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 コリンの奴は何の命令もせずに部屋に篭っちまった。
 その場合、奴隷の俺はどうすりゃいいんだ?
 まぁ、命令が無いなら無いでそっちの方がいいんだろうけどよ……。

第135話 奴隷雄二の一日3 <<雄二>>


 1つ聞きたい。俺は帰っていいのか?
 クリーク家の食卓でジートと一緒に食後のお茶なんぞを飲んでいる。
 命令待ちの奴隷。そんなポジションに素直に納まるほど俺は堕ちていない。
「ジート。ちょっと遊ぶか?」
「俺はお前ほど暇じゃないんでな。今日は仕事だ」
 ……コイツの仕事はシア村の警護じゃないのか?

「じゃあ、遊んでてもいいじゃねぇか」
「あ? 村の警備じゃなくて金稼ぎだ。村の警備じゃ金は稼げねぇんだよ」
 給料もでねぇのか。あの村長は無料で村を守れると思ってんのかよ。
 あ、ほとんど村が襲われることはないから金も出ないんだろうな。
 
 自分の納得のいく予想ができた。
「で、金をどうやって稼ぐんだ」
「お前らと同じだ」
 俺達? 金稼いだことねぇんだけど……。

「そうだ。お前も付き合うか?」
「お、おお。別にいいけど」
 何をするのかすら分かってないので、少々不安がある。

「ユージが来るなら心強いな。んじゃ行こうぜ」
「なぁ、コリンに言っといた方がいいか?」
 仮にも奴隷が独断で動いてはいろいろとまずいだろう。
「なんだ? 尻に敷かれたいのか?」
「まさか!! お前キツすぎる冗談だぞ!!」

「あのなぁ、アイツの命令くらい、ふざけんなっつって逆らえよ」
「お前が決めたルールだろうが!!」
 言ってることとやってることが矛盾しまくりだぞ!!
「じゃあ、コリンに言ってくるんだな?」
 それはそれで嫌だ。絶対に止められそうだ。
「……行くぞ」
 どこに行くのか知らんがな……。
 俺はジートに続いてクリーク家をあとにした。


 ジートの後をついていくと、辿り着いたのは酒場。
「マスター、仕事はあるか?」
「お、今日は英雄も一緒か?」
 マスターも一応、顔見知りだ。
 どうやら酒場で仕事をもらうらしい。RPGの冒険者みたいだ。

「今回はちょっと難易度上げてみるか?」
「好きにしてくれ」
 勝手に話が進められていく。ジートのいつもの難易度は?
 俺は何をやらされるんだ?

「仕事は隣のウェルズ村の依頼だ。どうも付近にベビードラゴンが集団で出るらしい」
「それの退治だな? 任しとけ」
 なんかモンスター退治をやらされるらしい。
 そのベビードラゴンていうのは強いのか?
 そういえばクェードに向かうとき一度見たことがあるな。

「報酬は500リームだ。引き受けるか?」
 5万円でモンスター退治かぁ……。いい仕事なのかどうかも分からん。
「まぁまぁだな。場所も近いし、やるぞ。ユージもいいか?」
「あぁ、別にいいぞ」
 それで隣の村が助かるっていうんならやる価値はあるってもんだ。

「なぁ、報酬はどうするんだ? 5:5か?」
 少し気になったので聞いてみた。
「当然だろ。お前もっと欲しいのか?」
 いや、いらん。0:10でも文句は無い。
「いや、5:5でいいぞ。さっそく出発しよう」
「やる気だな。楽しくなりそうだ」
 いつもと反対側の出口からシア村を出る。いつもは南側だが今回は北側。
 北に向かうのは初めてだった。

(こっちから出たことねぇから新鮮だな……)
「ベビードラゴンとはちょっと厄介だなぁ」
「そうか?」
 知らないので適当にあわせる。
「あいつら皮膚硬えじゃねぇか。剣が刃こぼれしちまうぜ」
 ほぅ、皮膚が硬いのか……。
 でも、確か地面を這いずるトカゲだろ?
 あと火を噴くとかレナが言ってたっけ……。

「火を噴かれると厄介だしなぁ……」
 知ってる知識をフルに使ってジートとの会話を成立させる。
「そうそう、口に剣をぶっ刺すしかねぇくせにあれはなしだよな」
 内側から攻めるしかないので口を突くしかないのか……。
 だんだんターゲットの生態が分かってきた。

「念のため、ウェルズでマントを借りよう。奴等の火くらいなら一回は防げるだろ……」
 それでも一回かよ……。まぁ布切れじゃ一回が限度だな。
「まぁ、500の仕事だ。俺達ならそんなに苦労することもないだろ」
 500リームは案外簡単な部類に入る仕事のようだ。



「モンスターはここから北に1kmほど行ったところに……」
「どうりで見ねぇわけだ。俺たちはシア村から来てるからな」
 ウェルズ村の酒場で詳しい情報を聞き出しているジート。
 俺はそれを横目で見ながらティータイムだ。

「おい、ユージ。行くぞ」
「ん? 終わったのか?」
「お、おい!! そのガキを連れてくつもりか!?」
「あぁ!?」
 このクソ親父なんつった? ガキだと!? コノヤロウ……。
 俺は思いっきりマスターを睨みつけた。
「コイツの実力は俺が保障するぞ。おい、ユージ。アレ見せろ」
「アレってなんだよ?」
 ツーカーの仲ってわけでもねぇんだ。ちゃんと言え。

「勲章だ、勲章。貰っただろうが!!」
「んなもんいちいち持ってくるわけねぇだろ!! 家にあるっつうの!!」
 なんであんなもん肌身離さず持ってなきゃなんねぇんだよ。
「バカ、アレがありゃお前の実力が証明できるのに……」
「このクソ野郎が何を言おうが結果だしゃ文句ねぇだろ?」
 マスターを親指で指しながらジートに話す。
「……ふん、勝手に行ってきな」
 てめぇに言われなくても勝手に行くんだよ!!

「やれやれ、行くぞユージ」
 ちょっと待ってくれ。コイツには言っとかなきゃならないことがある。

「おい、マスター。覚えとけよ、俺達はこの村のために闘うんだぜ?
それに、こういう仕事をする奴はな、たとえガキでも死ぬ覚悟はできてんだよ」

 そう言い残して酒場を出てやった。
 命懸けなんだよ。いきなりやる気の萎えること言いやがって……。
「ククク……。ハッハッハッ!! いや、ユージお前サイコー!!」
 酒場を出た途端。ジートが大笑いした。
「別に思ったことを言っただけだろ?」
「で、でもよぉ。……ブッ。 クックック。ヒィー、腹いてぇ」
 耐えられたのは数秒だけだった。噴出して笑う。
「だってアイツ、ムカつくだろうが!!」
 笑われていることがだんだんムカついてきた。

 ひとしきり笑ってからジートは真剣な表情で言った。
「ユージ、ありゃ正論だぜ。マスターは俺達に何も言う権利はねぇんだ」
「だろ?」
「それにしてもお前、損してるぜ。あのマスターの顔拝んでねぇんだからな」
 そう言うと破顔一笑。再び爆笑する。相当面白い顔をしていたようだ。
 そう思うと見逃したのが少し悔しい。

「いいから行くぞ。クソ野郎の土産にトカゲの尻尾でも持ってってやろうぜ」
「ああ、いやぁ、でも久々に本気で笑わせてもらったぜ」
 笑い続けるジートを引っ叩きながらベビードラゴンのいるという場所に向かった。



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