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 健吾の提案で始まった花火大会。
 全員参加が決まり中庭に集合、花火代の8分の1を払った。
 だが、俺達がやる花火はやはり正常に行われるわけがなかった。

第105話 非理想的な花火のやり方 <<雄二>>


 健吾が何かをやろうと言うのは珍しかった。
 いつも誰かの企画したものに参加するというスタンスをとっていたような気がする。
 無料でバケツをレンタルして水を入れる。着々と準備は整う。
「じゃ、始めるか……」
 健吾がスタートの合図をすると同時にみんなが持つのはロケット花火。

 智樹、有香、結城。真面目な3人は地面に刺して着火するが……。
 その他5人は真面目じゃないので地面に刺すなど邪道以外の何者でもない。
 
 そう、俺たちは直接手に持ち……投げる。人に向けて……。
「うおっ」
 俺に向かって投げた春香のロケット花火を避けた。
 だが、文句は言わない。これは暗黙のルールなのである……。

「大佐! ランダムロケット完成しました!!」
 健吾がランダムロケットを作っていた。

 説明しよう。ランダムロケットとはロケット花火の棒の部分を除去した物である。
 ロケット部分のみになったロケット花火はどこに飛ぶか分からないのである。
 よって、ランダムロケットと名付けられている。

「よし、非戦闘員は避難! 5つ同時点火せよ!」
「イエッサー」
 これも普通である。いたって普通の花火のやり方である。

 笛無しロケットは最後に火薬が破裂する。
 くらった者は軽度のやけどに見舞われる。
 だが、戦闘員は顔面にくらったりするほど間抜けじゃない。
「ファイア!」
 健吾が点火すると同時に全員が適度な間合いを取る。
 俺、春香2m。健吾、田村は3m。千夏は5m程だ。
 近ければ近いほど避けるのが難しくなっていくチキンレース的競技だった。
 
シュッ

 まさに一瞬である。自分の方向に向かってくるランダムロケットを避ける。
 スリルを味わう方にはお勧めの競技です。

パァン パパァン!

 後方でランダムロケットが破裂する。被害者はゼロ。


「次、サウザントラット!」
「「「 イエッサー! 」」」
 サウザントラット。千のネズミ。要は大量のネズミ花火だ。
 俺、健吾、田村が5つずつ点火し合計15個のネズミ花火が高速で地面を這い回る。
 コイツも最後に破裂する危険な物だ。だが、あえてその領域に踏み込むのが猛者である。

シュルシュル……

 無数のネズミ花火が足元を動き回る。
「踊れぃっ!」
 春香の口調はまるで敵の足元に銃を撃つガンマンのようだった。
 やがて回転が止まり、バラバラに散ったネズミ花火がいっせいに破裂する。

パパパパパァン

「おおう、グレイト!」
 田村が終了と同時に叫ぶ。
「さぁ、本日のメインイベント! これは危険性ゼロ、よって全員参加だぞ」
 俺達の遥か遠く離れたところで普通に普通の花火を楽しんでいた3人を呼び寄せる。

「何をするの?」
 有香の表情はいたって普通。巻き込まれても問題ないからだろうか。
 古武術を使う有香なら戦闘員としてもいいのだが真面目な奴だからな……。

「ふぅ、やっぱりこうなるんだね」
「危険じゃないならいいじゃない」
 諦め気味の智樹とそれを慰める結城。
「智樹、大丈夫だ。絶対楽しいこと間違いねぇから」
 メインイベントを知っている俺は智樹たちに言ってやった。
 あれは楽しいぞ。いや、マジで。

「藤木君、何をするか知ってるの?」
「ああ、花火のときの恒例だからな」
 俺は有香にそう言ってから、全員にロケット花火とライターを渡した。

「じゃ、いくぞ〜」
 特殊な打ち上げ花火に点火して打ち上げる。
「ではルール説明を大佐殿から……」
「うむ、奴を撃ち落とせ。以上だ」
 春香は空を見上げ言い放つ。単純な説明だがそれだけで十分なのである。
 
 奴は上空にあり、ゆっくりと下降してきていた。
 そう、奴とはパラシュートのことであった。
「あれを着地する前にに殲滅せよ」
 これぞメインイベント『パラシュートデストロイ』である。
 パラシュートつきの打ち上げ花火を放ち、それをロケット花火で殲滅する。

 全員がロケット花火を地面に刺し、角度を調整して打つ。
「ちぃっ! 風が!」
 風によって動くパラシュートを打ち抜くのは至難の業である。
 全員が夜闇にまぎれたパラシュートに狙いを定めロケット花火を撃っていく。

 しかし、ロケット花火は一向に当たる気配はない。
「よし、こんなもんかな?」
 そんな中、今まで一発も撃っていなかった智樹がロケット花火に点火する。

シュッ……パァン!

