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 もうそろそろ始めようか……。
 雄二は今日一日いないし、僕にとっての好機だ。
 あとはエリス達をどうするかなんだけど……。

第132話 僕達の一日1 <<智樹>>


 朝、僕が一番早く起きたようでまだ家の中は静かなものだ。
 特にやることもなかったので顔を洗ってくる。
 ついでに朝食のとき困らないように水を汲んでおいた。

「う……うぁあ!! …ぐぅっ!!」
「…………」
 部屋に戻ってくると雄二がうなされていた。かなり苦しそうだ。
 悪夢を見るほど嫌なものなのだろうか……。
 まぁ、確かにいいものではないがここまでなるものか?

「起こしたほうがいいね」
 脂汗を流して苦しんでいる雄二を揺すって、起こした。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……。悪夢だ…悪夢を見た」
「……言わなくても分かるよ」
 あんな苦しみ方で幸せな夢のわけがない。
 その後、雄二は顔を洗いに行くと言って、家を出ていった。


「確か、お茶の葉はここら辺にあったはずだけど……」
 先日レナさんが出していた場所を思い出しながら、お茶の場所を探す。
「あ、あった。ポットは、っと……」
 逆さにおいてあったポットを取り、茶漉しにお茶の葉を入れる。
「これ、火ってどうやってつけるんだろう……」
 ガスコンロらしき物なのだが、どうやって火をつけるのか分からない。

「おはようトモキ。って……なにやってんの?」
 コンロの周囲をジロジロ見つめている僕が怪しく映ったのだろう。
「いや、これってどうやって火をつけるの?」
「……ああ、なるほどね」
 納得がいったようで、エリスはコンロの下にある突起状の水晶に触れる。

「あ」
 本当にあっという間にコンロに点火する。
「エリス、どうやったの?」
「この部分に触れて念じるだけよ。簡単でしょ?」
 この世界のコンロは一種のマジックアイテムらしい。
「消すときも同じ。消えるように念じればいいわ」
「あ、ありがとう……」
 驚きは隠せない。ガスコンロよりよっぽど便利だ。
 ただ火の強弱はどうするのだろう……。

 僕は試しに水晶に触れて念じてみた。
(強くなれ)
 少々火力があがったみたいだ。火力の調整もできるらしい。
「凄いな。地球に持って帰りたいよ」
「持って帰れば? ジタルに売ってると思うけど」
 これが地球で使えるならガス代はなくなる。ガスがいらなくなる。

「じゃ、私レナ呼んでくるから」
「あ、エリス」
 僕が止めようとしたとき、既にエリスは台所をあとにしていた。

 お湯を沸かしていると有香さんが起きてくる。
「おはよう智樹君」
「うん、おはよう有香さん。水はそこにあるから顔洗って」
 朝、汲んでおいた水を指して、再びお湯の様子を見る。

― 智樹、智樹。聞こえるか? ―

「え? 雄二?」
「雄二君がどうかしたの?」

― 今、無繋で話してる。朝食いらねぇって言っといてくれ ―
(わざわざ無繋使わなくても言いに来ればいいのに……)
― 命令で今すぐなんだよ ―

 どうやら途中でコリンさんと遭遇してしまったようだ。
 奴隷の一日は始まってしまったわけか……。

(分かったよ。レナさんに言っとく)
 まだレナさんは来てなかったが、エリスが呼びに行っている。

― またレナの世話になってるのか? ―
(いや、だってさ。エリスが……)
 僕が止める間もなく呼びに行っちゃったんだから仕方ないだろ?

― とにかくそういうわけだから頼むわ ―
(了解)

「ねぇ、智樹君。雄二君がどうかした?」
「ん、今、無繋で朝食いらないってさ」
「そう……」
 ちょっと落ちこんだ声だ。というより見るからに落ちこんでいるのが分かる。
 どうせ、なにもありはしない、と僕は読んでいるが……。
 有香さんにとっては心配なんだろう。過保護というか心配性というか……。

「お茶、飲む?」
「う、うん」
 レナさんとエリスの分。あわせて4人分を淹れる。
「あ、私が持ってくわ」
「そう? じゃあよろしく」
 火を消してから有香さんのあとを追う。

「ただいま〜」
「おはようございます。ユカさん、トモキさん」
 食卓に入るなりレナさんはペコリと行儀よくお辞儀をする。
 僕達もやらなきゃいけない気がして同じようにお辞儀をする。
「お、おはようレナさん」
「おはよう」
 なんか変な感じだ。

「じゃあ、さっそく作らせてもらいますね」
「あ、雄二は今日いらないって言ってたよ」
 言われたことをきちんとレナさんに伝えた。

「やっぱりそうですか。コリンさんの家に入っていくの見ましたから……」
 どうやら雄二はコリンさんの家に連行されたらしい。
「え? そうなの? 私気付かなかったよ?」
 エリスがレナに問い詰める。

「2人とも、楽しそうでしたよ」
「へぇ。なんだかんだ言ってコリンって人も満更じゃないのね」
 僕に振らないでほしい。有香さんのオーラが怖い……。
「で、でも2人とも結婚する気はないみたいだし大丈夫よ」

「レ、レナさん。僕、手伝おうか?」
 台所に向かうレナさんを見て、とっさに言ってしまった。
 この場にいると、とばっちりがこっちにも来そうで嫌だ。
「いいですよ。私一人で大丈夫です。トモキさんは座って待っててください」
 いつも通りの笑顔で僕の提案を却下して台所へ去っていくレナさん。
 たった一つの逃げ道が消えた瞬間だった。

「どうかしらね。ユージもああいう奴だからねぇ。コロッといっちゃうかもね」
「そ、そんなこと絶対ないわよ」
 題材、雄二とコリン今後の予想、ってところだろうか。
 はっきり言ってそんな談義に付き合うのは胃が痛くなってくる。

「トモキもそう思うわよね?」
(僕に振らないでくれよ……)
 双方の表情を見て、かなり返答に困った。
「さ、さぁね。たった1日じゃどうなるか分かんないなぁ」
「そうよ。1日で雄二君が堕ちるわけないわよ」
 堕ちるって……まぁ、有香さんは約一年かかっても堕とせてないわけだしね。

「ユカって妙にユージを庇うよねぇ。もしかして……ユージに惚れてる?」
 ニヤリと笑って有香の表情を窺う。
 も、もしかして……エリスは気付いてるのか?
 それとも疑っていて鎌をかけているのか?
 どっちにしろ褒められた手段ではない。確信犯ならなおさらだ。
 
「ち、違うわよ!! わ、私はただ……異世界間の恋愛なんてって思っただけで……」
「ふぅ〜ん」
 真っ赤な顔した有香さんを前に、にやにやと笑うエリス。
 結論。……絶対確信犯だ。

「絶対に苦労しそうだから、言っただけだよ。べ、別に私が雄二君のこと好きとか……」
 もう聞こえない。ぼそぼそと何か言っているのは分かるのだが……。
 僕はエリスを嗜めるように一睨みして静観を決めこむ。
「ふぅん。別にどうでもいいんだけどね」
「そ、そうよ。どうでもいいじゃないそんなこと!!」
 有香さんは焦って言った。

 結局、朝食が来ることでこの場は収拾された。
 ものすごく居心地の悪い空間はレナさんの朝食によって消えた。
 これほど朝食というものをありがたいと思ったのはこれが初めてかもしれない……。



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