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 私は絶対に悪くない。悪いのはユカだ。
 ただの冗談を冗談で流さなかったユカが悪いんだ。
 だから……私は悪くない。

第119話 痛み <<エリス>>


 私は悪くない。そう思うのに気分は最悪だ。布団にもぐりこんで考え続ける。
 チキュウ、デンキ、テレビ。分からないことだらけ……。
 トモキの言ったことが本当だということはトモキの真剣さから理解できた。
 だけどその話の内容までを理解できていない私がいる。

「エリス、入るよ?」
 トモキだ。今は入ってきて欲しくない。
 そう願ってもトモキに届くはずもなく、そっと扉を開けて入ってくる。

「……子供じゃないんだから出てきなよ」
「うるさい」
 トモキに私の気持ちなんて分かるわけがない。
「イライラするのは分かるけど、あれはよくないよ」
「…………」
 トモキは私のわだかまりをしっかりと理解していた。

「トモキの能力って心を読むことなの?」
 神無というウェポンの能力なのかもしれない。
「違うよ。ただ、僕がエリスの立場だったら混乱するから……」
「混乱なんてしてないわよ」
「してるよ。普段のエリスなら有香さんを挑発したりしないよね?」
 そうかもしれない。いや、絶対そうだ。
 いつもならユカも軽く流していて、私も突っかかったりしなかった。

「もうそろそろ出てきたら?」
「ヤダ」
 布団は私にとって最後の砦だ。
「じゃあそのままでいいから聞いてよ」
「ん……」
「これから話すことは僕が話しちゃいけないことだけど……有香さんのために言うよ」
 ユカのために?

「有香さんがこの世界にいる理由……」
「そんなの聞きたくない」
 どうでもいい。私には関係ない。私はトモキの話を途中で遮った。

「絶対に聞いてもらうよ。エリス、君は自分のしたことを知るべきだ」
「私は何もしてない!!」
「いいや、君は有香さんの理由に触れる行為をしたんだ」
「…………」
 そんなことしてない、と叫びたかった。
 しかしそれは、ユカの理由が分からないといえないセリフだ。
 つまり、聞かなければならない。トモキに話の流れを掴まれている。

「有香さんがこの世界に来る理由は雄二にあるんだ」
「なんでそこでユージがでてくるのよ?」
「雄二ってけっこう無茶やるでしょ?」
「けっこう、じゃなくてかなり無茶するわね」
 私が言うべきセリフじゃないと思うけど、無茶はユージの専売特許だ。

「無茶をした雄二の周囲にある危険から雄二を守るため……」
「…………」
「それが有香さんがここにいる理由だよ」
 それがどうしたってのよ……。

「エリスのやったことは雄二を危険に晒すことだ。冗談だったとしても」
「だから、ただの冗談じゃない」
「有香さんにはそうは見えなかったんだ」
「それはユカの勝手でしょ!?」
 布団を取っ払ってトモキを睨みつける。

「それでなんで私を責めるの!?」
「責めてないよ。ただ分かってほしいだけだよ」
 嘘だ。責めてる。トモキは私の味方だと思ってたのに!!

「もういい!! 出てって!!」
「…………」
「トモキ達と仲間になんてならなきゃよかった……」
 それは何気ない一言だった。

パァン!!

 しかしトモキの逆鱗に触れるには十分だったらしい……
 思いっきり頬を叩かれた。
「雄二がどれだけ無茶をして君を連れ出したと思ってるんだよ!!
エリスが一番それを知ってるだろ!!!」 

 そうだ、私が一番知っている。単身、乗り込んでお母様に直談判。
 下手をすれば、そのまま牢屋に入れられてもおかしくないほどの暴言の数々。
 ユージはそれらをすべて私の為にやってくれている。

「言っていいことと悪いことがあるよ……」
「……ごめんなさい」
 今のは全面的に私が悪かった。

「僕も悪かったよ……。痛かった?」
 トモキが赤くなった頬をなでてくる。
「うん……。凄く痛かった」
 頬はもちろん、胸が……心が痛かった。
 何気ない一言だったとはいえどれだけ自分勝手な発言をしてしまったか。
 自分が情けなくなってくる。

「ゴメン、本当にゴメン……」
 ひんやりと冷えたトモキの手のひらが熱くなった頬に気持ちよかった。

「僕はエリスが仲間になって良かったと思ってる」
「……ありがと」
 正面切って言われると恥ずかしいものがある。
「当然、雄二もレナさんも……有香さんだってそう思ってるよ」
「うん」
「ただ、いろいろあって有香さんもイラついてただけだと思うから……」
 なにがあったのか、聞いても教えてはくれないだろう。
 私はただ頷くだけだった。

「そこのところは分かってあげてよ」
「もういい。私も悪かったと思うから」
 ずいぶん冷静になれたものだ。自分のことなのに他人事のように見れる。
 確かによく考えると私から喧嘩を吹っかけたようなものだ。

 ユカが壁雲のことを秘密にしていたのも苛立ちの原因の1つだった。
 仲間なのに隠すべきことでもない秘密を持っていたことがイラついた。
 私だけが仲間はずれにされているようで……。
 
「じゃあこの話はおしまい」
「うん、早くユカのところに行ってあげて」
 どうせこのあとユカの方にも行って話を聞く気なのだろう。

「有香さんなら大丈夫。今頃、後悔してるよ」
「なんでわかるの?」
「……僕だったら後悔するから、かな?」
 それは答えになっていないけど妙な説得力があった。

「それに、伝言をレナさんに頼んであるからね」
「なんて言ったの?」
「さぁ?」
「…………」
 やっぱりトモキは切れ者で……曲者だ。
 しかし、そのおかげでこんなにも吹っ切れてスッキリしている。

「ねぇ、じゃチキュウの話してよ」
「いいよ、何の話がいい?」
 もちろん、さっきから気になっていた……
「テレビの話!!」
「テレビの話だね? テレビっていうのは……」
 トモキの説明を聞きながら思った。

やっぱりトモキ達が育った世界ってやつを見てみたいわね……。



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