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 雄二が有香さんと僕に用事がある、と言うなら
 その用事はリオラート絡みだろう。今度はゆっくり召喚してもらえそうだ。
 エリス、レナさんにお土産でも持っていこうかな……。

第111話 雄二の相談 <<智樹>>


 翌朝、僕はリオラートに持っていく物を考えている。
 1つは地球の物だとエリスにばれないでレナさんが喜ぶ地球ならではの物。
 2つ目はエリスが喜ぶ地球産の何か。当然、地球産とばれてはいけない。
「難しいなぁ……」
 
 電子機器は完全にアウト。食べ物くらいしか思いつかない。
 あ、新しい条件ができた。費用は少なめに……。
 旅行で大金が消えているので出費は抑えておきたい。

ピリリリリリ
 ピリリリリリ

 携帯が鳴った。ディスプレイには藤木雄二の文字。
「もしもし? どうかした?」
 約束の時間は午後2時。現在午前8時だ。
「よかった、起きてたか。今すぐ俺の家に来れるか?」
 予定が繰り上げになったのだろうか。お土産もまだ決めてない。
「分かったよ。すぐ行く」
「サンキュ」
 お土産はお菓子でも買っていけばいいかな?
 財布と携帯を持って家を出る。

 途中コンビニでポップコーンを3袋買って雄二の家に向かった。
「おっす。待ってたぞ」
 家の前で雄二が待っていた。
「おはよう」
「とりあえず中に入ってくれ」
「うん」
 雄二の部屋に一直線に向かった。

「雄二、レナさん達に何かあったの?」
 またリオラートに行くであろうことは予想できていたので、単刀直入に聞いた。
「いや、レナもじゃじゃ馬も問題ねぇよ……」
 雄二の表情がおかしい。いつもと違う。

「何かあったんだね?」
「俺にちょっと、な……。有香を怒らせちまった」
「へぇ」
 有香さんが雄二を怒るといったらあの件しか考えられないな。
 雄二が徹夜をした昨日のことだ。

「俺も有香も譲らねぇから、春風で眠らせたんだよ」
 風華を使って眠らせた。で、自分は徹夜か……。
「そしたら、昨日電話したときに怒鳴られた」
 怒鳴ったの!? あの有香さんが雄二に?
 そりゃ相当怒ってるんだなぁ……。
 
 しかし、この問題。有香さんの気持ちも雄二の気持ちも分かる気がする。
 雄二は有香さんを思って一緒に寝ないという選択をした。
 有香さんは雄二に無理をせずに眠って欲しかった。だから……怒った。

「徹夜するにしても寝るにしても、一緒にしたかったってな」
 で、今日。2人は会うんだ。
「気まずいね……」
「ああ」
 僕も雄二に対して思っていたことだ。
 雄二は周囲に気を配りすぎている。必要以上に……。

「結城さんにはなんて言われたの?」
 恐らく同じようなことを言われているはずだ。
「……全員の厄介事を背負い込むな」
「厄介事ね……。で、今回は有香さんの厄介事を背負い込んだんだよね?」
 一緒に寝るという厄介事を、雄二が徹夜することで背負った。という形になる。

「…………」
「…………」
 雄二なら気づくだろう、自分がどういうことをしたか。


「……俺、まったく同じことやってたんだな」
「そういうことになるね。雄二は結城さんの言葉の意味を分かってなかったんだ」
 正確には結城さんの言葉の本当の意味を、だ。
 結城さんが遠まわしにそれを指摘していたのかどうかは分からない。
 だが、そこはたいした問題ではない。
 問題は雄二の受け止め方が浅かった、という点だろう。

「俺、どうしたらいいんだよ?」
 雄二が聞いてくる。雄二が僕にそれを聞いてくるとは……
 いつも自分の意志で行動していた雄二が嘘のようだ。
 
「何もしなくていいよ」
「は?」
 雄二がやりたいようにやればいい。周囲なんか気にしなくてもいい。
 僕はそれが雄二らしいと思うし、そんな雄二を羨ましく思う。
 僕はやりたいようにやることを放棄してしまった人間だから……。

「雄二は間違ったことはしてないんだ。ただ、今回は意見の食い違いがあっただけでね」
「食い違い?」
「雄二は有香さんを気遣っただけ、有香さんは雄二の気遣いが辛かっただけ」
「ちょっと待て。辛かったってどういうことだよ」

「逆の立場に立ってみれば? 自ずと分かると思うけど?」
 ヒントはここまで、僕が答えを言うのは簡単だ。
 だが、本人自身が自分で気付いた方が効果的なのだ。

「僕は一旦帰るよ。忘れ物してきちゃったからね」
 そして、一人で考える時間。葛藤の中で出した答えに強い意味がある。
「ああ、あとでな」

 雄二の部屋を後にした僕は玄関で千夏ちゃんと出会った。
「あれ? 先輩、何してたの?」
「雄二に用事があったからちょっとね」
 無難な答え方をしてお茶を濁す。

「それでもう帰っちゃうの?」
「うん、お邪魔しました」
「ちょっと待って!! 先輩って頭いいんだよね!?」
 片足だけ靴を履いたところでストップがかかった。
「え、そんなに良くはないけど……」
「嘘だぁ。お兄ちゃん言ってたもん」
「そ、そう」
「お願いっ!! 宿題手伝って!!」
 合掌。両手を合わせて頼まれてしまった。

「まだ、夏休み始まったばかりだけど……?」
「7月中に終わらせて、8月は思いっきり遊ぶの!!」
 実に千夏ちゃんらしい考え方だった。
 ちなみに僕の宿題は夏休み前に既に大半が終わっている。
 あとは直前に出た宿題を片付けるだけだった。

「ねっ、お願い。カルピス出すから!!」
 ここでYESと答えたらカルピスにつられたことになるのだろうか。
 もともと忘れ物なんてないから別に良かったんだけどYESと言いづらくなってしまった。

 ま、いいか。
 ここは素直にカルピスにつられることにした。
「いいよ。カルピス、濃くしてね」
「原液3倍で持ってくるよ!!」
 いや、それはちょっと困る……と言おうと思ったが既に走り去ってしまっていた。

「で、千夏ちゃんの部屋は……?」
 場所が分からない僕は玄関に突っ立っていることしかできなかった。

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