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 とんでもないことをしてしまった。
 朝、目が覚めて、一番最初に考えたことは昨夜のこと。
 昨夜の私はどうかしていたのよ……。
 
第112話 我侭 <<有香>>


 今日、私は雄二君の家に行くことになっている。
 行きたくないと思っていても、ちゃんと行くと言った以上、行かなきゃならない。
「どうしたらいいのよ……」
 私は謝るべきなのだろうか。

ドンドン

「……はい」
「おっす」
 入ってきたのは弟。
「藤木雄二になんかされてるのか?」
「え?」
「姉貴、電話で泣いてたじゃん。大声出してさ」
 そう、昨日電話の後、私はその場で泣いてしまったのだった。

「そうなのか? 藤木雄二が原因なのか?」
「違うの。雄二君は悪くないの」
 原因は雄二君だけど雄二君はぜんぜん悪くない。
 ただ、雄二君がぜんぜん違うことについて謝ったことに腹が立っただけだ。

「雄二君…って、姉貴、まさか藤木雄二と友達なのか?」
「うん」
「怪獣と友達だもんなぁ。藤木雄二がついててもおかしくないか……」
「嫌いなの? 雄二君のこと」
 ずっとフルネームで呼び続けている弟に違和感を覚えた。
「まさか。姉貴が何かされてねぇなら、ただの危険な先輩だな」
 ぜんぜん『ただ』ではなかった。雄二君も危険人物扱いだもんね……。
 もちろん自分もそうなのだが危険度で言えば雄二君のほうが上だ。

「私は何もされてないわ」
「じゃあ、何で泣いてたんだよ」 
 痛いところをつく。だが、全容を話すわけにもいかなかった。

「…………」
「もういい、藤木先輩に直接聞いてくる」
「ちょ、ちょっと待って!!」
 部屋を出て行こうとする弟を何とか止める。

「話す……全部話すから」
「よっし、じゃ聞かせてもらおうか」
 ニィっと笑って座りなおす。どうやらハッタリだったらしい。
「……卑怯者」
「そう言うなって、心配してやってんだから」
 私は昨日起きた出来事を言えるレベルで話した。
 風華のことを伏せて、雄二君を眠ったとみせかけて起きていたということにして。


「へぇ、姉貴もやるなぁ。ダブルベッドで藤木先輩と?」
「……うん」
 そうやって改めて言われると顔が熱くなってくる。
「なんかあった?」
「何もない!! 話した通りよ!!」
 この愚弟は……人が真剣だというのに。

「結論から言うと。普通に接してりゃいいんじゃねぇの?」
「え? どうして?」
「俺が藤木先輩の立場でもそうするかなぁって思ってさ」
 この弟でもそうするの?

「姉貴が渋ってたから藤木先輩は騙した。いや、騙すしかなかったんじゃねぇか?」
「私のせい……なの?」
「それも違う。姉貴は女として当然だと思うよ。その態度」
 女として以前に雄二君を好きな人間として、だ。
 私の中ではそっちのほうが強い。

「俺も恋愛経験豊富じゃねぇけど、客観的に見るとそう思えるよ」
 私の恋愛経験なんてゼロに近い。
 弟の方が経験値は高いだろう……。

「ま、言い過ぎてごめんくらい言っとけば?」
「ん、そうする」
 ようやく、心が落ち着く。弟に相談してよかった。
「恐らく藤木先輩が先に謝ってくると思うけどな」
「なんで?」
「姉貴が怒ったからに決まってんじゃん。姉貴にあんなに怒鳴られたら俺でも謝るね」
 やはり愚弟は愚弟だった。

「姉貴」
「何?」
「うまくいくといいな……」
 そう言い残して弟は部屋を出ていった。

(なによ。全部バレてたんじゃない……)
 弟は分かってしまったのだ。私の気持ちが誰に向いているのか。

「敵わないなぁ……」
 弟の勘の鋭さには頭が下がる。
 智樹君に匹敵する鋭さを持っているのかもしれない。


 そして藤木家の前に立っている私。チャイムを押すのに躊躇っている。
 指を近づけては離す、それの繰り返し。
「ええいっ」
 思い切って掌でチャイムを叩く。

ピーンポーン

 約2分後、出てきたのは雄二君。
「おっ、有香か……。入ってくれ」
 いつも通りの雄二君だった。気まずさなんてまったくない。
 雄二君のあとに続いていく。
「昨日のこと、悪かったな」
「え?」
 雄二君は振り向きもせず歩きながら言った。

 部屋のドアを開けて私に道を譲る。
「お、お邪魔します」
 部屋に入る、これで2回目だ。だけど今回は私だけ……。

「俺、有香のことぜんぜん考えてなかったな」
 部屋の扉を閉めながら言う。
「…………」
「だけど、俺、わがままだからさ……」
「わがまま?」
 雄二君がわがまま?

「ああ、俺って自分のやりたいようにしかやれねぇ奴なんだよなぁ」
 ユージくんは頭をかきながらそう言った。表情は苦笑いで……。

 それはわがままと言えるのだろうか?
 もし、そうだとするなら、わがままなのは必ずしも悪いことじゃない。

「あの……私も、昨日は言い過ぎちゃった。だから……」
「気にすんな。よく考えりゃ有香の言い分も正しいからな」
 雄二君も分かっていたのだ。どちらも正しく、間違っていないことを……。

「だから、この話はこれで終わりだ。な?」
「あ……うん」
 話はあっさりと決着がついた。半日悩んだのがバカみたいだ。
 
「んじゃ本題な。今日リオラートに行く、智樹もすぐ来る」
「き、今日!?」
 ずいぶん急な話だ。いや、元々この話のために電話をしてきたのだろう。

「準備したいものとかあるか?」
「着替えとか……」
 やっぱり何日も過ごすのだから着替えくらい持っていきたい。
「あ〜、そうだったな……。むこうのじゃダメか?」
「え……別にいいけど」
「なら、あっちで買ってくれるか? じゃじゃ馬がうるせぇらしいんだ」
「エリスが?」
 地球のことはエリスに言っていない。緘口令が敷かれているからだ。
 私達が地球に帰ってきてから2ヶ月ほど経っている。
 
「智樹……。おせぇな」
 雄二君が携帯を取り出して智樹君に電話をかける。

「どうしたんだ? もう2時だぞ。 え? ああ、終わったけど」
 会話の内容はよく分からない。


 しばらく話して電話を切る。
「あんにゃろ……余計な気ぃ遣いやがって」
「どうかしたの? 智樹君」
「別に……なにもねぇよ」

トントン

「あいよ」
「やぁ」
 智樹君が入ってくる。電話を終えて5分も経ってない。

「コイツ、今まで千夏の部屋にいたんだとよ」
「いいじゃないか」
「忘れ物はどうしたんだよ?」
「確認したら、持ってきてたんだよ」
「都合のいい奴……」

 どうやら私がいない間に何かがあったようだ。
 そして、それはとても良い事……。それは二人の表情が証明していた。

「それじゃ、行こうか」
「ああ、<<無繋よ。我とレナ・ヴァレンティーノとの精神を繋げよ>>」
 雄二君が無繋を使ってレナさんと連絡をとり始める。
「ほれ、行くぞ」
 雄二君が手を出してくる。

「……うん!!」
 私はその手に自分の手を重ねた。
「準備はいいか?」
 雄二君、智樹君と手を繋ぎ、輪になる。
「いいよ」
「うん」
「じゃあ、レナ、頼む」

 私の視界は白くなり、私は再びあの異世界に召喚された……。



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