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 ルールを理解したあと、この七並べというゲームは友情破壊ゲームに変わる。
 互いが互いの持ち札を伺い、全員が敵に見える。
 そしてジートがある発言をしたことでこのゲームに緊張感が生まれた。

第129話 ご主人様決定戦 <<雄二>>


 七並べは既に5、6回やっていた。何度やったか数えるのも面倒だ。
「なんか、このままじゃつまんねぇよなぁ」
 やっているうちにジートがポツリと呟いた。
「なんだよ。他のゲームにするか?」
「いや、そうじゃねぇ。どうせなら罰を科さないか?」
 ジートが出した案はペナルティ案。つまり罰ゲームだ。

「面白そうじゃねぇか」
「僕も別にいいけど……」
 俺も智樹もその案には賛成だ。
 もともと、俺はそんなゲームを何回もやっている。
 まぁ、言うまでもないが主に首謀者は春香だ。

「ど、どんな罰なの?」
「ん〜、そうだなぁ。なんかいいのないか?」
 ジートは俺たちに罰ゲームの提案を託した。どうやら何も考えてなかったらしい。
「あのねぇ、発案者なんだからお父さんが考えてよ」
「ま、当然の義務だな」
 コリンのツッコミに俺も賛同する。

「……じゃ、簡単に明日一日の隷属権でも賭けるか」
「はぁ?」
 何を言ったのかよく理解できなかった。
「そ、そんなの…ダメだよ!!」
 しかし、有香は理解したようで即座に反対していた。
「大丈夫だってユカちゃん。負けなきゃいいんだから」
「なぁ、その“れいぞくけん”ってなんだよ?」

「……分かる奴、手、挙げろ」
 ジートの号令に俺とレナ以外の全員が手を挙げる。
「???」
 横を見るとレナも首をかしげて、何がなんだか分からないといった感じだった。

「明日一日、勝者の奴隷になるってことだよ……」
 智樹がため息をこぼしながら説明する。
「はぁ!? 全員が!?」
「いんや、最下位の奴が1位の奴隷になる。簡単だろ?」
「そりゃそうだが……酷すぎないか?」

「なに? もう負けた気になってんの? 意外と臆病なのね、シア村の英雄さんは……」
「…………」
 挑発ですか? いや、挑発だよな?
 ここで挑発にのったら負けに等しい。ここは冷静に、冷静に……。

「いやぁ、コリンに奴隷になってもらうのは、さすがに酷いかなぁと思ってなぁ」
「あら、それなら大丈夫よ。絶対アンタが私の奴隷になるから」
 お互いに睨み合う、といっても顔は笑顔で水面下の闘いだ。
「あははは。コリンの奴隷なんて光栄だなぁ、コノヤロウ」
「ふふ、楽しくなってきたわねぇ、下郎……」

「……で、やるの? やらないの?」
 エリスが頬杖をついて聞いてくる。どうでもいい感じだ。
 甘いぞじゃじゃ馬。俺たちの闘いはもう既に始まっているのだ。

「「 やるに決まってん(でしょ)だろ 」」

 こうして奴隷決定戦のゴングは鳴った。
「よし、公平を期すためにレナが配ってくれ」
 レナならイカサマをするはずがない。というより、やろうという考えすら起こせないだろう。
「はい、いいですよ」
 コイツ本当にこのゲームの趣旨分かってんのか?
 凄くいい笑顔してんだけど……。

 ニコニコ笑いながらレナはカードを1枚ずつ配っていく。
「さぁ、始めましょう」
 柔らかなセリフと同時に、ぜんぜん柔らかくない冷戦がスタートする。


 そう、このゲームは最初のカードですべてが決まる。
 7があれば所持カードが減る。ジョーカーがあればかなり有利になる。
 6と8をセットで持っていたら万々歳だ。
(来い!! 神よ!!)
 心中で叫びながらカードを一気に見る。



「…………」
 4人のおっさんと目が合った。キングだ。
 この瞬間、俺の時は止まった。

「配りなおしを要求する!!!」
「ダメに決まってんでしょ」
 全力で訴えてみたがコリンにあっさり一蹴された。まぁそうだろうな……。
 しかもスペードの7を所持。オーナースタート。

