俺に回し、ジートはサポートに回る。 残るは2匹。 「斬れると分かれば手加減はしねぇぞ!!」 近くの一匹に近づくと、尻尾を切り落とす。 「お土産は忘れずにってな。ジート!!」 切り落とした尻尾をジートに投げる。 「おう!!」 尻尾を受け取るとジートは巾着袋に入れる。 「おい、ユージ!! ちょっとヤバイっぽい!!」 「あ?」 振り向いたとき、トカゲの1匹がジートに向かって火を噴いていた。 ジートを救うには距離が遠すぎる。 そして、目を離せば尻尾を切り落とした残りの一匹に俺がやられる。 「くっそ!! いけっ風華!!」 思いっきり風華を投げる。その直後、左の一本で足元の一匹に止めを刺す。 火はジートを包み込む。しかし、火を噴いたトカゲは絶命している。 『いざって時は当たるのよねぇ……』 「ジート大丈夫か!?」 「まぁな。保険が効いたらしい」 炭となってボロボロのマントの中からジートが出てくる。 「お前油断しすぎじゃねぇの?」 「ああ!? お前がそれを言うか!? お前なんか油断しっぱなしじゃねぇか!!」 俺が油断しっぱなし? そんなことはないぞ。 「……疲れたな。 とっとと帰ろうぜ」 くだらん言い合いなんか無意味だ。早く帰って寝たい。 「お前なんかコリンに苦しめられろ」 「俺に妙な呪いをかけるな……」 仕事を終えた俺達はウェルズの村へ帰った。 「ユージ、仕事終了だ。とっとと帰ろうぜ」 俺は酒場には入らず、外で待っていた。あのクソマスターと顔を合わせるのも嫌だったからだ。 「マスターの鼻明かしてやりゃいいのに……」 「うるせぇな。あの野郎の面を見るのも不愉快なんだよ」 どうせ、もう二度と会うこともない。 「ほら、とっとと帰るんだろ? 行こうぜ」 俺はひとりで村の出口に向かった。 「なんだ? そんなに奴隷に戻りたいのか?」 「そうじゃねぇよ!!」 ったく、ああ言えばこう言いやがって……。 俺達はシア村に帰るため、もと来た道を歩き出した。 |