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 食事もいつものところ……宿屋だ。
 雄二君が適当にメニューを注文してくれていたようだ。
 代金は要らないといわれた。

第125話 女2人の珍道中2 <<有香>>


 食事まで用意してくれたのは確かに嬉しい。
 わざわざ一人で私達の仲直り記念を設定してくれたのも感激だ。
 だけど……

「多すぎよ!!」
 テーブルに盛られた料理の数々。
「しかもなんで飲み物がこんなにあるのよ!!」
 エリスの突っ込みの通り、飲み物が大量にあった。
「仕方ないよ。雄二君料理名じゃ分かんないんだから……」
「そうだけどねぇ、店員に聞くとかそういう配慮はないの!?」
 雄二君は本当に適当に注文していた。

「ま、まぁ、食べれる分だけ食べようよ」
「そうね。作ってくれた人には悪いけど……」
 全部食べたら太ること請け合いだ。
 食べる前からその量に萎縮してしまう一種の挑戦だった。
「「 いただきます…… 」」
 二人で顔を青くしながらスタートの合図を切るのであった……。

「あ、これけっこうおいしい」
 私が口にしたのはただの野菜炒めなのだが味がよい。
「ふ〜ん、どれどれ」
 エリスが私の皿からひょいっとつまんでいく。
「へぇ、ユカってこんなの好きなの?」
「おいしくない?」
「私はこういうのの方が好きだけどね」
 そう言って何かのフライを食べる。

「ちょっとちょうだい」
「ん」
 エリスの差し出した皿からフライを貰って口に運ぶ。
「…………」
「どう? 美味しいでしょ?」
 凄い期待の目で見てる……。

 確かに美味しいとは思うんだけどさっきの野菜炒めほどではない。
「うん、美味しい」
「あのね。もうちょっと表情に出さない努力したら?」
「え?」
「難しい顔して……さっきのそれのほうが美味しかったんでしょ?」
 エリスがフォーク状の食器でさっきの野菜炒めを指す。
「う、うん。ごめん……」
「いいわよ。ユカはこっちの人間じゃないんでしょ? 仕方ないわよ」
 それからもお喋りをしながら少しずつ食べていった。


「こ、これ以上は無理」
「私も限界……」
 半分も食べることなく、ほとんど残してしまった。
 食べられる限界まで食べてはみたものの、減らない食事に食欲が失せてしまう。

「ユカ、早く部屋に戻りましょ」
「う、うん」
 周囲の視線を気にしながら部屋に撤退する。


「もう動きたくない……」
 ベッドに仰向けで倒れこむエリス。実に苦しそうだ。
 私も正直、ちょっと苦しい。
「でもお風呂に入らないと……」
 今日は一日動き回ったから汗をかいている。
 それ以前に女の子との嗜みとして常に清潔にしておくべきだ。

「うぅ……ちょっと休ませて」
「もう、そんなになるまで食べなきゃいいのに……」
 どうやら限界ギリギリまでエリスは食べていたようだ。
 量的には私とそんなに変わらないがエリスには無理があったようだ。
「私はただ……ユージの好意に報いてやりたかっただけよ」
「そりゃ私もそう思うけど……」
 それでもエリスは頑張りすぎだと思う。

「アイツが何を思ってこんなことしたのかは分からないけどね。
私がみんなにどれだけ迷惑をかけたのかは分かってるつもりだわ」

 それは私の責任だ。あのとき私はエリスの冗談を流せなかった。
 焦っていたのだと思う。雄二君との関係をどうしたら元に戻せるか……。

 あの件以来、どうしても雄二君との間に違和感を感じていた。
 何か微妙な距離が開いたような気がしていた。
 そして、雄二君を守るという使命に固執しすぎていたのだと思う。
 
 しかし焦りを感じていたのも違和感を感じていたのも私だけだった。
(私は結局、独り相撲をしてただけなのよね……)

「だから……アイツが遊んでこいって言うなら精一杯遊んでやるわよ」
 エリスの真剣な表情。喧嘩をしていたときと同じような……。
「うぅ〜」
 それは一瞬で崩れ、また寝そべってしまう。
(そうね。それが何より雄二君への償いになる……)
「じゃあ精一杯遊んであげようね」
「明日もね」
 エリスをニッと笑ってこっちを見ていた私も同じ表情をしているだろう。

「でもお風呂は入らないとダメよ?」
「分かってるわよ。あとちょっと休憩」
 窓から夜空を見上げれば、あのとき雄二君と見た綺麗な月。
 
「ねぇ、ユカ……」
 しばらくしてエリスが私を呼んだ。
「なに?」
「……私もチキュウに行ける?」
「え……」
 分からない。レナさんに直接聞いたほうが早いよ……。

「私はいろんな世界を見てみたい。チキュウだって見てみたいわよ」
 確か……エリスは文字通りの箱入り娘。
 ようやく自由になれたのだ。他の世界を見たいのは当然のこと。

「私からはなんとも言えない。ただこれだけは言えるわ」
 そう、私はこれだけは自信を持って言える。




「貴女とレナさんが地球に来たとき、私達は盛大に歓迎するわ」


 それだけは間違いない。私はもちろん、雄二君も智樹君だって……。
「……ありがと」
 エリスが聞き取りにくいほどの小さな声で呟いたが、私の耳は聞き取ってしまった。
「何か言った?」
「別に……なんでもないわよ」
「そう」
 私は聞こえなかった振りをした。その方がいいような気がしたから。

「さぁて、お腹も落ち着いてきたしお風呂いこっか?」
「うん」
 さっさと部屋を出て行くエリス。しかし私は見てしまった。

 エリスの顔が赤くなっていたことを……。



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