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 僕のやるべきことはレナさんとエリスの説得だ。
 レナさんにはエリスに美空のことを話す説得を
 エリスには僕達のことを、僕達の旅先に連れていけないということを……

第115話 異世界大論争 <<智樹>>


 まずはレナさんだ。彼女の説得に失敗すればすべては始まらない。
 部屋を出る前に言うべき言葉を考え、選択し、準備を整える。
(これしかないんだ……全員が納得するには)
 
「よし」
 心の準備もできた。僕は僕にできることをやるだけだ。
 雄二より有香さんよりこの役目は僕が適任だと思うから、僕がやる。

「エリス、ちょっとでかけてくるよ。すぐ戻るから」
「わかったわ」
 エリスが危険な目に遭うことはない。
 彼女には晃斥がある。晃斥がある限り触れることすらできない。
 それに、まさかこんな辺境の村に王女がいるなんて誰も思わないだろう。

 僕はレナさんの家に向かって歩き出した。
(不思議と緊張してないんだよなぁ)
 落ち着いている。まるで日常会話でもしにいくかのように……。

コンコン

「はぁい」
 レナさんの声を聞いても冷静でいられる。きっと大丈夫だ。
 扉を開けてレナさんが出てくる。
「レナさん、話があるんだけど」
「エリス様と……美空のことですよね?」
 レナさんも分かっているのだろう一番効率的な方法を。

「うん、じゃあ僕が言いたいことも分かってるかな?」
「はい。エリス様に美空と地球のことを話すんですよね」
「話してもいいかどうかを聞きに来たんだ。レナさんは隠しておきたいでしょ?」
「……はい」
 やっぱりそうだよなぁ。僕でも隠しておきたいと思う。

「とにかく、入ってください。話は中で……」
「うん、お邪魔するよ」
 僕達の家より少し狭いリビング。ここで数日暮らしたこともあった。

「どうぞ」
 レナさんは僕が座ってすぐお茶を淹れてくれた。
 どうやらお茶を飲むところだったらしい。
「ありがとう」

「…………」
 それっきりレナさんは黙ってしまう。
(僕から切り出さないといけないよね……)
「レナさん、僕はエリスに地球のことを話すしかないと思ってる」
「……そう、ですよね」

「そのためには美空の事も話す必要があるんだ」
「分かってます。私もそれしかないって思ってましたから……」
 レナさんには辛い決断になるだろうけど言わなきゃならない。
 でもその辛さを僕はできる限り和らげてあげたい。

「エリスはもう僕達の仲間だよ。それに信用できる。僕が保障してもいい」
「私だってそう思ってます。ただ……怖いんですよ」
「怖い?」

「エリス様が信じてくれるか、私を見る目が変わってしまわないか……」
 エリスが地球の存在を受け止めきれるか、レナさんをどんな目で見るようになるか。
 確かにレナさんにとっては怖いかもしれない。
 地球のことに関しては僕から説明してあげるとしても……
 エリスがレナさんに何を言うか、何を感じるか。

「大丈夫。僕が説得するから。それにレナさんはレナさんだよ」
 僕はこう言うしかない。たとえ説得の結果がどうなってしまうとしても。
「ありがとうございます。でも美空の力は恐ろしい力です。
エリス様にそれを恐れられるのが何より……怖いです」
 
 ……誰かに恐れられたくないからレナさんは誰にも話さないんだ。
 雄二も有香さんも美空の本当の力を知らない。
 美空の能力のすべてを知っているのは僕だけだ……。

「僕は恐ろしいと思ったことはないよ」
「……トモキさん」
 恐ろしい能力だと思ったことはある。それは認める。でも……
「レナさんはその能力を絶対使わないって分かってるからね」
「……!!?」
 そう、レナさんは能力を使えない。使えたとしても使わない。
 たとえ仲間全員がレナさんを恐れたとしても僕は絶対に恐れない。

「もし雄二に話したとしても雄二のレナさんへの対応は変わらないよ。
僕も雄二も、もちろん有香さんもレナさんのことをそんな目で見てないからね」

「…………」
「エリスだってそうだと思うよ。エリスはそんなの気にしたりしないよ」
「そうでしょうか……」
 僕達はレナさんが優しいことを知っている。
 僕達の中で誰よりも優しく、誰よりも強い精神を持っている。

「だからさ、僕達を信じて話してみない?」
「……」
 僕は信じてもらうことしかできない。

「1つだけ……条件があります」
「なんだい?」
 条件次第では振り出しに戻ってしまう。
 
「……最初に地球に行くのは私ですよ?」
 そう言ってレナさんは微笑んだ。それはとても綺麗な微笑だった。

「当然。リオラート初の地球訪問者になってもらうよ!!」
「エリス様に話してください。私のことは気にしなくてもいいです」
「大丈夫。僕に任せておいて」
「はい、お願いします。トモキさん」
 これで一歩進んだ。エリスには地球のことを話す。
 地球という異世界の存在を信じてもらうための手は考えてある。

「あ、それとレナさんだけにお土産」
 僕はポケットに入れてあるペンライトを取り出した。
「あんまりいいもんじゃないけど、あげるよ」
「これは?」

「ここを押すと光るんだ。しばらくは使えると思うよ」
 スイッチを押して点滅させる。
「へぇ〜、凄いですね〜」
 レナさんは何度もスイッチを押して光らせていた。 
 
「僕はエリスの説得にかかるよ」
「はい、お土産ありがとうございます。頑張ってください」
「うん」
 頑張るさ、誰もが納得しなくちゃ僕達の絆は崩壊してしまうんだから……。
 僕は自分達の家に戻るためレナさんの家をあとにした……。


