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 ひやひやするような時間を乗り切ってようやく朝食の時間だ。
 エリスも分かってて有香さんで遊んでいるようだから性質が悪い。
 ヒントを与えちゃった僕としては責任を持って注意しなきゃなぁ……。

第134話 僕達の一日2 <<智樹>>


 もうそろそろ僕もやりたいことをやらなきゃな……。
 こっちに来てからいろいろなことがありすぎて僕はその対応に追われていた。
 別に僕がやらなくてもなんとかなったかもしれない。
 しかし、僕だけがすべての事柄に関係なく、すべての状況を理解していたとも思う。
 だから僕が仲裁しただけ。ただ、それだけのことだ。
「トモキは今日何をするの?」
 考えながら食事を取っているとエリスが聞いてくる。

「何か用事でもあるの?」
 エリスが僕に何か用事があるなら延期だ。
 別に今日やらなきゃならないことでもない。
「別にないわ。ただの話題よ」
「ふーん。有香さんは今日どうするの?」
「特に何もすることがないの。何かない?」
 僕に聞かれてもちょっと困る。有香さんができる暇潰し……。
 雄二の様子を見てたら? と言いたいところだが、それを言うとまたエリスが絡みだす。

「う〜ん……」
 まったくと言っていいほど、いい案が浮かばない。
「あ、ゴメンね。もういいよ、自分でやりたいこと見つけるから」
「それでしたら、畑仕事でも手伝ったらどうですか?」
「畑仕事……ですか?」
 レナさんの提案に有香さんは首をかしげる。

「ああ、それいいわね。私も今日は暇だし付き合うわ」
「あの、畑仕事って何をすればいいの?」
 村の畑を見ている限りでは地球の農業と同じなんだが……。
 実際のところどうなのだろうか。

「指示に従ってるだけでいいんですよ。詳しいことは向こうで聞いてください」
「お金も稼げるし、暇も潰せるわよ」
「ふぅん。じゃあそうしようかなぁ…」
 有香さんは一日をアルバイトで潰すことに決めたらしい。

「トモキもやらない?」
 エリスが僕を誘ってきた。だが僕にはやりたいことがある。
「いや、僕はちょっとリーブさんに用事があるんだ」
「村長に? 何しに行くの?」
 エリスに言ってもいいんだが…できれば内緒にしておきたい。

「勉強だよ。こっちの世界のことをいろいろ調べたいんだ」
 軽く嘘で流し、エリスの誘いを断る。
「智樹君らしいね。エリス、私達だけで行きましょ」
「ん…。トモキ、勉強ばっかりじゃ体に悪いよ?」
 エリスの言うことはもっともだ。だから僕は……
「分かってる。程々にするよ」


 家を出た後、すぐにリーブさんの家に行く。

コン、コン

「すみません、智樹です。リーブさんいますか?」
 数秒後、扉が開き、若いシア村の村長リーブさんが顔を出す。
「トモキさん。お久しぶりです。どうしました?」
「ちょっと弓をお借りしたいのですが……」
 そう、僕は以前、神無に薦められたこともあり、弓の訓練をするつもりだった。
「弓ですか……。ちょっと待っててください」
 一度家の中に入ったリーブさんは弓と数十本の矢を持って出てきた。
「これは、村の予備の弓矢ですがトモキさんにあげましょう」
「いいんですか?」
「トモキさんもシア村の一員ですからね」
 リーブさんのセリフを聞いてちょっと驚いてしまった。
 僕達は既にリオラート人の一員となってしまっていたからだ。
 
 そのことに気付かなかったわけじゃない。
 確かに僕達はリオラートに来た時点でリオラート人の一員だ。
 何故だかわからないけど複雑な気分だった。

「周囲に気をつけてくださいね」
「はい、分かってます」
 弓と矢を受け取ってリーブさんの家をあとにした。


 村を離れ、雄二がレナさんに出会ったという森に行ってみた。
「ここなら誰も来ないかな……。神無!」
 周囲に誰もいないことを確認して神無を呼び出す。
『なんでしょうか?』
(弓の使い方を教えてもらえるかな?)
『わ、私がですか!? 私にもちょっと分かりかねます……』
(え? そうなの?)
 弓を薦めるのだから知っているものだと思っていたのだが……。

