次の話に進む→

←前の話に戻る

トップページに戻る

小説のページに戻る


 トモキさんから伝言を預かって自分の家に帰ってきた私。
 しかし、ユカさんはリビングでに俯いて座っている。
 話しかけ辛いこの状況で、私はトモキさんの言葉を伝える……。

第120話 伝える言葉と魔道士 <<レナ>>


 私とユカさんしかいない空間。
 私が淹れたお茶はユカさんの前で湯気を失いかけている。
 だけど私が何かを言える雰囲気じゃない……。
(こ、声がかけ辛いですよ。トモキさん……)
 こんな役回りが自分に回ってくるとは思いもしなかった。

「あ、あのユカさん」
「…………」
 ダメだ。普通に声をかけた程度では反応してくれない。

「ユカさん」
「なんですか……?」
 沈んだ声で聞き返してくる。
「大丈夫ですか?」
 トモキさんの伝言を伝えづらくてこんなことを言ってしまう。
「大丈夫です。少し頭に血がのぼっちゃっただけですから」
 大丈夫なわけがないじゃないですか……そんなつらそうな顔をして。

「今日はここに泊まってください。ゆっくり考えればいい考えも浮かびますよ」
「ありがとう、レナさん」
 とぼとぼと客間に向かって歩いていく。
 お茶は放置されてその場に残された。

「……参りましたねぇ。美空」
『困難なこと言ってくれるわね。トモキくんも』
(まったくです)
 冷めてしまったお茶を飲む。
『でも、たぶん言ってあげるべき言葉よ?』
(それは分かってるんですけど……)
 トモキさんの伝言の意味は私にはよく分からない。
 しかし、伝えるべきことだという重みがあるということは感じられた。

『言いに行きなさい。レナは頼まれたのよ?』
「そうですね。すみません、無駄な相談してしまって……」
『気にしなくていいわ。私とレナは2人で1つなんですから』
「いってきます。美空」
『頑張って、レナ』
 そう言い残して美空は消えた。

「すぅ〜、……はぁ〜」
 客間のドアの前で深呼吸をする。
「よし、いきます」

コンコン

「ユカさん。いいですか?」
「……どうぞ」
 静かにゆっくりと扉を開けていく。
 ユカさんは頬杖をついて窓から外を眺めていた。

「あの、トモキさんから伝言です」
「智樹君が?」
「はい、『あのことならユージは気にしてないよ。戸惑うのは分かるけどね』だそうです」
 この意味は私にはさっぱり分からない。
 あのこと、とは一体どのことを指すのか?
 そしてユカさんは戸惑っていたのだろうか?
 
「……ありがとう」
「では、私は失礼しますね」
 やってみれば簡単な仕事だった。
 しかし、その言葉がユカさんの心にどれだけの影響を与えるのか。
 それすらも分からないまま、私はただ言葉を伝えるのみだ。
「本当に大丈夫なんでしょうか……?」
 それでも私は信じるしかない。楽しい時が戻ってくることを……



そのころ雄二は <<雄二>>

 俺はジタルにちょっとした用事ができたので風華を使って行ってきた。
 その帰り、ローブを纏っててくてく歩く女を見つけた。
 見たところ俺と同い年、もしくは1つか2つ下くらいだろうか。

 この先は田舎だ。シア村の向こうにも村が数箇所あるらしいがそこへ行くのだろうか。
「どこまで行くんだ? 送ってやろうか?」
 風華を消して、その女に声をかけてみた。
 この田舎道で人に会うのはかなり珍しかったからだ。

「結構よ」
 その女は冷たく俺をあしらうと、またてくてくと歩き始めた。
なんだよ。コイツ妙に自信ありげだな……。

「そう言うなって、途中まで一緒なんだからよ」
 せめてシア村までは護衛でもしてやろうと思っていた。
 女の一人歩きはこの世界では危険すぎる行為だと思ったからだ。
「アンタ……どこまで?」
「ん? シア村だけど」
 ようやく会話が成立したかと思えば女は俺をじっと睨んできた。
 睨んだ、というよりは凝視したと言えばいいだろうか。