 ロケット花火は見事にパラシュートに当たりパラシュートは空中で爆ぜた。
「おおっ」
「すげぇ!」
「一発かよ!?」
「すっご〜い!」
 春香、健吾、田村、千夏の4人は5発以上撃っていたので面目丸つぶれである。
 俺も3発撃っていたが、まったく当たらなかったのだ。
 それを智樹は一発で当てたのである。 

「なんかやったのか?」
 聞かずにはいられなかった。

「別にたいしたことはしてないよ。
風向きとパラシュートの大きさからだいたいの速度を計算したんだ。
で、すぐ撃ち出せるように導火線を半分にして予測地点に撃っただけだよ」

 それがどれだけ凄いことか分かってんのか……?
「まさか一発で当たるとは思わなかったけどね」
「お前……」
 高校生にできることじゃないだろ、そりゃ……。

「谷口、アンタ凄いねぇ」
 春香がこれを大絶賛だ。このゲームはたいてい当たらずに着地して終わるのである。
 当たったことはない。よって、史上初だ。
「そんなことないよ」
 そんなことあるぞ……。


 その後、普通の手持ち花火を楽しみ、いよいよ最後となる。そう、線香花火だ。
 花火のラストは何故か地味に終わらせるのである。
「蛇花火もあるよ〜」
 俺の中であれは花火じゃない。千夏の言葉をスルーした。

 全員が輪になり線香花火を始める。

パチ、パチパチ……

 地味な火花の輪が広がる。これをやると終わりだなぁと思う。
「おい、やめろよ」
「よいではないか、よいではないか」
 春香が田村の線香花火とドッキングを試みていた。雰囲気ぶち壊しである。

「健吾、旅行も終わりだな……」
「まだ終わってねぇよ」
 俺は春香と田村の光景を視界から外した。
「夜は長いらしいぜ?」
「どういう意味だよ」
「ダブルなんだろ? 大丈夫かよ?」
「……正直、ヤバイ」
 春香と勝手が違う。春香のときですら暴れて倒れるようにしないと眠れなかったのが現実だ。
 有香だぞ? 徹夜するに決まってんだろ。

「斉藤さんに譲って、端で徹夜する予定だ」
「逃げ道……ないのか?」
 逃げ道……。
 春香なら鍵を開けて入ってくる可能性もありうる。
 かといってロックした場合。翌朝、俺の命が危ぶまれる。

「あると思うか?」
「だよな」
 あるなら教えて欲しいくらいだ。

「き、きき、気にしないで……」
 聞かれていたのか……。
 うしろから話しかけてきたのは有香だった。
「お前、真っ赤になりながら何言ってんだ?」
「…………」
 健吾の意見に激しく同意だ。
 耳まで真っ赤にした奴相手にそりゃ無茶ってもんだ。

「は、ははは、ま、まぁ、斉藤さんも気にすんな。俺、ベッドの隅っこで寝てるから」
 
(笑え、うまく笑え。普通に笑って気楽に気軽に……)

「だから、斉藤さんは真ん中で優雅に眠ってくれ」
「う、うん」
 有香が遠ざかってから息を吐き出す。……誤魔化せただろうか。


「絶対バレバレだ。このアホ」
「…………」
 親友に速攻でバレていた。
 やはり俺は嘘をつくのに向いていないらしい。
 新しい線香花火に火をつける。
「嘘つくならなぁ、もうちょっとうまく誤魔化せよ」
「うるせぇよ」
 人間できることとできねぇことがあんだよ!!
 そして俺にとってそれは間違いなくできないことだった。
「徹夜で付き合ってやろうか?」
 魅力的な誘いだが……健吾に悪い気がする。
「いや、いい。なんとかなるって」
「……そうか」
 
 花火大会は静かなまま、一部分だけ騒がしいまま終わりを告げた。

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