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 全員が荷物を持ち、廊下に集合した。
 フロントでの清算のあと、井上の母親が迎えに来ているらしいので
 それで無事に帰宅する。ということになっている。

第109話 やっぱり最後は…… <<健吾>>


「全員集まったか? 番号、1!!」
 大佐の号令がかかる。
「2」
「3」
「4」
「5〜」
「ろ、6」
「……7」
「8」
 ここは流れで言っておかないと何が起こるかわかったもんじゃない。
 ちなみに番号は雄二、俺、田村、千夏、谷口、斉藤、結城の順だ。
「よし、では凱旋するぞ。あたしに続け!!」
「「「 イエッサー 」」」
 井上が先頭を歩き、その後をぞろぞろとついていった。

 フロントまで歩きながら雄二を捕まえた。
「おい、なんなんだよこのノリは……」
「俺が知るか。春香に直接聞けよ」
 直接聞いたらノリで済まされそうだから聞けねぇよ。

 フロントについた俺達は一人一人料金を払っていた。
「足りない奴は貸すからあたしに言いな」
 それは洒落にならん。井上に借りを作るほど怖いものはない。
 そして、俺の番が来た。
「高槻様ですね。26,350円になります」
 余裕で足りた。俺の所持金は3万円だ。
「27,000円お預かりします。こちら650円のお返しとなります」
 おつり用の皿に乗った650円と領収書を受け取る。
「ありがとうございます。またのお越しをお待ちしております」
 これでバイト代がパァだ。まぁ、それだけの価値はあったがな。

 荷物を持ち直し、ゲートを通る。これで再入場はできない。
「春香、香織さんは?」
「母さんなら既に駐車場まで来ている」
 雄二が聞いていた。どうやら準備は万端のようだ。
 フロントでは結城、谷口が清算をしていて、斉藤、田村が後で待っている。
「雄二、いくらかかったんだ?」
 コイツは千夏の分と一緒に払っていたはずだ。
「55,000円とちょっとだ。ま、俺の金じゃねぇからいいけどな」
 誰の金持ってきたんだコイツは……。

「徹夜明けか?」
「まぁな」
 雄二の目の下にはしっかりと隈ができていて、誰が見ても疲れているのが分かる。
 斉藤と何かあったなんて微塵も思ってない。
 大方、自分だけ起きていたんだろう。
「頑張ったなぁ」
「俺も自分を褒めてぇ」
 そんなことしなくとも俺が褒め称えてやるよ。


「いやぁ、楽しかったなぁ」
「そうだね〜」
 田村と千夏が俺の後方で話している。
 で、俺の隣には斉藤がいる。
「昨日は眠れたか?」
「うん、とっても」
 声がムチャクチャ不機嫌だった。
 斉藤は俺に対して友好的ではない気がする。

「雄二。お前、斉藤に何したんだよ……」
 雄二に駆け寄り、小声で話しかける。
「その質問。今は却下だ」
 このリゾートランド旅行に最後の謎が残った。

「雄二。雄二にお客さんみたいだよ?」
 先を歩く谷口が振り向いて言った。
 前方を確認すると30人程の男が出待ちをしていた。
「げ、このクソ眠いときに……」
「リベンジャーですな。ウザ……」
 井上も何者か分かっているようだ。


「えっと、悪い。俺の客だ。 闘ろうって奴は手伝ってくれ」
 来客はやはりバトル志望なのか……。
 急にどっと疲れてきた。

「やっぱり最後はこうなるのかよ……」
 荷物を降ろし戦闘の準備をする。当然やるぞ。
「ま、俺達らしいっちゃ、らしいわな」
 田村もやる気のようだ。
「もう、こんなときに……」
 おいおい、斉藤もやる気かよ……。相当イラついてんな。
「何すんの? あたしもやる〜」
「千夏、お前は引っ込んでろ」
 俺は間髪いれずにつっこんだ。
「危ないからな、結城と一緒に待ってろ」
「お兄ちゃんがそう言うなら……」
 雄二もやんわりと止めた。俺じゃダメなんかい。

「僕もやるよ」
 は? 何、言ってんだ谷口。
「自己責任だぞ? 分かってるね?」
 井上も反対だが、やると言うなら止める気はないらしい。
「……分かってる」
「おい智樹。相手の攻撃を良く見ろよ。できる限りフォローはする」
「うん」
 雄二が肯定派に回った。なら、何も言うまい。

「さやか、千夏。あたし達の荷物よろしく」
「OK。車に積んどくわ」
 さすが、結城はこういう状況に慣れている。自分のやるべき事が分かっているのだ。

「そんじゃ、いくよ!!」
「「「 おう!! 」」」
 俺達の前進は戦闘開始の合図だ。 


 井上、斉藤の二人が強すぎた。俺達の倍以上の数を倒している。
「あいつ等、異常だぞ!!」
「言うだけ無駄だろ!!」
 俺の愚痴に田村が律儀につっこんでくる。
 まず井上。問答無用の先手必勝で片っ端から片付けていく。
 そして斉藤。殴りかかってくる相手に合わせて綺麗なカウンターを決めている。

「見えてるじゃねぇか」
「なんとかね!!」
 雄二は谷口と背中合わせに戦っている。
 谷口はなんとか相手の攻撃をかわしている。
 かわしているだけだが、たいした技術だ。いつの間に……。

(俺も負けてらんねぇな)

「オラァ!!」
 ったく、弱いくせにしつけぇんだよ!!
 そのとき、視界の端に木刀を持った井上を見た。
 敵から奪ったのか!?

(や、やべぇぞ……)

「雄二!!」
「おう!! 全員ずらかれ!!」
 伝わった!! 秘技アイコンタクト!!

 その号令を合図に全員迅速に車の中に逃げ込む。
 キャンピングカーの位置は確認済みだったのだ。早急に逃げるために……。

「いいの? 井上さん残してきちゃったけど……」
 斉藤が心配そうに窓から様子を見る。
「アイツに棒状の武器は禁物だ。手がつけられなくなるからな」
「敵味方の見境がなく広範囲で殴るからな」
 俺、雄二の言葉で全員理解できたようだ。


5分後……


 立っているものは井上春香、ただ一人だった……。

「春香っ!! ポリが来る前にずらかるぞ!!」
 助手席に乗り換えた雄二が窓から顔を出し、井上に呼びかける。
 声が届いたのか、井上はダッシュでこちらに向かってくる。
「健吾、ドアを開けろ!!」
「了解!!」
 横開きのドアをスライドさせ井上を待つ。
 井上が乗車したところでドアを閉める。
「OK!! 香織さん出してくれ!!」
 急発進で車はリゾートランドを後にした。

「僕達のやってることって、まるで銀行強盗だね」
 いい例えだ、谷口。
 暴れるだけ暴れて警察が来る前に撤収する。腕のいいテロリストだった。

「けどスッキリしたなぁ」
 田村の意見には同感だが俺は後々の問題のほうが怖い。
「ばれたりしなきゃいいんだけど……」
「正当防衛、正当防衛。気にするこっちゃねぇって」
 田村、お前はポジティブすぎだ。谷口を見習え。

「ふん、降りかかった火の粉を打ち払っただけだ」
「そうそう、大佐殿の言うとおり」
 井上もポジティブ派だった。まぁ、こいつがネガティブになっても怖いが……。

「なんていうか……疲れたな」
「うん……肉体的にも精神的にもね」
 俺と谷口はため息をつきながら肩を落とした……。



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