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 翌朝、起きてレナの作った朝食を食べる。
 そういえば昼飯も晩飯もレナの世話になっちまった。
 ……これって、あのじゃじゃ馬となんも変わらんのでは?

第126話 ジート、その理由 <<雄二>>


 シア村にコンコンという音が鳴り響く。
 朝食を食べ終えた俺は暇だったのでジートと遊ぶことにしたのだ。
 遊ぶ、といっても木刀でのチャンバラなのだが……。

「なぁ、ジート」
「っと、なんだ?」
 俺の剣を受け止めながらジートが聞き返す。

「なんで、コリンの相手を俺にしたんだ?」
 喋ってる最中にジートが攻撃を仕掛けてきたので何とか受け止める。
 そう、なんで俺が選ばれたのかが不思議だった。

「あのなぁ、普通そういうこと、こういう時に聞くか?」
「いや、ちょっと気になったんだよ。別に俺じゃなくてもいいだろ?」
 智樹でもいいし、なんならシア村の他の奴でも構わない。
 どうしても結婚させたいなら相手は誰でもいいはずだ。

「お前と相性よさそうだったからなぁ。現にけっこう仲いいだろ?」
「ぜんぜん。お前の目は節穴か?」
 攻撃を仕掛けあいながら会話を交わす。
 お互い全力じゃないので、本当に遊び感覚だ。

「けどアイツの相手を探すのけっこう難しいんだぞ?」
「厳選してんのか?」
「まぁなっ!!」
 俺の打ち返す暇がないほど攻撃のスピードが急に上がる。
 袈裟切りを弾き、胴を屈んでかわす。
 このままではくらっちまう。一旦距離をとることにした。

「アイツはあれでも攻撃魔法科の主席なんだってよ」
「へぇ、アレがねぇ」
 俺は主席レベルの攻撃魔法をくらっていたのか……。
 あんとき逃げてなかったら死んでるな。
「だからアイツに釣りあう奴なんてそうはいねぇ」
「…………」
 この言葉が俺の中のどこかに引っかかった。

「探し出すだけでも一苦労だぞ? そんな中やっとお前を見つけたのに……」
「そんなくだらん結婚、絶対にお断りだ」
「くだらんって……ユージ。コリンはいい女だぞ。親バカ抜きで」
「ああ、アイツはいい奴だよ。確かにな」
 可愛いし、性格も普通にしてりゃいい方だ。
 友達になったらさぞ楽しい生活を送ることができるだろうし
 彼女になってくれるなら、なって欲しいくらいにいい女だよ。

「でも、結婚するのはコリンだろ? ジートが出てきちゃまずいだろ」
 こういうのって当人同士の問題じゃないのか?
「そうか? 将来の俺の息子だぞ。俺に代わってコリンを任せる奴だぞ?」
 俺には結婚する側の気持ちしか分からない。
 させる側の気持ちなんて親にならないと分からねぇよ……。

「ユージ、お前の言いたいことも分かる。だけど、俺側のことも分かれよ」
「……そうだな」
 テレビドラマのようにはいかない。結婚はそれほど大きな問題のようだ。
 俺はどんな奴とどんな風に結婚するのだろう。
 今はまったく興味がない。それはこれからもそうかもしれない。
 だが、いつか来るかもしれない決断の時に心構えができた気がする。

「じゃ、コリンの夫になってくれるな?」
「そりゃまた別問題だ」
「ちっ」
 俺はまだ結婚する側の考えでいい。ガキのままで構わない。
  
「じゃ、そろそろ再開するか」
「そうだな」
「ちょっといい?」
 お互い構えて向き合ったところで制止の声がかかる。

「そういう話は本人のいないところでやるものじゃない?」
 いつの間にかコリンが俺達の傍まで来ていた。
 ジートのほうに集中していたので、まったく気付かなかった。

「……お、お前、いつ来たんだ」
「アンタが「なんでコリンの相手を俺にしたんだ」って聞いたところからよ」
 会話の最初からじゃねぇか……。

「お、俺は別にお前の文句は言ってねぇぞ」
「俺もだ。お前に悪いことは何にもしてないぞ」

「ええ、貴方達が私のことを思ってくれたのは嬉しいわ。でもね……」
 コリンの周囲に火の玉が無数にできていく。
「私の人生を勝手に語るのはやめてくれる!!?」
 そして、それは放たれる。
 今持っているのは訓練用の木刀のみ、風華を呼んでもジートがくたばる。
 と、いうより風華を呼んでる暇がない。既に火の玉は俺の周囲に着弾しているからだ。

「ま、ちょろいけどな。この程度」
 自分に当たるであろう火の玉だけをかわしていく。
 チラッと見た限り、ジートも同じように避けていた。

「イエーイ。楽勝!!」
 火の玉が尽きた。俺はジートとハイタッチで喜んだ。

「それは私に対する挑戦と受け取っていいのかしら?」
 既に次の火の玉が装填されていた。しかもさっきより数が多い。
「じょ、冗談ッスよ。コリンさん」
「そうマジになるなって」

「一回死んでこいっ!!」
 今度は無理。風華呼んどきゃよかった……。
 逃げる隙間もないほどの火の玉の大群。

「痛ってぇんだろうなぁ……」
「命の保障はされてる。コリンは優しいからな」
 ああ、無駄な保障をありがとよ。ぜんぜん嬉しくねぇよ。

「ま、やってみますかぁ」
 短剣で火の玉を叩き落す。まぁ、ある程度ならやれるだろ……。
 ジートは完全に剣を盾にして防御の構えだ。
 そして、俺は無数の火の玉に喧嘩を売った……。

「いてっ」
 短剣があっけなく弾かれる。
 俺が喧嘩を売った相手は無敵の薄紫の壁だった。
「これって、有香の……」
「なんだよこれ?」
 その壁はジートの前にも出現していた。

「大丈夫〜!?」
 後の方から有香が走ってくる。
「お、おう。おかえり」
「何があったの?」

「いや、ちょっと派手な訓練。な? ジート」
「そうだな。そんなとこだな……」
 あんな逃げ場のない訓練はごめんだけどな。

「もしかして、私邪魔しちゃった?」
「いや、そんなことねぇよ」
「そうそう、ありがとな。え〜と……」
「有香です。ユカ・サイトー」
「俺はジート・クリーク。よろしくな」
 初対面の有香にジートが挨拶をする。

「それにしても危ない訓練してるわねぇ」
 有香から少し遅れてエリスがやってくる。 
「まぁな。おけぇり、楽しかったか?」
「まぁ、それなりにね……」
「お、エリスじゃねぇか。おっす」
 エリスのことは知っていたようだ。ジートが軽く挨拶。

「おい、コリン。ありゃ危ねぇぞ、死ぬとこだった」
「……は、はぁ」
 何が起きたのか分かってないような表情でコリンは答える。
「今日の訓練はこれで終わりにすっか。
 ジートもコリンも寄ってけ、昼飯にしようぜ?」
「そうだな。久々にレナにご馳走になるか……」
 俺とジートは家に向かって歩き出した。
 そしてエリス、有香、コリンは俺達に続いた。



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