「……あたしもシア村よ」
 シア村の村人にしてはコイツの姿を見たことが無い。
 まぁ、シア村にいる時間より旅をしてる時間が多いせいだろうか?
 しかし、コブリン騒動のときにも見たことが無いのはおかしい。

「アンタ誰よ? シア村の人間じゃないわよね? シア村に何の用?」
 いきなり質問尽くしだ。
「村人なんだけど……」
 一応、家もあるし立派な村人だといえるだろう。

「嘘をつかないで。あたしはアンタの姿を見たことが無いわ」
「俺もだ。初めまして、だな」
「……最近越してきたの?」
「まぁ、そんなとこだな」
 引越しした覚えも無いが、話を合わせておいたほうがいいだろう。

「ふ〜ん。いいわ、シア村まで一緒に行きましょ」
「おう」
 こうして俺は魔術師風の女と一緒にシア村へと歩き出した。


「すっかり変わっちゃったわね」
 女がシア村について最初に言ったセリフがこれだ。
「そうか? コブリンに襲われてっからかな?」
 その結果、村は壊滅的なダメージを受け、補修にもかなりの時間を要したらしい。

「ついてきて。お茶くらいご馳走してあげるわ」
(別に自分の家で飲めばいいんだがな……)
「おう、じゃお言葉に甘えさせてもらうか……」
 そうして女のあとをついて歩いていったのだが……。


「ただいま」
「おう、よく帰ったなコリン」
 なんて言えばいいのか……世の中狭いとでも言っておこうか?

「ん? ユージじゃねぇか。どうした?」
「……別に」
 シア村自警団団長のジートの家だったのだ。
「知り合いなの?」
「そりゃ同じ村にいりゃ知り合いにもなるだろ……」
 まさかコイツが知り合いの家に入っていくなんて予想できるかよ?

「ジートの娘か?」
「おう、俺の娘でコリンだ」
「……コリン・クリークよ」
 鳶が鷹を生む、という諺が頭に浮かんだ。
 俺はジートを部屋の隅に連れて行きコリンに聞こえないように小声で言った。
「ジート、どっかで拾ってきたのか?」
「アホ、正真正銘、俺の娘だ!!」
 ジートは正直美形というより冒険者。つまりおっさんだ。
(この娘はどうやら母親似のようだな……)
 俺はそう確信した。

「コリン。コイツがシア村の英雄のユージだ」
「英雄じゃねぇっつうの。ユージ・フジキだ、よろしくコリン」
「……アンタが?」
 なんかすげぇ見下された気がするんだが気のせいか?

「シア村のユージは俺だけだぞ」
 他にこんな変わった名前のリオラート人はいないだろう。
「信じらんない……こんな奴が」
「なんだよ? お前、俺のこと知ってんのか?」
 どうもさっきから俺のことを知っているような様子だ。
 俺ってそんなに有名になってんのか?

「ああ、俺が手紙に書いた」
「アンタかよ!!」
 なんか膨らんだ期待という名の風船を針で突かれた気分だ。

「コイツはシア村が緊急事態だってのに帰ってこねぇからな」
「学校が忙しいんだからしょうがないでしょ!?」
 学校ってなんスか?
「手紙は出しても返ってこねぇしよ」
「書くことなんてないんだから、しょうがないでしょ?」
 俺、放置ですか? 親子喧嘩始められても困るんですけど……。

「おい、ちょっと落ち着け」
 コリンの肩を掴んで喧嘩を一時中断させた。

「お父さん!! それに、あたしにこんな奴と結婚しろっての!?」
「はぁ!!?」
 俺はコリンのセリフにコリン以上の衝撃を受けた。

 なぜならコリンの示す指は間違いなく俺の鼻先に突き刺さっていたからだ……。



次の話に進む→

←前の話に戻る

トップページに戻る

小説のページに戻る

inserted by FC2 system