いきなり決闘を申し込まれた俺。 相手はジートの娘であり、お互い未承諾の婚約者コリン。 何故こんなことになってしまったのかというと…… 「おい、ジートどういうことだ!?」 「どうだ? 俺の娘と結婚しないか?」 今、言うか!? 人生の重要な決定事項を今言うか!? 「断る!! いきなり言われて「はい、結婚します」と言えるか!!」 「あたしも嫌よ!! まだ結婚なんてする気ないんだから!!」 よし、意見があった。これでこの話はご破産だ。 「俺もコイツも結婚する気ねぇってよ。これで話はお流れだな」 「コリン。なんで嫌なんだ? ユージは村の英雄だぞ?」 無視ッスか? スルーですか? ジートは俺の言い分など見向きもせずにコリンの説得にかかっていた。 「英雄でも何でも嫌なものは嫌なの!!」 頑なに拒否の姿勢をとるコリン。頑張れコリン。それいけコリン。 俺は完全にコリン派に回った。応援するぞ!! この話をぶっ壊せ。 「あたしがなんで帰ってきたか教えてあげようか? このふざけた手紙に抗議する為よ!!」 ジートに便箋を投げつける。 「なにが、結婚相手が見つかったぞ。よ!! 大きなお世話よ!!」 もう、なんか……既に俺の出る幕はないな。 話の内容から察するにジートが勝手に俺をコリンに紹介していたようだ。 しかも結婚相手として。 軽くジートに殺意が芽生えたが、今のコリンには敵わない。 「じゃあなんで帰ってきたんだ? 無視すりゃいいじゃねぇか」 「……長期休暇だったからよ」 ヤバイ。ジートの一言によって攻勢だった勢いが消えた。 「長期休暇ねぇ。今まで一度も帰ってきたことねぇのになぁ」 「…………」 「お前も会いたかったんだろ? 興味あったんだろ?」 敗色濃厚だ。俺が援護せねばなるまい。 「俺の面を見ることなんか抗議のついでだろ」 「そ、そうよ!! ついでに見てやろうと思っただけよ!!」 反撃の機会を与えてみた。これで復活するといいが。 「ちっ」 ジートが舌打ちをして俺を睨んだ。知るか。俺はコリン側だ。 「二度とこんな手紙送ってこないように直接言いに来ただけ!!」 「そうそう、結婚なんか親が決めるもんじゃねぇって」 「そうよ!!」 さらに援護射撃を撃つ。 「いや、コリンの結婚は俺が決める。ユージに決定だ」 「俺の意思を無視して勝手に決めんな!!」 コイツ完璧に親バカだ。 「腕っ節も強いし、ルックスもまぁまぁだ。文句ねぇだろ?」 「だから俺の話を聞け!!」 無視ぶっちぎりで暴走するジートに俺の声は届かない。 「ちょっと待って。お父さん、確か言ってたよね?」 「あ? なにをだ?」 「あたしの結婚相手は強いやつじゃないとダメなのよね?」 「おう、ユージなら問題ないぞ」 「本当に? 私よりも?」 「当たり前じゃねぇか」 あ、コリンの考えが分かってきた。 「つまり、あたしがコイツに勝てば、当然、結婚は無しよね?」 「…………」 俺がコイツと戦う振りして八百長すればいいってことだ。 「そうだな。コリンに勝てんような奴じゃダメだ」 ジートのセリフを聞いたコリンは俺の方を向いて静かに言った。 「そういうことよ……。ユージ・フジキ、貴方に決闘を申し込むわ!!」 「おう、了解だ!!」 あとは適当に闘って負けりゃ、一件落着だ。 〜〜 回想終わり 〜〜 「と、まぁそういうことがあったわけよ」 「……有香さんがいなくて良かった」 「なんでだよ?」 有香がいようがじゃじゃ馬がいようが関係ねぇだろ? 「別に」 「それにしても雄二。よく、こう立て続けに厄介事を持ってこれるね?」 「それは嫌味か?」 「嫌味くらい言わせてよ」 智樹はため息をつきながら俺の隣を歩く。 