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 家に帰ってみたが戦術の本なんかあるわけがない。
 有香さんもエリスも畑仕事を手伝っているみたいだし……。
 僕の用事は意外にも短時間で終わってしまった。

第136話 僕達の一日3 <<智樹>>

 一旦部屋に戻ってベッドに座る。
 これからどうするか……僕も畑仕事に加わるべきか?
 用事があると息巻いて出ていって、3時間も経っていないのに戻る。
「情けなくてできない……」
 一日中、弓矢の練習をするつもりだったがわずか3時間で諦めた。
 僕は僕なりの闘い方を学びたかったが、それもある理由で中止。

バンッ

「なんだ?」
 大きな音を立てて扉が開く。誰かが帰ってきたようだ。
 出迎えるために部屋を出る。

「あ、トモキさんだっけ!? アイツ知らない!?」
 コリンさんが物凄い勢いで僕に迫ってきた。
 アイツっていうのは、まぁ、たぶん、雄二だろうな……。

「い、いや、知らないよ。どうかしたの?」
「本当に? 隠したりしてないわよね?」
 どうやら雄二に逃げられたらしい。
 昨日の夜、逃がさないように待ち伏せまでしていたのに……。
「隠してなんかいないよ。僕はどっちかというと肯定派だしね」
 罰ゲームを了承したんだから素直に罰を受けるべきだと思う。
 そういう意味では昨日の雄二は男らしくない。

「アイツは……」
 コリンさんの苛立ちが表情から分かる。
「昨日は諦めたみたいだったんだけどなぁ」
 油断させてから逃げるとは……。
「ほんのちょっと目を放した隙に逃げられたのよ。油断したわ」
「他の場所は探した?」
「一番最初にここに来たからまだよ」
 まぁ、当然だな。最初に家に来るのは普通だ。

「よし、僕も手伝うよ。ちょうど暇だったし」
「そう? じゃあお願いするわ」
 さて、雄二はどこへ行ってしまったのやら……。
 雄二が逃げたとなると、風華を使ってクェードへ向かっていてもおかしくない。
 一人で動くなら、短時間での移動が可能なのだ。
 つまり、シア村を探し回るのはあまり意味の無いことだ。

「コリンさん。雄二じゃなくて目撃者を探したほうがいい」
 家を出てすぐに僕はコリンさんに提案する。
 雄二が村を出たこと。それが分かればいい。
 シア村はそんなに広くない、目撃者は必ずいるはずだ。
「分かったわ。アイツ…帰ってきたらどうしてやろうかしら……」
 微笑むコリンさんがとても怖かった。
「じゃあ、手分けして目撃者を探そう」
「お願いね」
 二手に分かれて雄二の目撃者の捜索が始まった。



 いるわ。いるわ。そこらじゅう目撃者だらけだ。
 情報を統合すると、雄二はジートさんと酒場へ行ってから村を出たそうだ。
「逃げた、というよりは……用事ができたみたいだな」
 ジートさんが一緒だということが頭に引っかかる。
 もし、雄二が逃げたのだとしたら、ジートさんは連れて行く必要がない。
 一人で逃げた方が長距離の移動が可能だからだ。

 では、何の用事があったのか?
「とりあえずコリンさんと合流した方がいいな……」
 周囲を見渡すがコリンさんの姿は見えない。
 これって、もしかして……探さなきゃならないのか?
「……集合場所でも言っておけばよかった」
 自分の行動に後悔しつつも、コリンさんを探して動きだした。


 ふと、ある家の方を見るとエリスたちが働いていた。
 エリスが畑仕事をしているとは……実に意外だ。
 一応あれでも一国の王女様だ。畑仕事なんてやれないだろうと思っていた。
 しかし、実際は不慣れな有香さんよりもテキパキと動き、楽しそうに働いている。

「あ」
 ふと、エリスと目が合った。
「トモキ〜!! ちょっと来て〜!!」
 ぶんぶんと手を振りながらエリスが僕を呼んだ。
(行かなきゃ……ダメだろうな)
 コリンさんを探すのを中断してエリス達のいる畑に向かう。

「トモキ、用事は終わったの?」
「…………」
 一応、終わったといえば終わったけど……。
 新しい用事ができた。だからまだ用事は終わってないな。
「いや、まだだよ」
 そう判断してエリスに告げる。

「ふぅん。で? 奴隷の様子はどう?」
「それが……ジートさんとどっか行っちゃったらしいんだ」
 エリスも雄二のことを少なからず気にしているようだ。

「へぇ、仕事に行ったのかもしれないわね……」
 エリスは顎に手を当て、考えるしぐさをしながら呟いた。
「仕事?」
「ああ、トモキ達は知らないんだったわね。ジートってたまに冒険者の仕事もするのよ」
 冒険者の仕事っていうと……モンスター退治とかだよね。
 すると、雄二も一緒に戦いに行った、ということになる。

「それってモンスター退治だよね?」
 確認のためエリスに聞いてみる。
「ええ、酒場でそういう仕事を紹介してるのよ」
 酒場。間違いない、雄二はジートさんとモンスター退治へ行ったんだ。

「そっちはどう? 有香さんがだいぶ苦戦してるみたいだけど」
 なれない仕事にずいぶんと苦労しているようだ。
「ああ、それは大丈夫。ちょっと頑張りすぎて空回ってるだけだから」
 なんていうか、それは……有香さんらしいなぁ。

「あ、あと、雄二のことで有香さんをからかっちゃ駄目だよ」
「ユカって本当に面白いわよね。からかうと真っ赤になっちゃってさ」
 そりゃ確かにあの反応はエリスにしたら面白いかもしれないけどさ……。
「ああ見えるけど有香さんは本気なんだよ?」
「分かってるわよ。でも、選ぶのはユージでしょ?」
 有香さんの想いに答えるのも拒否するのも雄二だ。
 そういえば雄二の恋愛に関することは聞いたことがないなぁ……。

「まったくアイツのどこがいいんだか……」
「それは男の僕には分からないよ」
 今度はコリンさんを探さないといけない。僕は早々に立ち去ることにした。
「ま、せいぜいからかわせてもらうわよ。見るに耐えないからね」
「……ほどほどにね」
 後方から言うエリスに対して僕は諦めて、そう言い残した。


 数十分後、コリンさんが僕を見つけて駆け寄ってきた。
「どうだった?」
「うん、いろいろ分かったよ」
「私も。お父さんと仕事に出かけたらしいわ」
 まぁ、あれだけ目撃者がいればこれくらい簡単に調べがつくだろう。
「どうする? 追いかけるなら酒場でどんな仕事か聞かなきゃならないんだけど」
「いいわ。帰ってきたらたっぷり罰を与えるから」
 何も知らずに帰ってくるだろう雄二を哀れに思った。

「ありがと、トモキさん」
「いいよ。気にしないで。どうせ暇だったんだから」

 ちょうどいい暇潰しになった。
 雄二がモンスター退治をしていると知っても不思議とまったく心配じゃなかった。



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