コリンの奴は何の命令もせずに部屋に篭っちまった。 その場合、奴隷の俺はどうすりゃいいんだ? まぁ、命令が無いなら無いでそっちの方がいいんだろうけどよ……。 1つ聞きたい。俺は帰っていいのか? クリーク家の食卓でジートと一緒に食後のお茶なんぞを飲んでいる。 命令待ちの奴隷。そんなポジションに素直に納まるほど俺は堕ちていない。 「ジート。ちょっと遊ぶか?」 「俺はお前ほど暇じゃないんでな。今日は仕事だ」 ……コイツの仕事はシア村の警護じゃないのか? 「じゃあ、遊んでてもいいじゃねぇか」 「あ? 村の警備じゃなくて金稼ぎだ。村の警備じゃ金は稼げねぇんだよ」 給料もでねぇのか。あの村長は無料で村を守れると思ってんのかよ。 あ、ほとんど村が襲われることはないから金も出ないんだろうな。 自分の納得のいく予想ができた。 「で、金をどうやって稼ぐんだ」 「お前らと同じだ」 俺達? 金稼いだことねぇんだけど……。 「そうだ。お前も付き合うか?」 「お、おお。別にいいけど」 何をするのかすら分かってないので、少々不安がある。 「ユージが来るなら心強いな。んじゃ行こうぜ」 「なぁ、コリンに言っといた方がいいか?」 仮にも奴隷が独断で動いてはいろいろとまずいだろう。 「なんだ? 尻に敷かれたいのか?」 「まさか!! お前キツすぎる冗談だぞ!!」 「あのなぁ、アイツの命令くらい、ふざけんなっつって逆らえよ」 「お前が決めたルールだろうが!!」 言ってることとやってることが矛盾しまくりだぞ!! 「じゃあ、コリンに言ってくるんだな?」 それはそれで嫌だ。絶対に止められそうだ。 「……行くぞ」 どこに行くのか知らんがな……。 俺はジートに続いてクリーク家をあとにした。 ジートの後をついていくと、辿り着いたのは酒場。 「マスター、仕事はあるか?」 「お、今日は英雄も一緒か?」 マスターも一応、顔見知りだ。 どうやら酒場で仕事をもらうらしい。RPGの冒険者みたいだ。 「今回はちょっと難易度上げてみるか?」 「好きにしてくれ」 勝手に話が進められていく。ジートのいつもの難易度は? 俺は何をやらされるんだ? 「仕事は隣のウェルズ村の依頼だ。どうも付近にベビードラゴンが集団で出るらしい」 「それの退治だな? 任しとけ」 なんかモンスター退治をやらされるらしい。 そのベビードラゴンていうのは強いのか? そういえばクェードに向かうとき一度見たことがあるな。 「報酬は500リームだ。引き受けるか?」 5万円でモンスター退治かぁ……。いい仕事なのかどうかも分からん。 「まぁまぁだな。場所も近いし、やるぞ。ユージもいいか?」 「あぁ、別にいいぞ」 それで隣の村が助かるっていうんならやる価値はあるってもんだ。 「なぁ、報酬はどうするんだ? 5:5か?」 少し気になったので聞いてみた。 「当然だろ。お前もっと欲しいのか?」 いや、いらん。0:10でも文句は無い。 「いや、5:5でいいぞ。さっそく出発しよう」 「やる気だな。楽しくなりそうだ」 いつもと反対側の出口からシア村を出る。いつもは南側だが今回は北側。 北に向かうのは初めてだった。 (こっちから出たことねぇから新鮮だな……) 「ベビードラゴンとはちょっと厄介だなぁ」 「そうか?」 知らないので適当にあわせる。 「あいつら皮膚硬えじゃねぇか。剣が刃こぼれしちまうぜ」 ほぅ、皮膚が硬いのか……。 でも、確か地面を這いずるトカゲだろ? あと火を噴くとかレナが言ってたっけ……。 「火を噴かれると厄介だしなぁ……」 知ってる知識をフルに使ってジートとの会話を成立させる。 「そうそう、口に剣をぶっ刺すしかねぇくせにあれはなしだよな」 内側から攻めるしかないので口を突くしかないのか……。 だんだんターゲットの生態が分かってきた。 「念のため、ウェルズでマントを借りよう。奴等の火くらいなら一回は防げるだろ……」 それでも一回かよ……。まぁ布切れじゃ一回が限度だな。 「まぁ、500の仕事だ。俺達ならそんなに苦労することもないだろ」 500リームは案外簡単な部類に入る仕事のようだ。 「モンスターはここから北に1kmほど行ったところに……」 「どうりで見ねぇわけだ。俺たちはシア村から来てるからな」 ウェルズ村の酒場で詳しい情報を聞き出しているジート。 俺はそれを横目で見ながらティータイムだ。 「おい、ユージ。行くぞ」 「ん? 終わったのか?」 「お、おい!! そのガキを連れてくつもりか!?」 「あぁ!?」 このクソ親父なんつった? ガキだと!? コノヤロウ……。 俺は思いっきりマスターを睨みつけた。 「コイツの実力は俺が保障するぞ。おい、ユージ。アレ見せろ」 「アレってなんだよ?」 ツーカーの仲ってわけでもねぇんだ。ちゃんと言え。 「勲章だ、勲章。貰っただろうが!!」 「んなもんいちいち持ってくるわけねぇだろ!! 家にあるっつうの!!」 なんであんなもん肌身離さず持ってなきゃなんねぇんだよ。 「バカ、アレがありゃお前の実力が証明できるのに……」 「このクソ野郎が何を言おうが結果だしゃ文句ねぇだろ?」 マスターを親指で指しながらジートに話す。 「……ふん、勝手に行ってきな」 てめぇに言われなくても勝手に行くんだよ!! 「やれやれ、行くぞユージ」 ちょっと待ってくれ。コイツには言っとかなきゃならないことがある。 「おい、マスター。覚えとけよ、俺達はこの村のために闘うんだぜ? それに、こういう仕事をする奴はな、たとえガキでも死ぬ覚悟はできてんだよ」 そう言い残して酒場を出てやった。 命懸けなんだよ。いきなりやる気の萎えること言いやがって……。 「ククク……。ハッハッハッ!! いや、ユージお前サイコー!!」 酒場を出た途端。ジートが大笑いした。 「別に思ったことを言っただけだろ?」 「で、でもよぉ。……ブッ。 クックック。ヒィー、腹いてぇ」 耐えられたのは数秒だけだった。噴出して笑う。 「だってアイツ、ムカつくだろうが!!」 笑われていることがだんだんムカついてきた。 ひとしきり笑ってからジートは真剣な表情で言った。 「ユージ、ありゃ正論だぜ。マスターは俺達に何も言う権利はねぇんだ」 「だろ?」 「それにしてもお前、損してるぜ。あのマスターの顔拝んでねぇんだからな」 そう言うと破顔一笑。再び爆笑する。相当面白い顔をしていたようだ。 そう思うと見逃したのが少し悔しい。 「いいから行くぞ。クソ野郎の土産にトカゲの尻尾でも持ってってやろうぜ」 「ああ、いやぁ、でも久々に本気で笑わせてもらったぜ」 笑い続けるジートを引っ叩きながらベビードラゴンのいるという場所に向かった。 |