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 やはり、気があったのは挨拶だけだった。
 もともと相性最悪な俺とコリンという存在がいるんだぞ?
 朝食なんか滞りなく終わるわけもない。

第133話 奴隷雄二の一日2 <<雄二>>


 朝食、静かに黙々と食べるなんて夢のまた夢だ。
 俺とコリン。そして仲介にジートだぞ?
 冒険者のパーティだったら後方から矢が飛んできてもおかしくない組み合わせだ。

「それ、とって」
 今まさに野菜炒めのようなものを口に運ぼうとしていたのを静止された。
「…………」
 一旦、料理を皿に戻し、調味料の入った小瓶をコリンに渡す。

「なんだかアレだな。新婚夫婦?」
「どこがよ!!」
 ジートには、もう何も言う気はない。奴が調子に乗るだけだ。
 俺はジートのコリン関連時の対応を理解していた。
 この親バカは死んでも直らん……と。

「もう、呼吸があってるって言うのか? そんな感じだ」
「そんなわけないでしょ!!」
 飯時は賑やかにやりたいが、この賑やかさは嫌だ。
 親子の口論の中、俺は黙ってもくもくと食事を済ませる。


「ちょっと!! アンタもなにか言いなさいよ!!」
 口論の中、急に俺に話が振られる。
「……はぁ。……『なにか』」
 溜息のあと、コリンの命令を忠実に実行して、食事を再開する。
 うむ、美味い。コリンの腕もたいしたもんだ。
 
「……お前、俺達を完全に無視してるな?」
「まぁな」
 本当にどうでもいいからな。
「ユージ・フジキ。命令よ。会話に参加しなさい」
「お前等いい加減に飯を食おうとは思わねぇのかよ……」
 俺はもう8割方終わっている。ジート親子は2割も食べていない。

「で、なんだよ? 何の話だ?」
「私とアンタがどれだけ相性悪いかお父さんに説明して!!」
「ああ、もう、そりゃめっちゃ悪いぞ。俺が保障する」
 こっちがどんだけ歩み寄っても同じ距離分離れてく感じだ。
 つまり平行線だ。触れることはない。

「いや、お前の保障じゃ保障にならんだろ?」
「ならんのか?」
「当事者の保障なんて役に立つわけないでしょ? バカね……」
「…………」
 ぐ、ム、ムカつく……。

「じゃあ、ご主人様自らやられたらいかがでしょうか? バカは無用だろ?」
「アンタに頼んだ私がバカだったわ」
 
 そういえば春香に言われたことあったなぁ……。
「バ〜カ」
 春香に言われたことをそのままコリンに返してみた。
「!!?」
 やっぱ効果的だな。俺は耐え忍ぶことができたがコイツはどうだ?


「……命令。村内10周。今すぐよ」
「…………」
 前回とでは立場と状況が違った。俺は命令される側だったのだ……。
 コリンには耐える必要がないのである。

「飯は?」
「もう十分食べたでしょ? 行きなさい」
 俺は食卓をあとにして、クリーク家から出た。

「言うべきときを間違えたな……風華」
 外に出てすぐに風華を呼び出した。
『魔法攻撃されなかっただけでも良しとしなさい』
「んじゃ、走りますか……」
 一周だいたい2.5km程か……。10周で25km。
 時速500kmで3分ってところかな。

『え、あたし使うの?』
「あ? 25kmだぞ? あたりまえじゃねぇか」
『え〜、あたしは所詮喋るナイフだし〜? 使わなくていいんじゃないの〜?』
 風華はただの冗談を根に持っていた……。

(すみませんでした……。唯一無二の魂の相棒です)
『これからはあたしの存在を重要視することね』
「じゃ、行きますか」
『だいたい半分の力よ。障害物に気をつけて』
(了解!!)
 そして俺は走り出した。真面目に10周。


「帰ったぞ〜」
 帰ると静かに食事をしていた2人が俺を見る。
 ジートは普通に、しかしコリンは驚いたように……。

「え゛……私は10周って言ったはずだけど?」
「だから10周だろ? 終わったんだよ」
 風華の能力を詳しく知らないコリンにとっては嘘にしか聞こえないのだろう。

「嘘……いくらなんでも早すぎよ。アンタ何者よ」
「シア村の英雄にしてコリンの婚約者」
「お父さんは黙ってて!!」
 ジートの回答を黙らせてから俺を睨みつける。

「俺はただの旅人だぞ。英雄でも婚約者でもない。ごく普通の一般人だ」
 ただちょっと早く走れたり、大木に穴あけれたり、人を眠らせたりできるけどな。
「……私は一般人に負けたって言うの?」
「いんや、お前は覚醒者に負けたんだ。そういう意味じゃ一般人じゃねぇかもな」
 それほど、ソウルウェポンの力は偉大なんだと思う。

「いや、風華を使えなくてもお前は強いよ。それにひきかえ……」
 ジートが口を挟む。一旦セリフを区切ってコリンを見る。
「コリンは魔法が使えるだけの一般人だからな。身体能力は低い」
「ま、そうだな。魔法が使えなかったら普通の女の子だよな」
 コリンと一般人の違いは魔法が使えるということだけなのだ。

「まぁ、コリンも修行が足りねぇってこった。精進しな」
 ジートが諭すようにコリンの肩をたたく。
「……今度は絶対勝ってやるわ」
「ああ、せいぜい頑張れ。俺はもう二度とお前とやらねぇ」
 身体能力まで向上したら……ちょっとばかし不利になりそうだ。
「絶対に勝ってやるんだから!!」
 コリンはそう言い残して部屋に入っていった。

「で、これでいいのか?」
 コリンがいなくなってから俺はジートに話しかけた。
 ジートの対応に疑問を感じたからだ。
 なぜなら、ジートの言葉はどちらかと言うとコリンをこき下ろすようなものだったからだ。

「いいんじゃねぇか? アイツ自分の力を過信してるところあったし」
「そうか?」
 俺から見るとそんなところは一切見当たらなかったと思うが……。
「主席のプライドってやつじゃねぇか? 一度灸を据える必要があったと思うぞ俺は」
「ふ〜ん。そんなもんかねぇ……」
「これでアイツもちったぁ懲りるだろ」
 つまりなにか? この男……俺をコリンの成長のだしに使いやがったわけか?

「この親バカ野郎め」
「親バカでけっこうだね。お前も親になりゃ分かるって」
 朝餉(あさげ)の時はこうして過ぎていった。 



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