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 お昼ご飯を食べたあと、プールで泳ぐ人、仮眠室に行く人
 他の娯楽施設で遊ぶ人とバラバラに別れた。
 あたしは当然、プールで泳ぐ人になった。

第103話 VSお兄ちゃん <<千夏>>


 プール組になった人は谷口先輩、有香姉、お兄ちゃんとあたしで4人だ。
 春姉は「疲れた、眠い」と言って仮眠室に行ってしまった。
 他の先輩達はカラオケに行くと言っていた。
 誘われたけど、まだまだ泳ぎ足りないので断った。
 それなのに、20分も泳がないうちに……こうなっちゃった。

ブクブクブク………
 
 水中から出る泡、泡、泡。
「はぁ〜、やっぱいいなぁ」
 思いっきり寛ぐお兄ちゃん。
「そうだね」
 有香姉も気持ちよさそうだった。

「つまんない……」
 そう、あたし達はジャグジーにもうかれこれ20分くらい入っていた。
「ねぇ、お兄ちゃん。遊ぼうよ〜」
「ん〜、あとでな〜」
 これだもん。一体いつになるのかなぁ?

「千夏ちゃん。僕でよかったら付き合うけど?」
 う〜ん、やっぱり谷口先輩は優しいなぁ〜
「智樹、あんまり甘やかすなよ……」
 谷口先輩がお兄ちゃんだったらもっと楽しいのになぁ……。

「でもさ、千夏ちゃんにとってこれは辛いと思うよ?」
「そうだよ〜、拷問だよ〜」
 早く、一刻も早く遊びたい!!
「この良さが分からんとは……悲しいことだな」
「お兄ちゃんが親父くさいだけじゃん」
「む、そうか?」
 プールでジャグジーを楽しむ高校生なんかお兄ちゃんくらいだもん。

「んじゃ、遊びますか……」
「うん!!」
 ようやくお兄ちゃんが重い腰を上げてくれた。
 
 まず最初にアトラクションプール行ってスライダー行って流れるプール3周して……
 あたしの脳内では既にプランが駆け巡っている。

「ナツ、どこ行きたい?」
「アトラクションプール!!」
「あいよ」

「早く、早く!!」
 お兄ちゃんの腕と有香姉の腕を引っ張って歩いた。
「ちょ、ちょっと千夏ちゃん、そんなに引っ張らないで……」
「そんなに急がんでもプールは逃げねぇよ」
 分かってない。お兄ちゃん達はまったく分かってない。
 プールは逃げないけど、泳げる時間はどんどん逃げていくんだよ!?

 それに、こんなに楽しく遊べる時間なんてそんなにないんだよ?
「ナツ、とりあえず離してくれ……」
「ち、千夏ちゃん。お、おお、お願い、ね? ね?」
 振り向いて、見ると二人が不安定な体勢で歩いていた。
「なにしてんの?」
 お兄ちゃんはいいとして、有香姉の顔が真っ赤だった。

「千夏ちゃん、離してあげなよ」
「ん、別にいいけど……」
 先輩に言われて、あたしは両手を腕から離し、歩き出した。
「二人ともくっついて歩いてるのが恥ずかしいんだよ」
 先輩が耳打ちして言ってくれた。
 あ、そういうことだったの? ふぅん。

 確か、お兄ちゃんと有香姉って今日は一緒に寝るんだよね。
 懐かしいなぁ。あたしも小学校の頃、よく一緒に寝てたな……。

「さ、遊ぼっか?」
「うん」
 先輩があたしをプールに促す。

トンッ
 え?

 プールサイドで突然、背中を押された。
 あたしは爪先でバランスを持ち直そうと頑張った。
 両腕をぶんぶん振り、ふらふらと前後に揺れている。

「おお、やるなぁ」
 押した犯人はお兄ちゃんだった。
「な、んの〜」
 何とか持ち直すことができそうだ。
「ナツ、諦めて落ちろ」
 
ちょん

 お兄ちゃんがあたしを指一本で軽く押した。
 あたしのバランスをマイナス方向へ持っていくにはそれで十分だった。
「卑怯者〜!!」
 振り向き様にあたしは見た。ニヤリとサディスティックに笑う兄の顔を……

 水中で思った。
 藤木千夏、勝負の時だ。と……
「てぇい!!」
 水をお兄ちゃんの顔面にかけて視界を無くす。
 プールサイドから這い出て、お兄ちゃんの足をつかんで引きずり込もうとするが……。
 まったく微動だにしなかった。

「まだまだ甘いな。千夏」
 そのまま体を持ち上げられて……
「ほれっ」
「あ〜っ!!」
 またプールに投げ落とされた。
 ……やはりお兄ちゃんには勝てそうもない。

「…………」
 プールから顔だけを出し思いっきりお兄ちゃんを睨んだ。
「そんなに睨むな。お前が無謀だったんだぞ?」
「…………」
「分かった。俺が悪かった。な?」
 ぽん、とあたしの頭に手をやる。

「そろそろ僕達も入ろうよ」
「待ちくたびれたか……。なら、入れてやるよ」
「うわっ」
 お兄ちゃんに押されて、先輩がプールに突き落とされた。

ザッパーン!!
 
 水しぶきが上がり、あたしにも水がかかる。
「やってくれたね。雄二……」
 先輩が立ち上がって言った。お、怒ってる?
 ここは唯一お兄ちゃんと一緒にいる人の出番だ。
「有香姉!! お兄ちゃんを突き落として!!」
「え!? 私!?」
 有香姉しかお兄ちゃんに報復できる人いないでしょ!!

「斉藤さん、やるか?」
 雄二が有香姉に向かって構える。
「や、やらない」
 にゃ、にゃにぃ〜!?
「裏切り者〜!!」
 肝心な時に裏切るとはぁ!!
「そ、そんなこと言われても……」

「さ、俺達は普通に入ろうぜ」
「……うん」
 普通に入ってくる二人。
 このまま許してよいものだろうか……。いや、断じて許しちゃいけない!!

「油断大敵、だよ。雄二」
「げっ」
 いつの間にか水中に潜っていた先輩がお兄ちゃんの片足を持ち上げてジャンプした。
 その結果、お兄ちゃんはプールの中に倒れた。

「水中じゃあそんなに重くないからね……バランス取れないだろう?」
 か、格好いい……。
 最高!! 最高の報復だよ先輩!!

「智樹……。いい度胸だ」
「これでおあいこだよ。正当な行為だと思うけど?」
 そうだ。そうだ。
「んなもん関係あるかぁ!!」
 あたし・先輩VSお兄ちゃんのアトラクションプールバトルが始まった。

 あたしも先輩も何度も沈められたがこちらも負けてはいなかった。
 二人がかりで裏投げをしたり背中から襲い掛かって沈めたり……。
 結局、散々暴れるお兄ちゃんを宥めて止めたのは有香姉だった。



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