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 また喫茶店にいる俺達。
 有香と一緒になるといつも喫茶店にいるような気がする。
 まぁ、悪い気はしないけどな……。

第116話 有香、怒る <<雄二>>


 喫茶店。二人向かい合ってヨッテを飲む。
 こうしてるとなんかデートでもしているみたいだ。
 正直、有香の服装が似合いすぎていて見とれていたりもした。
 そして、今もそれは続いていたりして……
「雄二君?」
「ん、ああ、何だ?」
 やべぇ、まただ。まったくもって落ち着かねぇ。
 よく右の耳から左の耳へなんて言葉があるが、今は耳にすら入らない。

「話、聞いてた?」
「悪い、まったく聞いてなかった」
「…………」
 それを聞いた有香はぶすっとしてそっぽを向いてしまった。

「あ〜、何の話だったんだ?」
「別に聞く必要もない話なんでしょ?」
「…………。 それにしても、いい天気だなぁ」
「…………」
 こんなセリフで誤魔化せるわけがなかった。

「本当に悪かったって。考え事してたんだよ」
 ま、考え事には違いねぇからいいだろ……。
「何、考えてたの?」
 有香のことだ、なんて言えるわけねぇだろうが。
「あ、明日から何しよっかなぁ、とかな」
「……何しようと思ってるの?」
 追求が激しい。嘘がばれてるんじゃねぇのかと思えてくる。

「まぁ、宿題とか、みんなで遊びに行こうかとか」
「ふぅん。宿題持ってきたんだ……」
 この時間を利用しない手はないだろ?
 せっかく地球で時間進んでねぇんだからな。

「有香は何したい?」
「わ、私は……別に何でもいいかな」
「なんだよそれ、行動力ねぇなぁ」
「そんなこと急に言われても……思いつかないよ」
 明日からコイツ、どうするつもりなんだろう……。

「どうせならここでしかできねぇことやれよ」
「え?」
「そうしねぇと損だろ? せっかく異世界に来てるんだからな」
 宿題がここでしかできないことではないけど、どうせ来たなら楽しみたいと思う。
 俺だって宿題だけをやるつもりなんてまったくない。
「そうだね……」
「なんなら俺の宿題手伝うか?」
 俺としてもありがたい。やることねぇなら手伝え。

「絶対にイヤ」
「だよなぁ」
 期待してなかったけどな。いや、5%くらいは期待してたが……。
「ま、危険な目に遭わないようにしろよ?」
「うん、分かってる」


「よぉ、ずいぶんとお楽しみじゃねぇか」
 俺の前方から雰囲気をぶち壊す声が聞こえてくる。
 からんできたのは数人の男共。っていうかどっかで見たことあるような……。
「誰だっけ?」
「てめぇ、忘れてんじゃねぇぞ!! あんな酷ぇことしやがって!!」
 ジタルでした酷いこと……。
 指輪を値切り倒したのは有香だしなぁ。

「あ」
 思い出した。ヒートスライムの傍で芋虫にしてやった奴だ。
「なんだよ。またやられに来たのか?」
「思い出したようだな……。堂々とこの街で女連れたぁ、いい度胸だ」
「度胸には自信あるぞ」
 はっきりいって度胸だけは自信満々です。
 地球じゃ毎日がチキンレース並みの度胸試しだ。

「女置いてきな。そしたら見逃してやるぜぇ」
 ニヤニヤ笑いながら有香の肩に手を置く。
 うっわ、いやらしい顔しやがるぜ……。

「雄二君、友達?」
 あれらが俺の友達に見えると?
 まぁ、有香は分かってて言ってるんだろうな。
 だって顔が真顔だし、なんていうか……殺気出てるし。
「んなわけねぇだろ。俺だって付き合う人間くらい選ぶっつうの」
「だよね……」
 ご愁傷様。お前等、死んだぞ……。

「いでででで」
「消えて。10秒以内に」
 肩に置かれた手を掴み、手首をひねって極める。
「このアマ何しやがる!!」

 9、8、7……

 俺は体内時計で10秒をカウントし始めた。
「どうやら状況がわかってねぇようだな……」
 それこっちのセリフ。分かってねぇのはお前等。
「表に出ろ!! ぶっ殺してやる!!」
 アホな奴等め。素直に消えてりゃいいものを……。

 そしてタイマーは0になった……。

「貴方達だけ勝手に表に出てなさい」
 壁雲を呼び出した有香が流れるように全員に右のジャブを入れていった。
 それだけで全員気絶。その後、窓を開けて一人ずつ片手で窓から放り出していく。

ポォーン
 ポォーン

 効果音をつけるならこんな感じだ。
「ったく、せっかくの時間を邪魔しないでよね」
「仰る通りでございます」
 恐怖のあまり丁寧語になっちまった。

 恐らく壁雲の基本能力は攻撃力の増加だ。
 いくら有香が古武術使いでも女の子のジャブで気絶はありえない。
 そしてこうも思った。

有香に壁雲は最強の凶器だ……。

 全力で殴られたら命が危ぶまれるぞ。もう二度と怒らせないでおきたい。
 その存在と喧嘩をしていたと思うとぞっとする。
「雄二君、そろそろ帰ろっか」
「は、はい。仰せのままに」
 怒った春香を前にしているような感覚に襲われた。
 有香が壁雲つけて俺に向かってきたら風華を使って全力で逃げよう……。

 料金を支払い、周囲の人間に頭を軽く下げて店を出た。
「頼みがあるんだが……」
 馬車の元へ歩く途中で俺は思い切って言った。
「なに?」
「壁雲しまってくれないか?」
「いいけど……どうして?」
 怖いからです。いや、本当マジで……。
 有香は怪訝そうな表情をしながら壁雲を消した。

「今日は楽しかったね」
「そ、そうだな……」
 そんな満面の笑みで言われても……。
 
ゴメン。俺、今日、タイマーの見えない時限爆弾を抱えた気分です。



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