 俺のカードを説明しよう。
 スペードの7。ハートのA、9。クラブの6。おっさん4人。以上だ。
「パス1」
 ちなみにパスは4回でアウト。3回までOKということだ。
 クラブの6は徹底的にパス3になるまで止める!!
 オールマークキングがある時点で俺に勝つ権利はない。
 ならばせめて奴隷になるのを防がなければならない。

「パス2」
 無常にもスペードとダイヤが異常に進んでいく。
 どんどん出ていくのにクイーンだけが出ない。結局おっさんはキープだ。

「パス3」
 ストレートパスだ。誰だか知らねぇがハートの8は止められている。
 奴隷に一歩近づいている。俺はそう確信した。

「…………」
 最初で最後の一枚になるかもしれん……。
 俺は心で泣きながらクラブの6を出した。
「ありがとうございます!!」
 すげぇいい笑顔でレナがクラブの5を出す。
「でかしたユージ!!」
 続いてジートが4。
「あ〜、やっとでたわね」
 コリンが3。おいおい……そりゃねぇだろ。
「ふぅ」
 安堵したように有香が2を出す。

「なんでみんな続いて持ってんの?」
 エリスが驚きながらAを出した。
 何このミラクル……。俺を嵌める為の罠か?

「パス2」
 智樹がパスをする。
 ……ってことは、当然。
「奴隷……」
 俺は膝から崩れ落ちた。最短で奴隷が決まった。
「無様ね……」
 床に崩れ落ちた俺にコリンが立ち上がり見下してくる。屈辱だ。
「く、くそぉ。こんなの詐欺じゃねぇかよ」
「レナに配らせたのユージじゃない」
 エリスが呆れながら言う。みんなの視線が自業自得だと言っている気がする。

「さ、奴隷はほっといて、ご主人様を決めないとね」
「そうだな。俺が勝ったらユージにはコリンと結婚してもらうからな。一日で」
 24時間の間、姿を消してやろうかと本気で思った。
「私が勝ったら、とりあえずお父さんを消してもらうわ。物理的に」
「物騒ねぇ、私ならクェードとシア村を4往復はさせるわね。無駄に」
 エリスは俺を殺る気だ……。そんなことしたら死ぬ。

「ねぇ、トモキはどうするの?」
「別にどうもしないけど……本でも買ってきてもらおうかなぁ。 レナさんは?」
「何の話ですか?」
 やっぱり分かっていなかったようだ。まぁいいけどな。もう最下位決まったし。俺だし。
「雄二に言うこと聞かせるとしたら何を命令する?」
「そうですねぇ……。あ、お買い物に付き合ってもらいたいです」
 ああ、レナ、勝ってくれ。買い物くらいなら何度でも付き合う。
 荷物持ちならどんな重いものでも持ってやるから……。

「ユカさんはどうするんですか?」
「え、わ、私?」
「はい」
「………えっと……まだ考え中です」
 コイツ、なにやらせる気だよ……言ってくれない方が怖ぇよ。

 ここからは俺のご主人様決定戦となる。
 嬉しくて涙が出てくるねコンチクショウ!!
「あ、私ドボンです」
 何度も言っているうちにアウトのことをドボンと言うようになった。
 レナがまずご主人様決定戦から脱落した。俺にとって神が一人消えた。
(あとマシな奴は智樹と……有香はなんか怖いな。智樹だけか……)

「やっぱりAを2枚も抱えてたら勝てるもんも勝てないね」
「…………」
 この世にゃ神も仏もいねぇってことだな。承知した。よく分かった。



「これであがりね」
「…………」
 神よ。お前は悪魔か? 俺が一体お前に何したよ?
 俺のご主人様はコリン様に決まった。
「ワーイ、ウレシイナ」
「ふふ、明日を楽しみにしてなさい」
 にっこりと不気味な笑顔で俺も見る。正直本気で怖かった。

 全員でとった夕食。俺にとっての最後の晩餐。
 まったく喉を通らなかった……。



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