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 馬車を運転しながら考えていた。
 帰ったらあのじゃじゃ馬に説明せにゃなるまい。
 俺達のこと、レナのこと、異世界のこと。そういった様々な未知を……。

第117話 地球のことを <<雄二>>


 馬車をシア村共用馬車置き場に繋いでから家に帰った。
「帰ったぞ〜」
「ただいま」
 しかし、返ってくる声は無かった。
 智樹やじゃじゃ馬がいるはずなんだが……。

「おーい、智樹ー?」
 家の中全体に聞こえるように大声で呼びかけてみた。
「雄二!! 助けて!!」
 は? 戦っている気配なんて感じないが……。
 大声の元に向かって歩き出す。声の出所、そこはエリスと有香の女部屋。

「どうしたんだろ……」
「俺が聞きてぇよ」
 入るのも躊躇われるような気がする。
 有香が中の様子を窺いながら慎重に扉を開いていく。

「雄二君。智樹君がレナさんとエリスに責められてる……」
「どういうことだよ?」
 有香の後ろから中を覗くと……

「これってどういう原理で動いてるんですか!?」
「ちょっとトモキ、テレビの話の続きは!?」
「二人とも、落ち着いてよ!!」

「「 ………… 」」

バタンッ

 俺と有香は顔を見合わせて扉を閉めた。
「見なかったことにしよう」
「そ、そうだね……」
 俺達はリビングに撤退を開始した。
「さて、お茶でも飲むか……」
「あ、私が淹れるよ」
「ちょっとは助けようとか思ってよ!!!」
 撤退は智樹の必死な叫び声によって失敗に終わった。


 女部屋に5人集まるのは少し狭かったのでリビングに移動した。
「へぇ、エリスにも話したんだな」
 智樹が動いてくれていたおかげで俺の苦労が1つ減った。
 まぁ、俺が動くよりも智樹の方がうまくやりそうだったがな……。
「そしたらレナさんも呼んで地球のこと話せって言われてさ」
 で、あの質問の嵐か……。

「よし、じゃあ今日は地球の話をするか……」
「そうしてよ。このままじゃ僕の身がもたないよ」
 俺と有香がジタルに行っている間に相当量の質問を浴びせられたようだ。

「まず、地球はモンスターがいねぇし魔法もねぇ。だが科学が発達してる」
「質問〜。カガクって何?」
 前提の話にいきなりエリスから質問が出る。
「……あ〜、こっちの世界での魔法みたいなもんだ」
 発達した科学は魔法みたいなもんだしな……

「洗濯を勝手にやってくれたり情報の伝達を円滑にする技術のことだよ」
「へぇ、便利な世界ね」
 智樹の援護的解説によって何とか話が進む。

「他にも俺の疾風並に動く乗り物とか、光を生み出す物とかだな」
「光を生み出す……これのことですね?」
 そう言ってレナがペンライトを取り出す。
「レナ。何でそんなもん持ってんだ?」
「トモキさんに頂いたんです」
「レナずるい!! トモキ、私には!?」
「今度来るときに持ってくるよ……」
 智樹はレナにだけ地球の物をお土産に持ってきていたらしい。
 こんなことになるとは思ってねぇからエリスに持ってきてるわけがない。
 ギリギリの範囲でポップコーンを選んだのだろう。
 俺はお土産なんて考えもしなかったが……。

「おい、話を戻すぞ。そういった反面、武器とかの技術も優れてる。
 魔法がない分、遠距離攻撃の手段が嫌でも発達するんだよ」
「……確かにそうなのかもしれないね」
 魔法があれば銃なんて作られることも無かった。爆弾も核兵器も……。

「人間を感知して発動する爆弾とかができちまうわけだ」
「「 ………… 」」
 恐ろしさが分かりやすい形で理解できたと思う。

「優れた技術ってのもいい方面ばかりに働くわけじゃない。魔法だってそうだろ?」
「確かにそういう面もありますよね……」
「もともと魔法なんて生活の補助としてできたものらしいわ」
 必ずしもいい世界ってわけじゃないことを知ってもらわなければならない。
 そのためにこういう話をした。地球の醜い一面をさらけ出した。

「ま、俺の国はそういうことに関しちゃ、かなり安全だけどな」
「私の国だって安全よ。私が言うんだから間違いないわ」
 それにしちゃ絡まれる回数が多いけどな……。

「じゃ、質疑応答に入るぞ。レナからな」
「私からですか? そうですねぇ、これはどうやって光ってるのですか?」
 レナがペンライトをピカピカと光らせて聞いてくる。
「電気だ。次、エリス」
「雄二君、そんな説明ないと思うよ……」
 ユカが呆れた表情で言ってくるが電気の原理から説明する気か?

「智樹、電気の説明できるか?」
「簡単なものでいいなら……」
「んじゃ、任せる」
 発電所のシステムから説明するなんて面倒なことこの上ない。
 智樹はレナを連れて部屋に戻っていった。

「エリス、質問は?」
「テレビについて教えてよ」
「箱に人が入ってんだよ」
 異世界の人間や過去から来た人間はたいていそう言うらしい。

「エリス。雄二君の言うこと信じちゃダメだよ」
「あ、バカ。ばらすなよ」
 せっかくテレビに話しかけるエリスを見る、という楽しみができたのに……。

「ユージ、アンタ……まだ懲りてないようね」
「は……はは……冗談だ、冗談」
「こっちは、か・な・り真剣に聞いてたんだけど?」
 表情がかなり怖かった。

「これがどういうことか分かる?」
 両手に無数の小石を乗せて広げて見せてきた。
 分かるに決まってんだろ。それを晃斥の力で飛ばせば俺は蜂の巣になっちまう。
 
「ちょ、ちょっとエリス」
「嫌なら止めれば? 壁雲があるでしょ?」
「「 !!? 」」
 智樹はレナだけじゃなく有香のことも話していたのか……。
 その智樹は恐らく一生懸命に電気の講義中。

「…………」
「………そう、知っているなら話は早いわ」
 有香が微笑みながらエリスに対峙する。
「エリス、本気で雄二君を撃つ気なら容赦しないわよ?」
 本気のわけねぇじゃねぇか。お前は何で本気で殺気出してんだよ。

「なに、やるの?」
「貴女次第よ」
「おい、お前等やめろ」
 マジな雰囲気になってきた。

「外、出ましょ」
「……いいわ」
「頭冷やせバカ!! 何やってんだ!!」

「どうしたの? 雄二」
「な、何かあったんですか?」
 俺の怒鳴り声を聞いて智樹達が戻ってくる。
「……なんでもねぇ。電気の講義中だろ? 続けててくれ」
 
 なんで……ただの冗談がパーティ崩壊の危機になってんだよ……。
 ったく、今回は問題が多すぎるぞ。



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