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 ユージの奴……なんでユカと旅に出なきゃなんないのよ。
 仲直りは終わってるし、話すこともない。
 別にユカが嫌いなわけじゃないけど、気まずいじゃない。

第123話 女2人の珍道中1 <<エリス>>


「ったく、なんで忘れ物なんかするのよ!?」
 文句の一つや二つ言いたくもなる。
 ジタルへの道をユカと歩きながら、ここにいないユージに文句を言った。

「この程度で済んで良かったと思ったほうがいいわよ」
 律儀に独り言の文句にも対応してくるユカ。

「普段ならたぶんもっと酷い罰になってると思うから」
「どういうことよ?」
「私達のやったことってパーティの輪を乱す行為でしょ?」
 まぁ、そういえばそうね……。
 それに、あのまま戦ってたらどうなるか分からなかったし  どっちかが大怪我してただろうし。

「雄二君ってそういうの許さないと思うの」
「まぁ、アイツって妙なことに拘ったりするからね」
 短い付き合いでも少々なら理解できるほど表に出ている性格だ。
「あの時、雄二君は本当に私達を倒すことだってできたんじゃないかな?」
 晃斥で斥力を働かせていた私を?
 ふん、無理に決まってるじゃない。

 たとえ超高速で動けたとしても攻撃は私に届かない。
 私が斥力を解かない限りユージに攻撃手段はない。
「私達が対峙してたとき雄二君なら1秒以内で二人とも気絶させることができる……」
「そこまで速いのアイツ?」
「本気を出したらね」
 いつも適当にやっているがとんでもない力を持っている。

「もしかしたら智樹君はそこまで考えて私達の仲裁をしたのかもね」
「…………」
 もしそうだとしたらトモキだけじゃなくユージも侮れない。
 絶対に敵には回したくない相手だ。

「考えすぎじゃない? ユージってそこまでやる?」
「やるわよ。本気で怒ってたらね」
「……随分ユージのこと解ってるみたいね。付き合い長いの?」
「ううん。まだ知り合って2年も経ってないわ」
 それにしては自信のある言い方だった。
 トモキは、ユージを守るためにユカはここにいると言っていたし……。

「あぁ、そういうことね……」
「な、なによ?」
 納得。ユカがここにいる理由はユージの為だけだということが分かった。

「もういいわ。分かったから」
「ちょ、エリス。何が分かったのよ!?」
「さぁ?」
 食い下がるユカを尻目にジタルを目指して走り出した。
「待ちなさい!!」
 しばらく鬼ごっこと洒落込む私達であった。


「はぁ、はぁ、さぁエリス……何が分かったのかな?」
 しかし、私はあっさり捕まってしまうのであった。
 もともと体力の差が違いすぎた。どうやら分の悪い勝負だったようだ。
「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……」
 喋れる状態じゃない。呼吸をするのに精一杯だ。
「ユカって、そんなに知られると困ることがあるの?」
「……な、無いわよ」
 語尾が上がって疑問形のように聞こえた。
 動揺が手に取るように見える。

「ユカって仲間想いなんだなぁって……思っただけよ」
「そ、そう?」
 これは面白いことを知った。しばらくユカで遊べそうだ。

「早く行くわよ。早くこの罰を済ませたいからね」
「そうね。急ぎましょ」
 疲れてしまったのでとぼとぼとジタルへの道のりを歩き出した。


「宿屋ってこの前の?」
「うん、私達がジタルで泊まる時はいつもそこって決まってるらしいの」
 ジタルに着いた私達はさっそく用事を済ませようと宿屋に向かった。

「ねぇ、ユージはいつペンダントを忘れたの?」
「いつって……」
 だっておかしいじゃない。
 ユカと買い物に行ったときは日帰りだったのに宿に忘れたなんて……。

「私、あのとき雄二君と宿屋なんて行ってない……」
「その時点で既におかしいわよね?」
 ジタルに着いてからこの違和感に気付いた。
 家にいるときもっと冷静に考えていたら、と思うと情けなくなってくる。

「じゃあ、なんで雄二君はあんなことを……」
「さぁ? 行ってみれば分かるんじゃない?」
 あの男は一体なにを考えているのだろうか……。
 それは宿屋に行けば分かることだ。

「こんにちは」
「おっ、来た来た。ユージからの預かりもんだ」
 ユカの挨拶に気付いた宿屋の親父さんはペンダントと一枚の紙を取り出した。

「手紙?」
 ペンダントのことは聞いていたが手紙の事は聞いてない。
 紙を開いて、中身を見てみた。

「……ユカ。私達やっぱり担がれたみたいね」
 あの嘘つき男め……。やってくれるわ……。
「そういうこと……。雄二君らしいわ」
 ユカも妙に納得していた。
 紙に書いてあった内容はいたって単純な一文。

仲直り記念に一日遊んでこい by ユージ

「部屋はいつものところだ。あとこれな」
 そう言って親父さんは100リーム金貨を3枚カウンターに置いた。

「本っ当にわけ分かんない奴よね。アイツって」
 しかも詰めが甘い。途中で気付かれるようでは作戦としては落第点だ。
「でも、どうせならお言葉に甘えようか?」
「そうね。いまさらキャンセルも悪いし……」
 それにせっかく作ってくれた機会だ。乗ってあげるわよ……。

 私は300リームを掴んで言い放った。
「それじゃ、このお金で遊びましょっか!!」
「うん、そうだね!!」
 私も乗った。ユカも乗った。
(今回はアンタのつまらない小細工に乗せられてあげるわ)
 街に繰り出す私とユカの仲はまったくこじれていなかった。


「で、どこに遊ぶところがあるの?」
「え? わ、私に聞かれても……」
 私はこの街の地理をまったく知らないのである。
「ユカは何回か来たことあるんでしょ?」
「でも私って地球から来てるからこっちの世界の娯楽って知らないのよ……」
 そういえばそうだった。
 そのことをすっかり忘れそうになるほどユカやトモキ達の振る舞いは自然だった。

「クェードだと賭博場とかあるんだけど……」
「エリスって普段そんなことしてるの!?」
「言ってみただけよ」
 本当はちょっと行ったことがあるのだが……。
(ま、黙ってればばれないわよね)

「そうだ!! エリス、服買いに行かない?」
「ユカって服買ったんじゃなかったっけ?」
「私のじゃなくてエリスのよ」
 え、私の服?

「お姫様なんだからもうちょっと服に気を遣わないとね」
「いいわよ別に。シア村から出ないし……」
 いつも同じ人間としか顔を合わせないのでは着飾る意味も無い。
「じゃあ見るだけでもいいから。ね?」
「まぁ、見るだけなら……」
 見るだけ見て、冷やかして帰ろう。

「じゃあさっそく行きましょ」
 ユカに手を引かれるまま私は服屋へと向かうのであった。


「うん、似合う似合う」
「本当に似合ってる?」
 私が着せられたのは白の上下一体になった形の服だ。

「エリスってワンピース型の服似合うよね!!」
「ワンピース?」
「うん、私達の世界では上下一体になった服のことをそう言うの」
「へぇ、ワンピースねぇ…」
 地球の知識をまた1つ手に入れた。使うことはないと思うけど……。

「これ、買っちゃわない?」
「いいわよ別に。欲しくないし」
「雄二君達をびっくりさせてあげましょ」
 驚くかなぁ? たかが服ごときで……。

「まぁ、ユカがどうしてもって言うなら」
「どうしても!!」
「…………」
 結局、この一言でワンピースという服を購入する運びとなった……。



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