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 有香さんなら自分の力だけで理解することができる。
 エリスのほうは僕が少々助力して怒りを静めさせた。
 これで万事解決、になればいいのだけど……。

第121話 両成敗 <<智樹>>


 しばらくエリスと地球の話をしていた。その途中で雄二が帰ってきた。
 何も言わずに部屋へ入っていったので少々気になった。
 雄二とも少し話をしなければいけないのかもしれない。
「エリス、ごめん。ちょっと雄二と話をしてくるよ」
「え〜、せっかく盛り上がってきたところなのに……」
 エリスは不満気だが気になるものは仕方ない。

「埋め合わせはするからさ」
「絶対よ?」
「うん」
 エリス達の部屋を後にした僕は隣にある僕達の部屋へ入る。

「雄二?」
「智樹か……」
 暗い。有香さんに怒鳴られたとき並に雄二の表情は暗かった。

「エリス達のこと、まだ気にしてるの?」
「いや、そっちはもう済んでるんだけどな。別の問題が発生したんだよ」
 別の問題? これといって問題は起きてないようだけど……。
 僕達は誰もいざこざを起こしていない。

「そんなに気にすんな。たいしたこっちゃねぇよ」
「……まぁ、雄二がそう言うならいいけどね」
 やはり、と言えばいいのか、雄二には厄介事が常に付きまとうようだ。

「ところで有香達は大丈夫か?」
「そっちのほうはたぶん大丈夫。明日には仲直りできてるよ」
「そうじゃねぇと困る」
 僕も困るよ。あれだけエリスを説得したのに……。

「晩飯は食えそうにねぇなぁ」
「エリスが作ってくれないかな?」
「大丈夫かよ?」
 普通の場所なら料理できるようなこと言ってたし、大丈夫じゃないかな?

「レナの家には行きにくいよな。じゃじゃ馬と一緒になっちまう」
 確かにレナさんの家にご飯を食べに行くのではエリスと同じだ。
 さすがに僕もそれは避けておきたいところだ。
「僕らが作れないんだからエリスに頼むしかないよ」
「そうなんだけどな」
 どうも雄二はエリスに頼むことを渋っているようだった。

「エリスに頼むことになんか問題でもあるの?」
「別に問題はねぇけど……」
 嘘をついているのが見え見えだった。
「雄二。嘘つくのに向いてないんだから無理はしないほうがいいよ?」
「……分かった。降参だ」
 両手を挙げてお手上げの意思を示す。

「エリスも有香も今日一日だけは放っておいてやりてぇだけだ」
「…………」
「お前なら意味が分かるだろ?」
 有香さんと喧嘩した雄二の時と一緒だ。考える時間を与えたいのだろう。
 僕は頷いた。

「今日だけでいい。放っておいてやってくれ」
 雄二はまったくふざけていない。真剣な表情だ。
「OK。外に食べに行こう」
 真剣なときの雄二は独自の考えがある。
 その考えは僕の予想をはるかに上回るほど理想的なものが多い。
 シア村には酒場もある。そこで食べればいいだろう。

「悪い。ちょっと策があるんでな」
 もう何も言わなくてもいいよ……全部雄二に任せるよ。
 僕達はこっそりと家を出て酒場で夕食を食べることとなった。


 夕食を食べ終わった僕達はすぐに寝ることにした。
「なぁ、お前結婚とか考えたことあるか?」
 ベッドで横になっていると、雄二が突然聞いてきた。
「結婚? なんでまた……」
 考えたことはあるけど具体的なものではない。
「ま、ただの雑談だ。修学旅行みたいな雰囲気だろ?」
 そういわれれば確かにそんな気もする。

「結婚かぁ、考えるってどんな風に?」
 する気の有無。結婚後の話など、結婚と一口でいっても話題の方向性がある。
「ん〜、結婚とかしたいか?」
「したい、とは思うけどね」
 遠い将来、僕だって結婚することになるかもしれない。

「んじゃ今すぐ誰かと結婚しろって言われたらどうするよ?」
「無理だよ。生活力がないからね」
「やっぱりそう思うよなぁ」
 雄二はなにを思って結婚なんていう話題を僕に振ったのだろうか。

「雄二はどうなの?」
「俺? 結婚ねぇ……」
 そう言ったっきり黙り込んでしまった。
 そして2分ほど考えてポツリと呟いた。
「俺が家庭を持つなんて考えられねぇなぁ」
 そりゃ僕も同感だ。高校2年の現在では、そんなこと想像すらできない。

「…………」
「…………」
 それっきり会話は途絶え、僕はいつの間にか眠ってしまった。


 翌朝、雄二を除いた全員がリビングに集合した。
 雄二はまだ寝ていて、どうやら夜更かしをしたようだ。
「おはよう」
 
「おはようトモキ」
「おはようございます。トモキさん」
「おはよう、智樹君」
 三人の様子は気まずさなどまったく無く、自然そのものだった。

「二人とも仲直りできたみたいだね」
「まぁね」
「うん、私が悪かったから……」
 有香さんが俯いて、はにかんだ。
 どんな会話があって仲直りしたのか分からないけど良かった……。
 
「トモキさん朝御飯です」
「ありがとう」
 レナさんから朝食の皿を受け取ると席についた。

「うん、おいしいよ」
「それ作ったの私なんだけど?」
 レナさんに朝食の感想を言ったのだが……ケアレスミスだ。
 エリスの冷たい視線が僕に突き刺さっているのが分かる。

「おはようさん」
「雄二、おはよう」
 それぞれ雄二に挨拶をする。

「お、仲直りできたか?」
「うん、迷惑かけちゃってごめんね」
 有香さんが謝る。
「ああ、気にすんな。二人には罰があるから」
「罰?」
 雄二は罰を用意していたらしい。

「罰っていうより頼みなんだけどな。ジタルに忘れ物してきちまったんだ」
「……それを取って来いと?」
 エリスがジト目で雄二を見ている。
「宿に忘れてると思うから取ってきてくれ」
「自分で行きなさいよ」
「俺は今日ちょっと用事があるんだよ」
「用事?」
 雄二に用事があるなんて思えない。しかし嘘をついているようにも見えない。

「喧嘩両成敗だ。二人で取って来てくれ」
「分かったわ」
「ちょっとユカ!?」
 あっさりと雄二の頼みを聞き入れた有香さんにエリスが驚く。

「迷惑かけちゃったから……行ってこよ?」
「……分かったわよ」
 渋々エリスも承諾する。
「あ、ちなみに忘れもんはクリスタルのペンダントだ」
 あれ? あのペンダントって喧嘩してたときにもつけてなかったっけ?
 今の雄二の首にペンダントはかかっていない。
 僕の気のせいか?

「じゃ、頼むわ」
 そういうことになった。


 エリス達がシア村を出るのを見送りながら雄二に疑問をぶつけてみた。
「ペンダントってつけてなかった?」
「……お前、よく見てるなぁ」
 雄二が僕を見て、驚いた表情を見せる。

「喧嘩の件を任せたときに置きに行ってきた」
「なんでまた?」
「一日、腹割って話してもらおうと思ってな。宿代も払ってあるぞ」
 雄二なりの気遣いってわけか……。
 雄二らしい突飛な考えだ。

「んじゃ、ちょっと行ってくる」
「行ってくるって……どこへ?」
「決闘」
 そう言って雄二は村の中に入っていった。



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