「俺はな、持ってきたくて持ってきたことは一度もないぞ」 全部向こうからやってくるだけだ。それを避けられないだけだ。 「帰ったら厄払いでも行ってきたら?」 「……考えとく」 一瞬本気で行こうかと思ってしまった。 「よく来たわね!! 勝負よ。ユージ・フジキ!!」 「おう、ユージ。コリンにお前の実力見せてやれ」 見せてやるとも見事な負けっぷりを。 「じゃ、雄二、怪我しない程度に頑張って」 「任せとけって」 俺はコリンと対峙した。睨み合う二人、空気だけは本物のようだ。 「アンタを倒して結婚の話を消滅させてやるわ」 「おう、早く俺を倒せ。俺も同意見だ」 決闘が始まる前のこの時点で俺の八百長が決定している。 「はじめっ!!」 ジートの合図と共にコリンが距離をとる。 「<<集え、火の精霊よ。地獄の業火となりて敵を焼き尽くせ>>」 「げっ」 コリンのかざした両手に膨大な炎が出現する。 「<<ヘルフレイム!!>>」 「ちょっと待て!! 風華!!」 風華を呼び出して全力で炎の範囲からに逃れる。 「こ、殺す気か!?」 くらったら死んでるっつうの!! その証拠に俺の立っていた位置の草は炭と化し、土が真っ黒になっていた。 「当然よ。あたしの為に死んでちょうだい。<<ファイアボール!!>>」 今度は詠唱無しで無数の火の玉が飛んでくる。 「ちょ、ちょ、ちょっと待てって!!」 左右に移動しながら火の玉の直撃を避けていく。 こ、このアマ、マジで俺を殺る気かよ……。 「ちぃっ、ちょろちょろと……」 「落ち着け!! 話を聞けって!!」 「<<集え、風の精霊よ。愚かなる者に審判という名の雷を>>」 くそっ、既に詠唱が終わっている!! 魔法が来る!! 「<<ライトニングボルト!!!>>」 うっわ!! 光の束が俺のほうに向かってくる。 『くらったら死んじゃうわよ?』 (仕方ないわな……) 俺は疾風で滑るように走った。 「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」 「だからちょっと待てって言ってんだろ?」 「!!? い、いつの間に」 俺はコリンの背後に回ってコリンの肩をポンッと叩いたのである。 もう片方の手でコリンの背中に風華の刃を当てる。 「勝負あり!! ユージの勝ちだ!!」 こうして勝負は俺の勝ちで終わった。 「いやぁ、危なかった……」 「勝ってどうするんだよ!!!」 智樹が凄い勢いで俺に迫ってくる。 「アレをくらえってのかよ!?」 死ぬっつうの!! マジで逝っちまうっつうの!! 「でも勝つことはないでしょ!?」 ……そりゃ勢いって奴だ。思わずやっちまったんだよ。 背中がら空きだもんよ。 「…………」 じっと俺を睨むコリン。 「…………」 やっちまった俺。 「ちょっとアンタ。なに勝ってんのよ!?」 「仕方ねぇだろ!? お前、もっと手を抜けよ!!」 ジートに聞こえないように小声で口喧嘩をする。 「だいたいなぁ、アレはねぇだろ!? 殺る気満々じゃねぇか!!」 「……かすって倒れるくらいの演出はしなさいよ!!」 地面が焦げるほどの業火。かすっただけで全身麻痺確定の雷。 かすっても命がやばい魔法ばかりじゃねぇか……。 「おい、ジート。俺、コイツ嫌いだ。結婚する気まったく無し」 「ダメだ。もう決まったんだからな」 「……お前の身がどうなっても構わないんだな? コリン、コイツ殺っちまった方が早いぞ」 「そういえばそうね」 「…………」 ジートが真っ青になって後じさりをする。 「お前が決めたことだからなぁ、仕方ない。死んでくれジート」 「落ち着けユージ。な? コリンも落ち着け」 「「 問答無用!!! 」」 この後、ジートがどうなったかは……俺の口からは言えねぇ。 |