 こっちのほうが緊張するし、難しいだろう。
 ありえない話を信じてもらう、それがどれだけ難しいことか。
 僕は雄二に風華を見せてもらって納得した。
 エリスにも地球の物を見せて納得してもらえると思う。

コンコン

「トモキ? 帰ってきたの?」
 扉が閉まっているというのに僕だと分かったみたいだ。
「入っていいかな?」
「いいわよ」
 部屋に入るとエリスは椅子に座って本を閉じていた。

「何読んでたの?」
「ん〜、ちょっとやってみよっか」
 やってみる?
「ちょっと離れてて」
「う、うん」
 エリスから少し距離をとる。

「火の精霊よ……私に力を貸しなさい」
 エリスの呟きとともに小さな火がぽうっと灯る。
「魔法……」
「そ、これが限界だけどね」
「えっ、それじゃ戦闘じゃ」
「使えないわね。私は精霊と相性悪いらしいからね」

 精霊、相性。魔法のことはよく分からないけど難しそうだ。
「トモキも使ってみる?」
 地球人の僕が魔法を使うことができるのだろうか……ってそうじゃないよ。

「エリスに話があるんだ」
「話? なによ改まっちゃって」
 話を切り出すのに失敗したせいか、言いづらくなってしまった。

「……エリス。僕はこの世界の人間じゃないんだ」
 あ、単刀直入すぎた。
「いきなりなに言ってんの? ユージのバカが感染した?」
 本当にいきなり過ぎだ。タイム。仕切りなおしだ。

「…………」
「トモキ。本当に大丈夫?」
 本気で心配されると困るんだけど……。

「えっと結論から言っちゃったけど本当のことなんだよ」
「……からかおうとしてるのは分かるけど、トモキらしくないわよ?」
 切り出し方が最悪だったせいで信じる気ゼロだった。
「いや、本気なんだよ。本当に地球っていう異世界から来てるんだよ」
「バカにしてるの!? トモキ、私が何かした!?」
 ヤバイ……怒りだしてしまった。

「馬鹿にしてないし、エリスは何もしてないよ」
「じゃあ何でそんなふざけたこと言うのよ!?」
 ふざけてない、でもエリスにとってはふざけた戯言にしか聞こえない。

「僕は、僕等はエリスに言わなきゃならないことがたくさんあるんだ」
「だから何? 冗談で始めようってわけ?」
「分かったよ。謝るよ。こうでもしなきゃ話せないことなんだ」
「そんな気遣い……らしくないわよ?」
 一度、冗談にして再び話せる時を待とう。

「まず、雄二が覚醒者だってことは知ってるよね?」
「風華でしょ? 何度も見てるわ」
 話題を変えて話しやすい状況を作る。そうでもしないと納まらない。
「今まで隠してたけど僕も、有香さんも、レナさんも覚醒者だよ」
「……嘘でしょ?」
「見たほうが早いよね。神無」
 神無を呼び出してエリスに見せる。

「有香さんにも壁雲っていうウェポンがついてる、レナさんは美空って名前」
(有香さん……ゴメン)
 有香さんの許可は取ってない。でも今言わなきゃいけない気がした。
 心の中で有香さんに謝りながら続ける。

「……初めて会ったとき、何で言わなかったの?」
「あの時は仲間じゃなかったから。ウェポンの存在は隠しておいたほうがいいからね」
「最初からウェポンのこと知ってて私の話を聞いてたのね」
「知らないとは言ってないけど?」
 あの時、僕は知ってるか聞かれたから知っていると答えただけだ。

「やっぱり曲者だわトモキって。で? それが隠してること?」
「もう1つ、エリスの護衛の件だけどね。旅先にエリスを連れていけないんだ」
「どうして?」
「ここでさっきの冗談に戻るけど、レナさんの能力は異世界との干渉能力なんだ」
「…………」
 黙りこんでしまう。

「レナさんの能力で僕、雄二、有香さんの3人はここに来ているんだよ」
「冗談が一気に信憑性を増したわね」
 ソウルウェポンの可能性を知っていれば信じる気も起きるだろう。

「証拠といってはなんだけど僕の持ってきたお土産。この世界には存在しないよ」
「あれが? 異世界のお菓子……」
「だから、僕等はエリスの護衛はできないんだ。地球に帰るから……」
 この世界にいるときしかできない。エリスも分かってるはずだ。

「護衛のことはどうでもいいんだけど……異世界って」
 どうでもいいって……。
「いつか呼んであげたいけど……」
 レナさんの成長次第だし、レナさんが一番最初だって約束だ。
 
「僕達の世界は凄いよ。魔法はないけどモンスターはいないし」
「へぇ、面白そうね」
「僕達にしてみればこっちのほうが凄いんだけどね」
「本当の話ならね」
 まだ信じてもらえないのか……。

「これで信じてくれなきゃどうしようもないな……」
「今度は何?」
 僕が取り出したのは携帯電話。

「僕達の世界でしか使えないけどね。これくらいはできるよ」
 着信メロディを鳴らす。
「……ぁ…」
「信じてくれる? 何なら帰るときに召還を見てもらうけど?」
「す、凄い……」
 僕の話なんて聞いちゃいない。携帯電話を凝視している。
 いろんな場所に耳を当て、音がどこから出ているのか調べている。

「話の続きをしたいんだけど……無理だよね」
 しばらくは携帯電話の説明になりそうだ……。



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