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 さて、くだらん決闘もどきも無事に終わったし。
 わけのわからん結婚騒ぎも何の問題も無く解決したし。
 ここに来た本来の目的を果たさなきゃな。

第124話 時間の使い方 <<雄二>>


 部屋にこもって机に向かう。目の前には複数の問題集。
 そう、俺はこの世界に宿題をやるために来たと言っても過言ではない。

「そういうことには頭が回るんだね……」
 智樹は部屋に入ってくるなり俺の姿を見て呆れたように言った。
「いきなりだな。せっかくの貴重な時間だぞ? 使わねぇと損じゃねぇか」
 何もやることの無い時間。そして地球では経過してない時間だ。
 宿題をやれと神も仰ることだろう。神なんか信じてねぇけど。

「それもそうだね」
 そう言って窓際に座る。
「ん? それ何の本だよ?」
 智樹は数冊の本を持ってきていた。
「リオラートの本だよ。レナさんに借りたんだ」
「勉強熱心だな」
 こっちの世界のことも勉強するなんざ俺にはできんね。

「ただの童話だよ」
 童話かよ……。
「んなもん読んでどうすんだよ?」
「別に。ただの暇潰しだしね」
 本から眼を離さずに言う。

「だったら俺の宿題手伝おうぜ」
「遠慮するよ。自分のことは自分でやらなきゃね」
「ちっ」
 頼もしい援護者を口説くことはできなかった。
 仕方なくカリカリと問題を解いていく。
(こんなもん大人になっても使うわけねぇのになぁ……)
 平方根も乗数も実社会では使わねぇだろ?
 XやらYやら実際は数字分かってんだからよ。
 微分? 積分? そういうのは大学でやれよ……。
 加算乗除知ってりゃいいじゃねぇかよ。
 そんなことを考えても口に出しても無駄なのだが、どうしても思ってしまう。

「こんにちは〜!!」
 外から誰かの声が聞こえる。

「あの声……コリンって人じゃない?」
「ふ〜ん」
 そんなもんどうでもいい。こっちは宿題を片付けるのが最優先事項だ。
「ふ〜ん、って……でないの?」
「智樹、俺に用事だったらいないって言っといてくれ」
 居留守を使うことにして宿題に取り掛かる。
「わかった」
 智樹と口で争うのは無謀だ。
 智樹なら俺の居留守の言い訳ぐらい難なくこなすだろう。
 再び宿題に取り掛かる。


「雄二。……お客さん」
「と、智樹……」
 1分後には扉の前に苦笑いの智樹と冷めた表情のコリンの姿があった。

「ユージ・フジキ。アンタバカでしょ?」
「なんだよいきなり?」
 入ってくるなりバカ呼ばわりされてムカついた。
「あれからそんなに時間経ってないのに普通居留守を使う?」
「そういうこと。全部ばれてたみたいだよ?」
「…………」
 こっそり携帯を見ると1時間ほどしか経過していなかった。
 
「うるせぇな。なんか用かよ? こう見えて今けっこう忙しいんだぞ」
 宿題はまだまだある。ちょっとでも処分しておきたい。
「別にちょっと様子を見に来ただけよ」
「様子ってお前なぁ……。ついさっき会っただろうが」
 それともなにか? コイツは1時間毎に様子を見に来るつもりか?

「う〜ん。どう見ても信じられないわ」
「なにがだよ?」
 いきなり信じられないとか言われても困る。
「アンタでしょ? クェード城に乗り込んで女王様に直談判した奴って」
「……ああ、そりゃ俺だ。なんで知ってんだ?」
「何言ってんのよ。学院じゃもうその話題でもちきりよ?」
 どうやら俺は相当凄いことをやっていたようだ。
「学院って?」
「クェード王国国立魔術学院よ。知らないの?」
 知るか、そんなもん。
「あ、コリンさんって学院の生徒なんだ?」
「そうよ」
 智樹はそのなんたら学院の存在を知っていたらしい。
 俺なんか聞いたこともねぇってのに……。

「学院でけっこう騒がれたものだから、どんな奴か見てみたら……ねぇ?」
「悪かったな。こんな奴で」
 俺は自分のやりたいことをやっただけだ。他人の評価なんぞどうでもいい。

「しかも私に勝っちゃうし、アンタ何者?」
「別に。ただの人間に決まってんだろ?」
「僕達はただの旅人だよ。事情があってこの村に住むことになったけどね」
 智樹はあらかじめ答えを用意してあったかのように話す。
 既に言われた場合の対応を考えてあったようだ。

「ふ〜ん。旅人ねぇ。それにしては強すぎない?」
「強いのは雄二だけだよ。僕なんてコリンさんの魔法くらったら死んじゃうよ」
 俺もくらったら死ぬっつうの……。
「ま、ありゃ確かにすげぇわな」
 火だすわ、雷だすわで危うく殺されるところだった。

「まぁ、今回は助かったわ。あんたと結婚なんて絶対に嫌だったからね」
「そうか? 俺は別によかったけどな」
 どうでも、と心の中で付け足す。
 どうせ俺の出身地がばれたら結婚はご破算になるからな……。

「…………」
「ん、どうした?」
「……帰る」
「おう、んじゃまたな」
 コリンが部屋を出て行ったので再び宿題に取り掛かる。

「なぁ、智樹。これどうやって解くんだよ?」
「…………はぁ、厄介なことになってきたなぁ」
 なぜか智樹はため息をついていた。
「ん? なにが?」
「なんでもないよ。で、どの問題?」
「おう、この問4だ」
 智樹に教えてもらって問題を解き始めた。

ドォォォン!!

 難しい問題に頭を悩ませていると、どこかでとてつもない爆発音が聞こえた。
「なんだぁ?」
「……コリンさん」
「あ? ありゃコリンがやってんのか?」
「この村であんな爆発おこせる人は他にいないと思うけど?」
 そりゃそうだ。シア村にあんな爆発音を出せるのはアイツくらいのもんだ。

「村が半壊してもおかしくねぇな」
「全壊しても納得がいきそうで怖いよ」
「確かに……」
 復讐心に燃えて闇討ちでもされなきゃいいんだが……。
 俺はぞくっと寒気を感じた。

「どうしたの雄二?」
「なんでもねぇ、続きだ続き」
「はいはい」
 今の俺はコリンの復讐の気配に注意しながら宿題をやるしかない……。



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