『弓を使う人についたことがないので……申し訳ありません』
 僕も弓道に関しては、まったく知らないので、テレビ見たのを真似て、構えをとる。
『智樹様の記憶の中に弓道がありますけど……』
(僕もそこまで注意して構えとかは見てないよ)

 弓を一本の木に向けて、弓を持つ左腕をまっすぐ伸ばす。
目標との距離は約7m。そんなに遠くない距離だ。
(こんな感じかな?)
『一度撃ってみては?』
(そうだね。矢はたくさんあるし……)
 独学でやるのは無謀だと思うが仕方ない。とにかくやってみよう。
 矢を摘みながら、限界まで弦を引く。
「っ!!」
 矢は目標の木に当たらず、森の中に入り、どこかの木に刺さったようだ。

『少し右に外れましたね……』
「よし、今度は少し左に修正してみよう」
 先ほどと同じように弓矢を構える。
「っ!!」
 矢は目標の木の左側をかすって森に入っていく。今度は地面に刺さったみたいだ。
 
『惜しいです!! 頑張ってください!!』
「けど実戦は20mほど離れてて、しかも動いてる獲物を撃つんだよね……」
『しかし、智樹様。そのための練習ですよ?』
「まぁ、そうなんだけどね……」
 先は長そうだ。地道に練習を重ねなくてはならないだろう。
 
 弓道部でも入ってみるか?
 いや、実戦じゃあれは役に立たない。こっちも動きながら撃てるようじゃないと……。
 それには姿形をモットーとする弓道はあまりにも不向きだ。
 動きながら弓を射ると言ったら流鏑馬だがあれはまた勝手が違う。
 やはり独学でやるしかないだろう。

「頑張ろう。千里の道も一歩から、だよ」
『はい』
 そう結論付けた僕は再び弓の練習を始めるのであった。



 当たらなくなってきた。7mは6割ほどの確率で当たるようになったので
 10mまで離れてみたのだが今度はまったく当たらなくなってしまった。
 これの倍近くの距離を射抜くなんて僕にはできない。
「本当に僕には戦闘の才能がないんだなぁ……」
 もし雄二なら20mでも一発は当てているかもしれない。
 それほどの才能が藤木雄二という男にはあると思っている。
『そう気を落とさないでください……』
「役に立てないんだ。気落ちもするよ」
 戦闘になったとき確実に僕はお荷物だ。

『戦闘が駄目なら智樹様が得意な戦術があるじゃありませんか』
「…………」
 確かに僕は戦闘よりも戦術に向いているのかもしれない。
 でも僕は男だ。戦って人を守りたいとも思う。
 有香さんやエリスのような女の子に戦闘を任せるなんて情けなさすぎる。
 それでも僕は戦う力がない。足を引っ張ってしまう。

『戦うだけが戦闘じゃありませんよ……』
「僕だって戦える。戦いたいんだよ」
『地球の不良とは相手が違います。雄二さんも貴方をフォローしつづける事はできないでしょう』
 分かってる。その時は見捨ててもらっても構わない。
 そうじゃないと僕は戦闘の度に自分が情けなくなる。それは耐えられない……。

『戦術とは味方をできる限り傷つけずに勝たせる戦法です。
 戦って守るのではなく知恵で守る。智樹様、貴方はそれができる人です』
「知恵で……守る」
『人間なら誰でも向き不向きはありますよ』
 僕は戦闘には向いていない。神無はそう言っている。僕も自分でそう思う。
 僕と神無の違いは諦めたこと……。
 
 神無は違う道で戦闘をやらせようと考えているのに対し
 僕は戦闘では後ろに引っ込んで見守ることしか考えなかった。
「弓は辞めよう。ジタルの本屋に行く」
 戦術を学んでみんなを守る。これが僕の戦い方だ。
『はい!! しかし……』
「どうかした?」

『智樹様は以前、あの本屋で長時間滞在した経験が……』
「あ゛……」
 そうだ。あの店には二度と行けないと思っていたのだった。

「今度、誰かに付き添ってもらおう」
『今日は中止ですね……』
 やる気が急に削がれた気がした……。



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