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 チェックアウトは午前10時だった。超過すると料金は加算される。
 だというのに……この人はまだ寝ている。
 起こすのはやはり僕の仕事なのだろうか……。

第108話 チェックアウトの朝 <<智樹>>


 雄二はいつも井上さんを起こすのに苦労している。
 最終的には打撃を加えて起こしているが僕にもそれをやれと言うのか。
 幸い時間はまだ8時だ。時間だけは十分にあった。
「井上さん、朝だよ」
 ちょっと抵抗があるが軽く揺すってみた。
「…………」
 予想通り、反応なし。

「やっぱり僕じゃ無理かな」
 雄二を呼ぼうか、という考えが何度も頭をよぎる。
 しかし、雄二も有香さんと一緒で何かと苦労してそうだし……。
 それに神無にまた何か言われそうだ。

「よし!!」
 気合を入れて井上さんに向かう。
「井上さん、起きてよ。朝だよ!!」
 さっきより強く揺らしてみた。

 するといきなり井上さんが目を開けて、僕の腕を掴んできた。
「うわっ」
 そのままベッドに引き込まれて、気付くとマウントポジションを取られていた。
「なんだ谷口か……驚かすな」
「な、なな…な」
 井上さんは開いた片手で僕の喉元を捕らえていた。
「揺らし方が雄二じゃなかったんでな……」
 揺らし方って……そんなこと言われてもなぁ。

「と、とと、とにかくどいてくれるかな?」
「ん、すまん」
 井上さんが僕の上から退く。
(しかし、あれは常人技じゃないよ……)
 引き込まれてからあの体勢になるまで何が起きたのか分からなかった。

「起きた?」
「これで寝てるわけないやん」
 いや、井上さんだったら寝惚けててもやりそうだからね……。
「チェックアウトの準備だけはしといた方がいいよ」
「雄二は!? 有香とどうなった!?」
「さぁ、僕は起きてすぐだし……」
 何が起きたかは知らないが、なんとなく予想はできる。
 雄二は有香さんを優先するだろうってことくらいしか分からないけど。

「雄二に聞けば分かるか……。谷口、帰るぞ」
「うん」
 荷物をまとめて帰る準備を始める。

 
健吾's ROOM <<健吾>>

 俺は眠っていたんだが、それをこのガキは……
「健吾〜。朝だよ〜」

ドスッ

「ぐはっ」
 こ、このガキ……
「起きた? 起きた?」
 ボディプレスかましやがった。
「起きたから退け……」
「おっはよ〜」
「はよ退け。重いんだよ」
「……重い?」
 やべぇ、目が鋭くなった。

ドスッ!!

「…………」
 俺の上でジャンプしやがった。俺は何とか腹筋を使ってガードした。
「な、なに……しやがる」
 ガードをしても鈍重なダメージが内蔵を傷める。
「ふん、デリカシーが足りないんじゃないの?」
 うっわ、ガキにデリカシーとか言われたぞ。俺も堕ちたもんだ。

「帰るぞ。荷物まとめろ」
「あたしは準備できてるよ〜。あとは健吾だけ」
「うぃ」
 いそいそと荷物をまとめはじめる。
「あいつら、どうなったんかなぁ〜」
「あいつらって?」
「……さぁな」
 あいつらとは当然、雄二と斉藤のことだ。
 俺は斉藤も井上も応援するつもりはない。どっちかとうまくいけばいい。
 
「ま、アイツはなるようにしかならんよな……」
「アイツって?」
「おまえにゃ分からんよ」
 むくれる千夏を横目に荷物をまとめた。


田村's ROOM <<田村>>

 夜中に結城のやつが斉藤に電話をかけていたな……。
「藤木の奴、妙な気を起こしてなきゃいいんだがな」
「アンタじゃないんだから……」
「アホか!! 俺はかなり高貴なジェントルマンだぞ!!」
 結城はかなり誤解しているぞ!! 心外だ!!

 結城は俺のほうをじっと見てから言い放った。
「……藤木君のほうがマシね」
「なんだと!! アイツより俺のほうが数段上だぞ」
「何で上だと思うわけ?」
 勉強、ダントツで負け。
 スポーツ……ギリギリで負けだな。
 俺がアイツに勝っている部分。

「ほ、ほら、俺のほうがエンターテイナーだろ?」
「……呆れるわ」
「とにかくアイツには絶対負けてねぇ!!」
「はいはい、そうね」
 こ、このアマ。軽く流しやがって……。

「ほら、早く帰る準備するわよ」
「……了解」


雄二's ROOM <<雄二>>

「やっと、朝……か」
 ベッドの上に座っていた俺は隣で眠る有香を見ながら呟いた。
「眠ぃ……」
 完徹してしまった。でもこれでよかったんだ……。
『……ご苦労様』
「おう、おめぇもご苦労さん」
 結局、風華に朝まで付き合ってもらっちまったな……。
「お前って眠くねぇの?」
『あたしは封印時に眠ってるようなもんだからねぇ』
「きったね」
『よく我慢できたわねぇ♪ こんなに可愛い寝顔なのに』
 有香は穏やかに眠っている。確かにその寝顔は可愛いかった。

「からかうなよ……」
 そのせいで眠れなかったってのもあるんだぞ。
『そろそろ、起こしてあげなさい』
「そうすっか……おい、起きろ」
 
ゆさゆさゆさ

『あのねぇ、春香ちゃんじゃないんだからそんなに強く揺すんなくても』
「あ、そうだったな……」
 いつもの癖で、ついやってしまった。
 でも、それでも起きなかったぞ……。

ゆさゆさ……

 今度は気をつけて優しく揺すった。
「起きろ、有香」
「……ぅん」
 あ、起きてくれそうだな。
『じゃ、私は消えたほうがいいわよね』
「おう、サンキュ。風華」
 風華を消して再び有香を起こしにかかる。
「おい、起きろよ。朝だぞ〜」
 しばらく揺すっていた。

「……雄二君。風華使ったでしょ」
 目を覚まして第一声がこれかよ……。
「まぁな」
「それで、自分は徹夜したの?」
「ちゃんと寝たぞ」
「……嘘つき」
 有香はぶすっとしてジト目で睨んできた。
(あ、バレバレですか……)

「ま、まぁ、済んだことだ。とっとと帰る準備しようぜ」
「……ん」
 俺は帰りの準備を夜中に済ませていた。
 有香の準備を俺はバスルームで待つこととなった。



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